ひしゃげた輪郭

二日前、庭の石畳にあった蝸牛を踏み付けた
犬を散歩に連れて行こうという前だった
おぞましい悪寒を覚えると僕の身体は瞬間に痙攣する

パキ、
靴の裏 覗くと割れた破片。

くらくらともつれながらそこを離れて、
直後にはこう考えた
「なに、大きいだけだ」
現に俺は今も微小の虫を踏んで殺している
心地好く涼しい夜道に犬を歩かせている

昔から蛙の鳴き声が嫌いで、
これを聴くと破裂した身体、飛び出た内臓と滲み出た体液の想像を思い出す
川べりでさんざめく夏は疎ましい
靴の裏のあの感触が音になって体全体を包み込む 神経を伝ってうねうねと 俺は溺れた様に強張っていく 「痛い、痛い……」

今日はスライスされた豚肉を食った
平行に美しく並んだ筋を噛みちぎる
染み出た脂がねっとりと舌に絡み付く
感覚の弱まるまで繰り返し咀嚼する
「旨い、旨い」--
正面の父が目を合わせず頷く
意図もなく、表情は柔らかく

庭の蝸牛には蟻が群がっていた
そのグロテスクをどうとも思わないのか?
はみ出た身に近づいてまじまじと眺めると、案外肉の詰まってフランス料理の様に旨そうだ

歩きながら俺はそういうものだろうと考える事にした
寺の入口には看板が立て掛けられている
「まるで眠っているみたいね。」
真っ白に塗られた祖母の頬を撫で、慈しむように見つめる母の瞳の記憶があった
それから火葬炉、骨揚げの光景

「生命は目に映るその輪郭か?」
パキ、パキ、パキ
思い出す限りの生が脳内でひしゃげていく

昨日電柱の灯りの下で車に轢かれた猫は明日には片付けられている
「ナナ、お前も潰されればああいう風になるのか?」
突如、イヤホンの隙間、背中からクラクションの癇癪が侵入してきた様な妄想に振り向き 僕は慄いた。

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