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庇を貸す夢

もちろん、母屋をとられる夢だった。
…もちろん?

雨が降ってきた。
軒先に中学生くらいの、制服を着た数人が雨宿りしている。
わたしは、ずっと家にいる。いわゆる引きこもりというやつだ。
だから?外の子供達が、じつは嫌でしょうがない。怖い。
でもチャイムが鳴る。
居るのはわかってるぞ、と言わんばかりに何度も鳴るのでしかたなく出る。
と、
やはりあの中学生たちだ。先頭にいる男の子がたいへん殊勝な様子で
雨がひどくなってきたので玄関の中に入れてくれと言う。
お願いします、と手をあわせられ、しかたなく中に入れる。
狭い三和土が4〜5人の子供達でいっぱいになる。騒がしい。
なんでよその家の玄関でこんなに騒げるのか。
とうとう数人が上がり框に座っておしゃべりしだす。
廊下を行き来するたび彼らと目が合う。
まだ帰らんのか、と、そのたび思う。
不穏だ。すでに不穏だ。
いつの間にか、彼らは居間に移動していた。誰が上げたんだ。わたしか?
わたし以外、家族は不在なのだ。
でも許可した。許可したような気がする。した覚えはないが、しかたない。
喉渇いた!と口々に言う。そりゃあんなに騒いでたんだから渇くだろうよ。
コーラとか無いですか、と言ってくる。あつかましい。無いよ。
麦茶しかないです。
えー。じゃあいいやそれで。
なんだこのでかい態度。すごく嫌だ。でも麦茶をもっていく。
頼まれもしないのに菓子盆をいっぱいにして持っていく。
最初からそうだ。わたしは、彼らが怖いのだ。怖いから媚びてる。
彼らの居場所は、居間から応接間に移動している。
お茶と菓子盆を置いたわたしを、邪魔しないでというように追い払う。
勝手にゲーム機をひっぱり出し、勝手にテレビにつないで遊んでいる。
もう6時、もう7時。
いつになったら帰るんだ。彼らの家で夕飯が待っているのではないのか。
わたしは怖くてしょうがない。
彼らが。そして、彼らを家に上げたわたしを、叱るであろう両親が。

ふと気付くと、静かになっている。
そっと覗くと、もう彼らはひとりもいない。
ひとことも声をかけずに帰ったんだ、という気持ちより
いなくなってくれた安堵のほうがより強かった。
応接間にはゲーム機が出しっぱなし繋げっぱなし画面映りっぱなし。
小袋に入っていた豆菓子が撒き散らされ、いくつかは踏みつけてある。
わざとやったんだ、とわかる。
わたしはひたすら悲しかった。
怒りはない。理不尽さも感じない。
ただひたすら、
これはわたしを傷つけるためにわざとそうしたんだ、ということに
まんまと傷ついて、泣きたくなっていた。


夏至の夜は夢を見やすいと聞く。
その夢は、夏至から冬至までの、来たる半年間を占うものだとも。
わたしは夏至の夜、みっつ続けて夢をみた。
夢の良し悪しはわからない。
未来の良し悪しもわからない。

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