クリスマス前に考える金融経済教育

※これは「Funds Advent Calendar 2023」17日目の記事です。


はじめに

はじめまして。法律事務所からFintechスタートアップであるファンズに出向中の弁護士の平山と申します。
今回、ファンズの一員として、当社の年末恒例であるアドベントカレンダーの記事を投稿する機会をいただきました。

ちなみに、「アドベントカレンダー」とは何かを知ったのは割と最近なのですが、我が家でも今年からアドベントカレンダーを設置し、クリスマスのカウントダウンを楽しんでいます。

6歳の子どもは、毎朝欠かさず、日付の書かれた小さな引き出しを開けてお菓子を取り出すことを日課にしています。
39度近い熱が出ている日でも忘れることはありません。
そのお陰で、今まではカレンダーの日付などあまり意識していなかった子どもが、「今日は17日なのに、17のところにお菓子が入ってない!」などと言うようになりました(入れ忘れごめんなさい)。

私の子どもの頃を振り返ると、クリスマスを待ち遠しくカウントダウンしたような記憶はありませんし、クリスマスにどんなプレゼントをもらったかすらあまり覚えていないのですが、一つだけ強く記憶に残っているものがあります。

人生最高のクリスマスプレゼント

確か小学校1年生か2年生だったと思います。
クリスマスの朝、目覚めると、枕元に包装された大きな箱が置いてありました。
包装紙を破いてみると、そこには「人生ゲーム」の文字。
そう、タカラトミーが販売する、あの国民的ボードゲームです。


※引用元:タカラトミー社 Webサイト
https://www.takaratomy.co.jp/products/jinsei/whats/nenpyo/0016.html
(人生ゲームは今年リニューアルされ8代目になりましたが、
私がサンタさんからもらったのは第5世代のものです)

私はその頃、友だちが持っている「ゲームボーイ」を見て、常々羨ましいと思っていましたが、サンタさんに手紙を書くといった殊勝な心がけは当時の私にはありませんでしたし、そもそも「ゲーム禁止」という厳しい戒律に基づく結界の張られた我が家にゲームボーイが届くはずもありませんでした。
「ゲーム」違いとはいえ、人生ゲームの箱はゲームボーイのそれよりもずっと大きく、外箱の透明なフィルム部分から透けて見えるカラフルな数字の書かれたルーレット盤の輝きは、幼い子どもを興奮させるには十分でした。

それ以来、私は人生ゲームのヘビーユーザーとなりました。
私の家には、ゲーム機がなかったこともあり、友だちが家にくると、大抵は人生ゲームで遊んでいました。

人生ゲームの発売元であるタカラトミーによれば、人生ゲームの認知度は86%ということなので説明不要かもしれませんが、一応説明しておくと、

人生ゲームとは、

なけなしのお金と自動車(=駒)を持ってスタートし、ルーレットを回して出た数のマス目を進み、止まったマス目ごとに発生する人生の様々なイベントでお金を稼いだり支払ったりしながらゴールを目指し、最終的に一番お金を持っていた人が勝ち

というボードゲームです。

戦略性はほぼ皆無の運ゲーであり、だからこそ、小学校低学年くらいの子どもでも実力差を感じることなく楽しめるようになっています。

私は、縁あって貸付型ファンドを運営するFintechスタートアップであるファンズに出向することとなり、今は金融分野にどっぷりと浸かっています。
昔から金融分野に知識や興味があったかというと全くそんなことはないのですが、私が初めて「金融」に触れたのはいつだろうかと振り返ってみると、幼いころに数えきれないほど遊んだ「人生ゲーム」だということに気づきました。

というわけで、今回のnoteでは、人生ゲームと金融経済教育について書こうと思います。

令和5年金商法等改正と金融経済教育

2023年11月20日に、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)が成立しました。前の通常国会で法案が流れたため、当初の予定より遅い成立となりました(※改正の概要等はこちらをご参照ください。)。

改正事項は多岐にわたり、四半期報告書の廃止や、当社が営む貸付型ファンドに関する重要な改正も含んでいるのですが、ここではそれらに触れず、金融経済教育の推進を目的とする「金融経済教育推進機構」の設立のための改正にフォーカスしたいと思います。

岸田政権は、「資産所得倍増プラン」を掲げ、家計の金融資産のうち半分以上を占める約1,000兆円の現預金を、スタートアップ等の重要分野への投資につなげて成長を後押しすると共に、家計の金融資産所得を増やしていくことを目指しています。

そんな中で課題とされているのが、国民の金融リテラシーの向上です。

日本人は、欧米諸国と比べて投資に消極的と言われており、金融庁の調査(※こちらをご参照ください。)によれば、投資未経験者が投資を行わない理由として、「余裕資金が無いから」という回答に次いで多かったのが、「資産運用に関する知識がないから」、「購入・保有することに不安を感じるから」だったとのことです。

今回の金商法等改正では、国民の金融リテラシーの向上のための取り組みを推進するべく、「金融サービスの提供に関する法律」の名称が「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に変更されるとともに、同法律に、国民の金融リテラシー向上等に向けた「金融経済教育推進機構」を創設することが盛り込まれました。

実は以前から、日銀や金融経済団体などで構成された「金融広報中央委員会」という組織が存在しており、金融リテラシーの調査、講師派遣等の教育活動、各種の情報提供などを行っています。
同委員会が「知るぽると」の愛称で運営するWebサイト(こちらをご覧ください。)では、金融経済教育のための有益な資料がたくさん掲載されています。
例えば、「知るぽると」のサイト内には「金融リテラシークイズ」が用意されており、金融リテラシーをセルフチェックすることができます(こちらをご覧ください。)。
また、子ども向けに「こどもクイズ」も用意されています。

ちなみに、こどもクイズの中に「にせ札を作ってつかまるとどうなるかな?」という問題があり、その回答の選択肢の一つとして「ムチうち」があって背筋が寒くなりました。
ムチうちは嘘ですが、実際に、通貨偽造・行使の罪は非常に重く、法定刑は無期または3年以上の有期懲役です。
通貨の信用力の維持は国家にとって重要な保護法益であるということです。

「金融経済教育推進機構」について

今回の法改正を受けて新たに設立される予定の「金融経済教育推進機構」の詳細はまだ明らかにされていませんが、前述の「金融広報中央委員会」の機能を移管・承継するとともに、全銀協や日証協等の民間団体の活動内容を可能な限り集約し、官民一体で金融経済教育を推し進めるための組織とするようです。
政府によると、2024年春に設立、同年夏に本格稼働させる予定で準備が進められているとのことです。なお、同機構の役職員数は約70名、年間の予算規模は約20億円、うち9割以上は民間からの拠出金で賄われるという想定のようです(※こちらをご参照ください)。

「金融経済教育推進機構」の役割として、特定の金融事業者・金融商品に偏らないアドバイスを行うアドバイザーの認定・支援や、認定アドバイザー向け養成プログラムの提供が掲げられています。

この点に関して、政府の想定では、認定アドバイザーは、個人に対する個別相談事業を行うことも予定しているとのことです(※こちらの第211回国会 財務金融委員会議事録をご参照ください。)。
もっとも、あくまでも中立的な立場で、ライフプランの作成、税制優遇制度、年金の仕組みなどの一般的な質問に応じるのみということであり、特定の金融機関を紹介したり、金融機関から報酬を受け取ることができないことが認定の要件になるだろうということです。
認定アドバイザーの中立性を担保しつつ、どのように人材を確保するのかというのは気になるところです。

教育課程における金融経済教育

学校教育における金融経済教育の重要性は以前から認識されており、2018年に告示された高等学校学習指導要領・家庭科では「家計の構造や生活における経済と社会との関わり,家計管理について理解するこ と。」が記載されており、学習指導要領の解説では、「預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れながら,生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする。」と記載されています。

また、同じ学習指導要領の公民科の「政治・経済」と「公共」の中では、「金融の働きと仕組み」を理解することなどが記載されています。

金融機関が高校などで出張授業を行ったといったニュースも耳にするようになり、学校教育の現場での金融経済教育に対する取り組みは広がっているようです。

もっとも、学校の授業で金融について教えれば金融リテラシーが身につくかというと、そんなに簡単なことではないと思います。

そういえば、私が高校生だった頃、政治経済の先生が、「トヨタ自動車は、為替相場が1円円安になると、3百億円以上の利益がなくなるんです」と言っていたことは、なぜか今でも印象に残っていますが、当時それが自分に関係のある話だなどとは思っておらず、金融や経済の話を自分事として捉えることはありませんでした。

やはり、教育過程において、金融リテラシーを向上させるには、子どもたちに金融を自分事として捉えてもらうこと、そして、楽しく学ぶことが重要だと思います。

人生ゲームで学べる金融・資産形成

というわけで、「人生ゲーム」の話に戻りますが、人生ゲームこそ、金融を自分事として捉え、楽しく金融・資産形成の基礎を学ぶための、金融教育の第一歩に相応しいツールだと思います。

人生ゲームで金融・資産形成の基礎が学べるといえる所以を少し紹介したいと思います。

  • 株券を購入できる

人生ゲームでは、「株券」を購入することができます。

※ちなみに、実際の世の中では、現在の会社法に基づいて株券不発行が原則となっていて、新たに設立される会社で「株」券が発行される例はほとんどありません。

人生ゲームで株券を持っていると、途中で景気が良くなるマスに止まると、持株数に応じて一定の利益を得られたり、景気が悪くなると損失が生じるようになっています。
しかも、「株券を持っている人は全員~ドルを支払う」という全プレーヤー影響型のイベントもあり、株式市場の相場変動が全プレーヤーに及ぶこともあります。
このようにして、「株は上がったり下がったりするものだ」という印象を持つことができました。

  • 不動産を購入できる

人生ゲームでは、誰でもマイホームを購入することができます。
購入できる不動産は、分譲マンションの一室、小規模な戸建て、中流階級向けの庭付きの戸建て、資産家向けの豪邸など、様々な種類の物件がラインナップされています。
人生ゲームにおけるマイホームの購入は、見かけとしては自己使用のためなのですが、高い家を購入すれば、人生の最後で資産価値が上昇し、家を売却して大きな売却益(キャピタルゲイン)を得られるようになっています。

  • 保険に加入できる

人生ゲームでは、自動車保険、火災保険、生命保険に加入することができます。
例えば、人生ゲームにおいては、後ろの自動車(駒)が前の自動車(駒)と同じマスに止まって衝突すると、後ろのプレイヤーが前のプレーヤーに対して損害賠償を行う必要があります。自動車保険に加入していれば、自動車同士が衝突した場合に、保険から損害賠償金が填補され、損害賠償の支払を免れることができます。

  • 銀行借入ができる

人生ゲームでは、プレイヤーに支払余力がなくなった場合は、銀行から手形貸付により借入れを受けることができ、一定期間は無利息なのですが、最後の方まで返済せずにいると、利息を付けて返済する必要が出てきます。

※本来、約束手形は、支払期限よりも前に換金して現金にするという流動性を持たせるために発行されるもので、一定の信用力が必要です。普通の個人が約束手形を発行することはありません。

なお、借金を返済できなければ、ゴールの手前ですべての財産を返済に充てることになり、当面の生活費すら残されず、子どもとも離れ離れになり、無一文で開拓地に送られ、他のプレーヤーがゴールしていくのを横目で見ながら、わずかばかりの日当を受け取って生活するよりほかなく、人生のゴールを迎えられずに終わってしまうという超シビアな展開が待っています。

※実際の世の中では、個人が破産しても完全に無一文になるというわけではなく、一定の範囲の財産は自由財産として取り分けられ、その後も普通に生活が行え、多くの場合は免責手続を経て債務が免除され、新たな生活をスタートさせることができるので、破産は人生ゲームほど厳しいものではありません。

  • ギャンブルと投資の違いが体感できる

人生ゲーム内には「ギャンブルゾーン」が設けられていて、賭け金を設定してルーレットの数字を予想し、あたったら2倍や5倍の金額をもらえるというものです。
これはリスクの方が高く、リスクに見合ったリターンは期待できないので、昔から堅実派の私は、高額の賭けを行うことはありませんでした。
ギャンブルと投資は違うのだということを体感できます。

  • 紙幣や有価証券に触れられる

実生活においては、多くの有価証券が電子化され、さらにはキャッシュレス決済の浸透によって現金を扱う機会も減っていますが、人生ゲーム内では、紙幣・株券・保険証券といった紙媒体のものに触れることができるというのも良いところかもしれません。

  • 子どもも大人も実力差なく遊べる

前述のとおり、人生ゲームは、ほぼ運ゲーであり、老若男女問わず取り組めるからこそ、金融経済教育のきっかけにはうってつけのツールのように思います。

以上のように、人生ゲームは金融教育の第一歩に相応しいツールだといえます。

弁護士と金融経済教育

ここまで長々と書いてしまいましたが、折角なので、弁護士の仕事と金融経済教育の関係についても考えてみたいと思います。

弁護士業務は、契約書やレポートの作成、法律相談、訴訟対応など幅広いですが、常に「言葉」で表現し、時には説得することが求められます。
また、単純に言葉で説明するだけではなく、ビジネス、財務、技術などの様々な専門的な事柄を正確かつ分かりやすい言葉で表現し、伝えることが求められることが多いように感じます。
私を含め、弁護士が皆教えるのが得意かというとそうではないと思いますが、以上のような業務の性質上、一般の方の馴染みのないことを分かりやすく伝えることが比較的得意なのではないかと思います。

また、金融経済教育には、金融の仕組みに対する知識だけでなく、金融規制法や消費者法などの法律知識も必要になります。

金融分野に携わる弁護士が金融経済教育に関わることは社会的にも意義のあることのように思います。

Fundsと金融経済教育

最後に、Fundsのサービスと金融経済教育の可能性について触れてみたいと思います。

Fundsが取り扱っている貸付型ファンドは、金融や資産形成について学び始めた方にとって取り組みやすい商品性になっています。

当社では今年、雑誌「VERY」を発行する光文社様とタイアップし、働く女性や子育てに頑張るママの金融リテラシー向上を目的とした取組みを実施しました。

これからもFundsを通じて金融リテラシー向上につながるような取組みができればよいなあと思います。

ファンズでは、社員が様々なアイデアを出し合い、それを実現する機会が溢れています。

当社にご興味のある方は、是非採用ページをご覧ください。



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