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WHEEL of FORTUNE

ワンピースの裾を風が遊ぶ
たんぽぽの綿毛が髪をいたずらに飾る
かわいた風が 頬をなでていく
色のない景色に、深く深く落ちていく
遠い記憶の中 確かにそこにいた

夏の気配を乗せた風が、河原を渡ってくる
僕が1人になって、ぼんやりできる場所
河川敷では、サッカーをする少年達の歓声
何がおかしいのか、大袈裟に笑う女子高生
買い物帰りのママチャリに乗ったおばさん
いつもの何の変わりのない景色
そんな中に君はいた。なんだか分厚い本の様なものを膝において、ベンチに腰掛けていた。
少し俯き加減な横顔を優しく髪が包んでいた。綿毛を乗せた風が髪を優しく揺らし、ページをヒラヒラと進めていく。なんだか寝息でも聞こえてきそうな、静かな日差しに包まれながら、君の周りの時間が優しく流れていく。不思議に僕もその時間に包まれていく。
土手に腰を下ろし、ぼんやりと雲を追いかける。
「あれは、猫?クジラ?パンケーキ?」自分の想像力の無さに少し嫌気がさしたころ、いつの間にか眠ってしまったようだ。
どれくらい時間がすぎたのか?少し肌寒い風に目を覚ました時。
三日月みたいな目をして、いたずらっぽく笑う君がいた。
「え?」僕は思わず言葉にならない声をあげた。
「こんにちは」ニコニコしながら見下ろしていた。
「こんにちは」頭の中が疑問でいっぱいの中、普通にあいさつをしてしまった。
君はあの分厚い本の様な物を抱えて、ニコニコと微笑んでいた。
次の言葉を探していいたが、見つかるわけが無い。
「なんだか、疲れてます?」
僕を不思議そうに見つめる君
「どうしてそう思うの?」
「だってさぁ、ずっとあなたをこうして覗いてたのに、全然起きなくて」
「ずっと、そこにいたの?」僕には全く返す言葉見つからずにいると
「そうずっとあなたの優しそうな寝顔をみていたの」
その言葉を言う彼女の真意が僕には全くわからなくて戸惑うばかり。
「それっておかしくないですか?初対面ですよね?」
君は僕の横に座って遠くを見つめ、少し斜めに傾いて来た陽射に目を細める
「だって、君だって私の事ずっと見ていたでしょ?」
ウトウトと居眠りをしていたと思っていたのに。
「ごめん、君を見ていた訳じゃなくて、僕が見ていた景色の中に君がいただけだよ」
君はチラッと僕を横目で見ると、不満そうに素っ気なく
「まぁ、そういうことにしておきましょ」
「なんだかその言い方って納得いかないなあ」僕は精一杯の反論をした。
僕は頭に腕を組んで土手に寝転んだ、(この子いつまでいるんだろう?)
流れて行く雲をぼんやり見つめながら。どうでもいいって思うことを聞いてみた。
「ねぇ、ところでその分厚い本の様なものは何?」君はなんだか勝ち誇ったように
「あーーやっぱり私の事が気になって見ていたんだぁ」ってまたあの目で僕を覗き込む
僕は思わず起き上がって、自分でも言い訳にしか聞こえない言葉を言う
「だからそんなに見てないって」
君は僕にその分厚い本の様なものを手渡したしながら
「どうぞ、気になってたのはこれかな?」
アンティークな本に下にまたアンティークな箱があった。
「これって本だけじゃなかったんだぁ」
手に取るとずっしりと重く、表紙にはTarottoの文字、聞いた事のある言葉ではあるものの、それが何を意味するのかはわからなかった。何枚かページをめくってみた、様々な図柄が書いてありその図柄が示す内容が書いてある。印象的な言葉が並んでいる。
悪魔のような図柄もある、堕落、誘惑、魅了 などと
「これは?占いですか?」単純に聞いてみた。
「そう天使のお話をきくの」
君はあっさりと不思議な事を言った。
「そう天使のささやきは聞こえないから、カードを通して伝えてくれるの」
「悪魔のささやきもあったりして?」
僕は冗談っぽく言ってみた。
「もちろん、あるよ」またあっさりと言う
僕は君に本とカードが入ってる箱を渡した。
Tarotto78枚のカード、天使の囁きを伝えてくれる。
「占いしてあげようか?」
君は箱からカードを出して、膝の上でくるくると混ぜる。
君の表情が少し変わったようにみえた。何かを呟いているのか、はっきり聞こえない。
「占い?」唐突に聞かれて、曖昧は返事をした。
占いと言えば、朝の情報番組の星占いくらいで個人的に占いを受けたことはなかった。
確かに、これと言って占って欲しい事も思いつかない
そんな君を見ていると。「ふぅ…」っと大きな息をした。
カードをシャッフルして本の上においた。
上から6枚のカードをとり、7枚目のカードを裏向きにおいた。君はおもむろにカードをめくる。
一瞬君の表情が変わった、でもそれが困惑なのか驚きなのか僕にはわからかった。
カードには大きな車輪のような絵が描かれていた。カードの下にはWHEEL of FORTUNE
と英語で書いてあった。
「このカードの意味はなに?」素直に聞いてみた。
「そのカード、君にあげる」唐突に言う
「カードって1枚かけたダメなんでしょ?」
なぜ君はそんなこと言うのか、全く検討がつかないまま、カードを見つめていた。
もうすっかり太陽は西に傾き、いつの間にかサッカー少年達の歓声も消えていた。
「今度、会った時に返してね」
君はそう言うと、夕陽を背に遠ざかっていく。1枚のカードだけを残して、僕は君の連絡先もまして名前も知らない。
今度会う時?そんなの奇跡でしかない。
そしてその奇跡を目の当たりにしたのは、クリスマスに街が色づく12月だった。

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