割れやすい夜(ショートショート)
「雨、止んで良かったぁ。」残業を終えて高層ビルの外に出た時、声に出してつぶやいた。都会の夜空には星が少ない。横断歩道を渡ろうとしたときに信号が赤に変わった。フゥと小さくため息をつきつつ頭の中で仕事のツラさを追い払い、「明日も頑張るぞぉ!」と右腕を高く上げた時に、「パリーン」と大きな音がして夜空が割れて昼になった。私は瞬間移動したのだろうか。森の中に居る。大きな木々に囲まれて動物たちのティーパーティーの席に座っていることに気付いた。熊、リス、ウサギ、フクロウ、シカ、サル、ヒツジ。「ようこそ、森のティーパーティーへ。」熊が低い声で私に話しかけた。「お招きいただき、ありがとうございます。」少しの違和感も感じず、私は笑顔で動物のみんなに挨拶をした。お茶を飲んでケーキやお菓子を食べ、おしゃべりを楽しみながら時間は過ぎていった。「あ~、楽しい!」と思った瞬間、「ビューンッ!」と大きな音がして何が起こったのかと思った。大きなワシがリスを捕まえようと急降下しているのだった。「危ない!」と思った私はとっさに自分の持っていた赤いカサを振り回して、ワシを追い払った。私がカサを宙に振り上げた瞬間、「パリーンッ!」と音がして空が割れた。ふと気がつくと私はいつもの帰路に立っていた。目の前には見慣れたコンビニが夜空にこうこうと、光を放っていた。
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