彼女は夢の中

小さな本をパタリととじて、少女は母のひざに頭をあずけます。
少女は思い出しているのです。本の中のふたりの友だちを。
歩くふたりについていって、ときどきふたりを引っぱって、こっちだよ、ふと少女はつぶやきます。
母は答えずに、柔らかく少女の頭をなでました。
いつのまにか少女は夢の中、母のやさしい手のひらのリズムの中にいました。
あかるい太陽の下で、三人でうたを歌いながら、
手をつなぎ顔を見あわせておどっていました。
母は本をかかえて眠る少女にキスをして、そっとベッドに寝かせました。
それからとなりに横たわり、もう一度キスをして、
いっしょの毛布に包まりました。
少女の笑顔を眺めながら、母は、今日と同じささやかな一日をずっとくり返す夢を見るのだろうと思いました。
それでそのうちに、少女の体温と毛布の温もりに包まれて、思う通りの夢の中に、いつの間にか吸い込まれてゆくのでした。

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