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全米プロゴルフ選手権が何故メジャーなのか?

ゴルフには、4大メジャーと呼ばれる大会があります。「マスターズ」、「全米オープン」、「全英オープン」、そして「全米プロゴルフ選手権」。それぞれの大会には特色があり、「なるほどメジャーだ」と言わしめる要素がてんこ盛りです。それぞれの成り立ち、ご存知ですか?その中でも、全米プロだけ、テーマが曖昧な気がする人いませんか?何故「全米プロ=全米のプロゴルフNo.1決定戦」が世界のメジャーになったのでしょうか。ちょっと掘り下げてみましょう。

メジャーって何?

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実は、メジャーには明確な基準がありません。世界の主たる競技団体(PGA TOUR、EUROPEAN TOUR、ASIAN TOUR、JGTO等)がこれらの大会を特別扱いし、世間が「メジャー」と認識しているだけとも言えます。歴史を遡ってみると、1800年代は、全英オープンと全英アマが最もレベルの高い競技が行われているということで、最初の「メジャー」と言われていた時期がありました。その後、1895年に全米オープンと全米アマが誕生してからは、この2つを加えて全4大会が「メジャー」と呼ばれていました。マスターズが誕生したのはそれから40年後の1934年。マスターズが発足した頃は、Augusta National Invitationalと呼ばれ、招待を受けた名手たちが集っただけの大会から始まっていますから、マスターズも、最初はメジャーという扱いを受けていませんでした。現在の4大メジャーとなったのは、明確な基準はありませんが、1960年代、アーノルド・パーマーの出現により、プロゴルフが興行として一般的になり始めてからです。1960年、マスターズと全米オープンを勝ったパーマーは、「全米プロと全英オープンを勝てばグランドスラム。偉大なボビー・ジョーンズに並ぶような偉業となる」とメディアに書き立てられてからだと言われています。(ちなみにボビー・ジョーンズは全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマの4タイトルを1年で勝ち、当時のグランドスラムと言われるものを達成しました)その頃、他のプロゴルファーの間では、米国で開催されている「ウェスタンオープンこそがメジャー」との意見もあったようなので、その頃も割と基準が曖昧だったわけです。

では、現代の4大メジャーは本当に4大メジャーに相応しいなのでしょうか?他にもっと凄い大会があればメジャーと呼ばれても良いのではないでしょうか。

マスターズはメジャーだ

松山英樹選手が日本人初優勝を飾ったマスターズは、球聖ボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツが創り出した大会です。素晴らしいオーガスタナショナルGCの映像とともに世界中に放映され、憧れの舞台として年々価値を増してきました。グリーンジャケット、マグノリアレーン、アーメンコーナー・・・数えればキリがないほどのアイコンが存在し、まるで魔法がかかったような雰囲気を醸し出しています。マスターズには予選会がなく、出場するにはマスターズ委員会から招待状を受けるしかありません。その参加資格は、世界トップ50、PGAツアー優勝者、全米アマチャンピオン等など、実力があっても中々参加することすら叶わない大会です。会場となるオーガスタナショナルGCもまた、メンバー同伴でなければプレーすることが出来ない、ある意味謎のベールに包まれたような、妖美な場所が、年に1週間だけ、マスターズとして世界が注目するという、なんともファンタジックな大会です。なるほど、夢の大会。これはメジャーですね。

全米オープンもメジャーだ

全米オープンは、全米ゴルフ協会(USGA)が主催する大会です。1894年、米国に未だ41コースしかなかった頃、米国で2つの非公式の「全米No.1を決める選手権」が開催されていました。ロードアイランドのニューポートCCと、ニューヨークのセントアンドリュースGCで開催されていた大会です。そういった背景から全米のゴルフを統括する団体の必然性を感じた関係者たちがUSGAを作り、1895年に誰もが出れるオープン競技「全米オープンゴルフ選手権(US Open Championship」とアマチュアのみ参加できる「全米アマチュアゴルフ選手権」が誕生しました。世界最大のゴルフマーケットであるアメリカのゴルフ協会が主催する大会だけに、1895年の初開催から現在に至るまで、数々の猛者が挑戦してきました。また全米オープンの特徴は、マスターズと違い、「オープン競技」だということです。つまり、実力があれば、誰でも予選会に挑戦することが出来、頂点を目指すことが出来るのです。それこそ、街一番の腕自慢たちがこぞって予選会を受けます。毎年約1万人が予選会に挑戦しますが、出場できるのは一握り。地元では無敵を誇る腕自慢たちが予選会で多く散っていきます。見事出場権を獲得した選手たちは、ローリー・マキロイやダスティン・ジョンソン等、世界のトッププレーヤーたちと同じ舞台に立つことが出来るのです。全米の名門と言われているコースで開催されることが多く、コースは、ラフ深くグリーンが硬くて早い超難関セッティング。多くが弾き返され、誰もが頂点を目指せる全米一決定戦。なるほど、これもメジャーですね。

全英オープンも当然メジャーだ

全英オープンは、1860年に初開催された世界最古のゴルフトーナメントです。ゴルフ発祥の地とされるスコットランドで始まった大会で、ゴルフの聖地セントアンドリュースを含む、リンクスコースを舞台に毎年開催地を変えながら開催されています。日本では全英と言ってますし、アメリカではブリティッシュオープンと言っていますが、正式にはThe Openですので、「これこそがオープンだぜ」というプライドを感じます。英国人はブリティッシュオープンとは言わないですし、欧州人にしてみれば、全米オープンよりも価値のある大会と思っている傾向があります。広く予選会が行われていますし、全米オープンが「米国一」を争う大会なら、全英は歴史的に「ゴルファーNo.1」を争う大会として成熟してきた背景があります。ゴルフ発祥のリンクスコースで開催される、世界最古の大会。これも間違いなくメジャーですね。

全米プロって、もしかして地味?

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では、全米プロゴルフ選手権はどうでしょうか?主催は全米プロゴルフ協会(PGA of America)で、他の3大会とは違い、アマチュア資格を持つ選手は出場できない大会です。1916年に誕生した同大会は、メジャーの中では、全英、全米に次いで歴史深い大会でもあります。同年に発足した全米のプロゴルファーを統括する団体、Professional Golfers Association of Americaのメンバーは現在約29000人。レッスンだけに留まらず、ゴルフ場やプロショップの運営など、今や米国のゴルフ産業に欠かせない「ゴルフのプロ」です。発足当時は、ゴルフ産業もそれほど大きくなかったので、ゴルフを生業とする人口=プロも少なく、ボビー・ジョーンズをはじめとする、「プロよりも強いアマチュア」が多く存在しました。そんな背景から、全米プロよりも全米アマの方が強者が集まると言われていた時期は長く、全米プロがいわゆるメジャーとして認知され出したのは、プロゴルフが興行として大きくなり始めた、1960年代頃のことです。

「4大メジャー」の定義が「世界で最も強いフィールドが集まる4大会」だとすれば、PGA of Americaが主催する競技よりも、今やPGA TOURが主催するTHE PLAYERS CHAMPIONSHIPの方がレベルが高いのでは?という議論は実際に多くあります。他の3大会と比べ、全米プロの立ち位置は少し必然性を感じにくいというのは、確かに否めません。全米プロはメジャーに値する競技なのでしょうか?

全米プロは、世界のゴルフプロを象徴する競技

全米プロは、前出の通り、PGA of Americaが主催する競技です。PGA of Americaは、全米のゴルフプロの協会、集団です。全米にあるゴルフ場やゴルフクラブの殆どはPGA of Americaのプロが在籍し、彼らが運営を司っています。レッスンだけでなく、経営学やマネジメントを学んだ彼らは、ゴルフのプロ集団。ゴルフが大きな産業になればなるほど、そんなプロ集団が主催する競技は価値を増すとも言えるでしょう。PGA TOURなどで活躍するツアープロが世界的に人気があるのは当然ですが、それぞれの街やクラブでは、PGA of Americaのプロ達が尊敬され、多くの場合、地元で一番ゴルフが上手い人=PGA of Americaのプロという図式になるケースが多いです。

また、マスターズ、全米オープン、全米プロと比べ、最も強い競技者が集まるメジャーであるという見解もあります。例えばマスターズが「世界ランクトップ50」「前年のPGA TOUR優勝者」「歴代優勝者」など、ごく限られた選手、100名前後しか出場出来ないことに対し、全米プロの出場資格は、大きく分けると「世界トップ100」「PGA TOUR上位70名」「歴代優勝者」「過去5年のメジャー優勝者」など、その年の世界のトッププレーヤーが156名集います。現時点で最強のプロゴルファーだけが世界中から集まる、と言うことです。ちょっとメジャー感が強くなってきたでしょう。

Team of 20の価値は「オラが街のプロゴルファー」

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そして、その世界最強のフィールドに加わるのが、「Team of 20」です。「Team of 20」は、「PGA Professional Championship」上位20名に与えられる出場資格です。「PGA Professional Championship」とは、全米中でゴルフ業務に従事するPGA of America会員=プロフェッショナルゴルファーが参加できる大会で、「会員29,000人中の最もゴルフが上手い20名」ということになります。このステータスはとても尊重されるもので、それこそ「オラが街のプロゴルファー」が地区予選から全国大会に勝ち上がり、最終的にこの「Team of 20」に入ることを目指し、それを地元クラブが応援するのです。地元のクラブは当然盛り上がりますし、業務に従事しながら、限られた時間で技術を磨き、そのゴルフ力を発揮した彼らはとても尊敬されます。「自分のクラブにも凄腕のプロがいるんだぞ」「街の誇りだ」「みんなで応援するぞ」と、全米プロを間近に控えた週末、「Team of 20」の地元は大盛り上がりしていることでしょう。全米プロは、PGA of Americaにとって、大きなアセットですから、それを付加価値として全米のゴルフ全体が盛り上がるようにマーケティングしているのです。この図式は、全米オープンや全英オープンでも見られることですが、米国のゴルフの特性上、「ゴルフ場に集う仲間=クラブメンバー」というコミュニティーが強いですし、PGA of Americaメンバーの力も強いですから、その代表選手が世界最強に立ち向かう図式というのは他の3つのメジャー大会と大きく違った魅力と言えます。

まとめ:全米プロはメジャーに値するか?

個人的見解としては、全く値すると思っています。ゴルフという市場がプロゴルフと一緒に大きくなっていったという背景を考えると、他の3つと違った大義が大きい、素晴らしいチャンピオンシップだと思っています。「メジャー」は、いわば、大衆が認めた価値です。世界最大のマーケットである米国の市場とともに成長する全米プロが、メジャーの一角として評価されるのは妥当だと思います。「第5のメジャー」と呼ばれるTHE PLAYERS Championshipが全米プロの代わりと評価されるのは、まだ先でしょう。

チャンピオンシップとマーケットの拡大の関係性

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2020年から「柏オープンゴルフ選手権」という選手権を地元の有志達と千葉県柏市で立ち上げました。柏オープンは、柏市で開催される小さなオープン競技で、予選会を勝ち上がった選手、全国のツアープロ、地元で活動するプロゴルファー達が集う大会です。賞金総額は未だ300万円に満たない大会ではありますが、YouTube生中継も行い、地元のゴルフ関連施設は大きく沸きました。柏オープンは主に、競技、ゴルフを通じて地域活性化することを目的としています。「地元で活動する選手達にスポットライトが当たる大会にする」というのも、大きなテーマの一つです。練習場で凄い球を打っている青年、いつもレッスンしてくれるプロ、ショップの店員など、地元の選手達は、柏オープンで「チーム柏」として紹介されます。選手権で彼らが活躍していれば、「彼のこと知ってるよ!」「レッスンを受けてるプロだ!」「彼にクラブを選んでもらっているんだ!」と、どこか誇らしい気持ちになると思います。実際、第1回大会を終えてみると、柏オープンで活躍した選手達は、地元ではちょっとした有名人になっています。その価値を上げていくことが、選手権が担うマーケットへの影響力だと思っています。ちょっと宣伝臭くなりましたが、柏オープンは、地元に必要とされる選手権になっていくと考えています。

最後に。「日本オープン」は、「第5のメジャー」を目指すべきだと常々考えています。世界で2番目に大きなゴルフ市場を持つ日本のナショナルオープンが第5のメジャーをホストしていたとしても、不思議ではないでしょう。実際にそうなるかは別として、それだけの価値がある大会になるためのビジョンは明確に浮かびます。



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