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人気作家と温泉旅行に行く夢

作家の江國香織さんを含む大勢で、鄙びた温泉地を旅行した。
と、いう夢を見た。
(もちろん江國香織さんとは一面識どころか全く何の繋がりもなく
私が一方的な読者であるだけです)
こんなふうに、わたしの夢には時々、有名作家が知人として出てくる。

ところで、
自分が「読者である」というだけの関係では、
作家さんにどんな呼称をつけるかって けっこう迷いますな。
「だれとかの新作、良かったよー」なんて、人と会話する時は呼び捨てだし
SNSとかで話題にする時は「だれとか先生」って言ってるな。
しかし呼び捨ては不躾な気がするし、かといって「先生」はなんだか、
うやうやしすぎると言うか、かえって知人ぽくなっちゃうというか。
いや、何だろう。なんだか躊躇するのでした。

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夢の話。

江國香織さんは 紙袋ひとつで待ち合わせ場所に現れた。
(これは、新井素子さんが作家仲間と旅行に行く時に 紙袋ひとつで現れた、という実際のエピソードに影響されてるんだと思う)
集合場所は温泉の最寄り駅。
やがてメンバーが揃い、皆でつらつらと歩き始めた。

賑やかだった駅前から、5分も歩くともう周囲は畑や田んぼになった。
未舗装の細い道を(細い道だから)一列になって、黙々と進む。
と、廃校になった小学校らしき建物が現れた。
この廃校が、建物をそのまま流用して温泉宿になっているのだ。

客室に上がる前に まずはお湯に入ろう、ということで 浴場に向かった。
浴場には校舎の裏手から入る。
コンクリートの校舎裏。雑草。やわらかな日差しがやたら心地良く
若葉に陽が反射してチラチラするのを見ながら わたしは、
プールの授業が終わった時間みたいだ、なんて思っていた。

家族湯に、江國さんとわたしで入る。
入り口を抜けると、中はすっかり雑草だらけになっていた。
下駄が置いてあって、
どうやらそれを履いて湯船まで行き、下駄履きのままお湯に入るらしい。
膝上くらいにまで生い茂った雑草をかき分け、タイル張りの湯船にたどり着く。
江國さんは下駄を脱いで湯船に入り、
「底が藻だらけだ。そうか、だから下駄履きで入るのか」
と、やや困ったような笑顔で言った。
「でもぜんぜん、嫌じゃないよ。裸足でも」

ちなみに、浴衣も着たままでお湯に入ったよ。
わたしはどうしても、下駄を脱いで裸足で湯船に入る勇気が出なかった。
藻だらけなんでしょ? 下駄履きのまま湯船に入る。
ぬるく、鉄分を含んだ茶色のにごり湯は、すごく体が温まって心地よかった。

わたしと江國さんの2人は、泊まらずにまた駅まで戻った。
その駅はなぜかちょうど、江國香織フェアをやっていて、そこらじゅうに
例えば横断歩道の壁などに、ずらーっと、小説の中の印象的なセリフを抜き出して貼ってある。
紙に大きく印刷したものを、一文字ずつ人の手で貼っていったようだ。
なかなかに、中学高校の学園祭っぽい手作り感。
江國さんは、
「こういうのが曲がってると、文字のチカラが下がる気がしちゃうのね」
と言って、
ガタガタに曲がって貼られたそれを 綺麗に揃えて貼り直していた。
このひとは、こんなふうに、フェアなどを催されたりするほどの立場でも、
無駄に照れてみせたりせず
また、人任せに投げたりもせず
丁寧に丁寧に、対応してきたひとなんだな、
と納得した。

そんな夢。


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ちなみに、
作家に「先生」と付けて呼ぶのを躊躇うのは、過去に自分がそうされた時
けっこう気後れして 申し訳ないような気持ちになった経験があるからでした。
夢の中で、作家は「先生」と呼ばれ、
それをスッと受け入れ、覚悟のある静かな横顔を見せていた。
これだな、こういう覚悟が、わたしには足りてなかったんだな、などと
わたしは思っていたのでした。

おわり。

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