サポセン時代の思い出
昔はコールセンターでサポートデスクをしていた。天職だと思っていた。自分が力を尽くして他の人のトラブルを助けることができる。大手プリンターメーカーのときは2週間もかけて原因を特定し、かなりの「裏技」をつかって解決をした際は、自筆の手紙をもらったこともあった。
そんな私が、電話を二度と取らないと決意した事件があった。最後に言うがちょっとした事情があってこのことを書いていきたいと思う。今はもう、サポートデスクなんてロクに機能しないんじゃないか、と思うほどのトラブルであった。
サードパーティー製のインク、いわゆる非正規品を売る会社で電話を取っているたときだった。中国製品がまだまだ粗雑だった時代で、企画が合わない、認識をしないなどのトラブルが続き、それをすべて交換や電話サポートで処理するのが日常だった。
発端
ある日の電話である。
「見慣れないところにバリがついている」
と女の人で電話があった。聞くと電子部品を覆うプラスチックのバリが取れていないようだった。このままセットすれば、プリンターの電子部品を傷つける恐れがある。
私は
「状態を確認したいので送ってほしい」
と言った。その人はすぐに対応するといってくれたが、なにか嫌な予感のした私は
「絶対にセットしないでください」と言った。
「セットすると故障する恐れがあります。」
「わかりました」
しかし、まだ私は不安があった
「絶対にセットしないでください。セットして壊れても責任をとりませんので」
もちろんインク購入時の説明書には「セットしてトラブルが起こっても責任はとりませんよ」と書いているのだが、それがトラブルになるので念を押した。
お前か?
それから15分後、私を指名して電話があった。ジジイの声だった
「お前か?」
いきなり「お前か?」である
「なんでしょうか」
「お前のインクをセットしたらプリンターが壊れた」
「え!セットしたんですか!?」
「当たり前だろ。インクはセットするもんだろうが」
「私が先程電話を受けたときは、セットせずにこちらに送るようにいいましたが」
「知らん」
「セットしてトラブルが起こっても責任は取らないといいましたが」
「聞いてない」
「先程電話した女性の方にいいました」
「女房には言ったかも知れないが俺は聞いていない」
「インクはどうしました?」
「はずしたら、なんかプリンターについてた電子部品が取れた」
最悪である
一旦折り返すと切り、上司に相談した。元ライブドア課長の怖い女性だ。
実はここにも敵がいた
「どうしましょう…」
「セットするなって言ったんでしょ?」
「はい」
「規約説明して責任は取らないと言ったんでしょ?」
「はい」
「だったらそういいなさいよ」
そう言えといおうが納得するわけもないだろ…と電話をした
「どうした?」
「やはり確認しましたがセットするなとも責任は取らないとも言ってますし、そもそもトラブル発生の際はお客様の責任となると書いてますし」「は?」
は?じゃねえよ日本語通じねえのか
「お前じゃダメだ、上司をだせ」
上司を見て代わってもらうアクションをするが、インスタントメッセージは「お前が責任もって処理しろ」とだけ書いてある。
「すいません、上司ではなく私の対応となりますが」
「んじゃあお前が治せ」
「ですから…」
「ですからじゃねえよお前んところのインクが壊したんだろ治せよ」
「いやそれは無茶ですよ」
「お前が治せ」
「無理です」
「わかった。訴訟だ訴訟」
「いやそもそも訴訟でもお客様のほうに責任があるんですけども」
「生意気言うな訴訟だ」
再び報告に行く
「訴訟するそうですよ」
「訴えても勝てないんだからそのままにしておけ」
「いいんですか?」
「ただしお前が担当した案件だからお前が全部責任取れよ」
「はい?」
もうむちゃくちゃである。
「と、とりあえず一旦プリンター送ってもらいましょうか」
「なんで?」
「いや、もう解決の糸口ないでしょ」
「ないよね」
「私の責任では負いきれないんで上司に相談してるんですが」
「上司の私の判断はお前の責任だから全部処理しろ、だ」
「……。」
私は泣いていた。なぜ電話を取ったのか、なぜ根回しをしたのに私が悪いようになったのか。
ここまで応対に5時間かかっている。12時過ぎに受けた電話は5時を回って猶も事態の収集を受け付けなかった。他にもやらなければいけない仕事が山のようにある。それらを全部ブンなげてこんなことをしなければならないのか…
18時過ぎ、折返しの電話を入れ、とりあえずプリンターを預かることにした。送料は会社の負担で、様子をみて対応を連絡すると告げると、ジジイは満足そうに「最初からそうすればいいんだよ。何時間無駄にしたと思ってるんだ」と吐いた。
地獄への一本道
しばらくしてプリンターとインクが送られてきた。やはりインクのバリは致命的で、これが電子部品を剥がしたのは明らかだった。何度セットしても認識しない。プリンターを修理しなければいけない。
上司に報告した
「これはプリンターの修理が必要です」
「それで?」
「修理に出したいと思うのですが」
「わかった。じゃあそこのプリンター用の箱にいれて、修理センターに連絡して」
だが、私は知っている。このプリンター、業務用のごついやつで、修理のお金が5万以上かかることを。ましてや電子部品となると、全部交換しないといけない上に、サードパーティーが原因で壊れたのは、修理保証に入っていても全額負担になるのだ
鬼村、キレる
修理センターに送られたプリンターは、程なく修理されて帰ってきた。
修理代金は会社が出した。私は修理が完了したことを伝えるべく電話をした
「どうした?」
「修理しましたのでお返しします」
「お前らが勝手に修理したんだよな?」
「はい?」
「俺は修理しろなんて言ってねえよな」
(訴訟するとはいいましたが…)とは思ったがいわなかった。
「修理しないと解決しないと思いましたので修理しましたが」
「よしよし、だから俺は修理しろと言ってないし、お前らに非があったから修理したんだよな」
「はい?」
「お前らのインクをセットしたからプリンターが壊れた。だから修理した。まちがいないだろ?」
「セットするなともいいましたし、責任はお客様側だとお伝えしたはずですが?」
私がイライラしていうと
「何を開き直ってんだこのクズが、訴訟するぞ?」
私の中で、何かが決定的に壊れた。
「だったらもう一回壊してプリンターお返ししましょうか?」
「お、こんどは脅迫に横領か?」
「…もういいです。お返しするんで。それで終わりです」
「勝手に終わったことにするな。対応次第ではお前らに責任とってもらうからな」
電話を向こうから切られたので上司にエスカレーションした。
「プリンターお返しして。それからお客様に喧嘩売って何やってるの?」「すいません」
「それから…」
「修理費用、あんたの給料からさっぴいとくから、8万8千円」
「え?」
「え?じゃないでしょ、あなたの対応がまずかったから修理することになったんでしょ。あなたの責任でやったことなんだから、あなたが出しなさいよ」
「修理出す時そんなこと言わなかったじゃないですか」
「会社が出すと思ったの?」
「なんで会社が出さないんですか?!」
「あなたの案件だからよ、そんなの決まってるじゃない」
「ケツもたない上司がなに偉そうにしてるんですか」
もうどうでもよくなった私は上司にキレた
「そもそもあんたがケツ持つ話を、こじれるの確定してるから俺に押し付けたんだろうがあんた!」
「上司になんて口きいてるのよ、わかってるの?」
「わかってるにきまってんだろ。こんなクソ会社だと思わんかったわ」
おれはヘッドセットを机に置いて荷物を手にとった
「なにしてんのよ」
「辞めますよ。やめてやりますよ。今この瞬間で辞めますよ。ケツももたねえ上司のいる会社にになんで忠誠ちかわんといかんのや」
「逃げるな!」
「逃げてんのはてめえだろうが!」
後にも先にも、女性に手をあげようと思ったのはこの一瞬だけだった。
「やめるならやめればいいけど、この案件は処理していけよ」
「……」
電話をとってジジイに連絡した
「私この案件外れることになったんで、あとは別の人が引き継ぎます」
このあとのジジイの言葉を、俺は一生忘れないだろう。
「そうか。あれか?俺がお前いじめたからか?ははっ、すまんなー」
この会社は鹿児島の建設会社で、この時もしこの会社が九州でなかったら、多分放火か殺人に行っていたことは間違いなかっただろう。まあその時は私も無事ではすまなかっただろうが。
コレを書いた理由
あれから12年が過ぎた。
この「ははっ」ってバカにしたジジイの声は、時々夢に思い出すのだが、残念なことに会社の名前と電話番号、ジジイの名前は忘れてしまった。一生かかってでも償わせてやると思っていたのだが、案外12年程度で忘れる恨みだったのは心外だった
あ、ちゃっかりと8万8千円は給料から引かれてました。
あれ以来、電話を取る仕事は無理だと思い、エンジニアに戻ってしまった。客のほうが悪知恵を身に着け、傲慢になった今では、モンスタークレーマーに対応するのも一苦労だろうと思い、もうコールセンターには、私の能力では戻れないレベルになってると思う。
しかし、名前と会社名を忘れるほどになった今、このことすら過去にしてしまう
自分の頭の悪さに腹がたってきたので、
せめてこれ以上わすれないように、こうして記録にとどめておきたいと思う。
名前も会社も忘れたが、俺はあのジジイを笑い声とやったことを一生許さない。
一生許さない。一生許さない。
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