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ちょっと不思議なお話⑦


 ある日の昼間。

 その日も天気が良くて、笹の葉が太陽の光に反射して気持ちよく揺れる姿を眺めていた。

気持ちいいなぁー!


 ベッドに座って本でも読もうかなぁ、でもこの景色もうちょっと見てようかなぁーなんて思っていたら……


ダーーーーン

ダーーーーン

ダーーーーン

と頭の中をドラの音が鳴り響いた!!

ド……ドラ?!

中華屋さん的な?

生でたぶん聴いたことはないであろうドラの音。でも、これはシンバルでもなくドラの音。


わたしの周りの景色は一瞬にして変わった。


♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪


 イメージ的にはチチカカ湖のような景色。

 水辺から伸びた植物が見える。顔にあたりそうなほど近い。


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 わたしは小さな手作りの船に乗っている。一人乗りか二人ギリギリ乗れるくらいの……葦を編んで作られた船だ!!

やっぱりここはチチカカ湖なのか……




 しばらくすると、さらに景色が変わる。

 空気が乾燥している。土も乾燥して、風が吹くと土が舞って視界が白くなる。

 目の前には洋風な家。

 屋根は水色に灰色を少し混ぜた感じの落ち着いた色。壁は白く塗られた木を貼り付けたような感じだ。三段くらいの小さな階段があり上ったところに白い扉が見える。玄関の両脇には何か植物が植えられてあった。

 わたしは当たり前のように玄関の少し横のあたりで誰かを待っている。

玄関が開く音がして、背の高い男性が現れた。わたしを見るなり、ニコッとされて近づきハグされる。

「さぁ、紹介しよう!」

彼は家の中に入れてくれた。

明るい木の温もりがあるきれいなリビング。そこには、花柄の洋服を着た優しそうな奥様とウェーブがかった髪の毛が可愛くて、ちょっと照れた感じではにかんでいる娘様がいた。


「わたしの妻と娘です」

「こんにちは」

「よくいらしたわね。いらっしゃい!」

奥様も娘様もハグをして歓迎してくださった。

「あなたに私の研究を継いでほしいと思っているんです」

「本当ですか?」

「これから私の研究場所に案内したいのですが、いいかな?」

「はい」

 彼はダークブラウンのスーツを着て、茶色の細い杖をついていた。頭にはかっちりとした黒い帽子を被っている。白い髭が特徴的だ。とても紳士的であたたかい雰囲気の男性だ。



 「私ももう歳でね、家族にも迷惑をかけてきたし、もうこの家を離れるつもりです。もう少し便利な町の方に家族と引っ越す予定です。でも、まだ私の研究は終わっていない。本当はまだ続けたいのですが……それで、後継者を探していたんですよ」


 しばらく何もない平原を歩き続けた。背の低い枯れたような草がところどころに生えている。


 「あのあたりがわたしの研究場所です」

 彼が見ている方向に目を向けると、そこには何かが置かれている。早足で近づいてみると、石だ。石がたくさん……しかも、きれいに直線に並んでいる。

まわりを見ても何もない。ここだけだ。


「外からだとわかりにくいです。この石の中に入ってみてください」

わたしは石の上に登り、内側に入った。



「ここはまだ謎が多いんですよ。私も四十年近く研究していましたが、分からないことが多い。あなたならと思って。どうか私のかわりにここの研究を進めてください」


 その遺跡は《コの字型》になっていて、若干上下が長い。

でも、風化したのか壊された跡なのか、石の端の方はきれいなところと削れたところがあり、ちゃんと測らないと正確な大きさや長さはわからない感じだった。

特に石の上の部分はデコボコになっていて、自然にこうなるのか?あるいは何らかの作用が加わったのか。

第一印象としては、今残っている石の上には何かがあったような気がした。石だったのか、他の素材で出来ていたのか……


一つの石の大きさは大きく、人が一人で運べる大きさではない。それがきれいに削られ正確に並べられてある。とても不思議だ。

まわりをみても山も近くにはなく、石のようなものもない。どこからこの石は持ち込まれたのか?


 石の表面を見る。かなり時間が経過しているように感じる。


「何かの儀式に使われていたのでしょうか?」

「まだはっきりしたことはわかりません。このあたりの遺跡を見ても同じタイプのものはないのです。ここだけ違う。

私はここをホワイトストーンと名付けました。後はあなたにお任せします」


 わたしはしばらくその何もない平原にひっそりと置かれた古代の石の上に座り、まわりを見渡した。

ヒントとなりそうなものは何もなかった。



 何日か教授の家でお世話になった。毎日、その遺跡に通い、教授の教え子の方と一緒に遺跡付近を散策した。

あまり覚えていないが、他の遺跡とは石の色が違ったように思う。

だから教授はホワイトストーンと石の色をこの遺跡につけたのかも知れない。



 帰る日。

「妻も喜んでいるよ」

教授は玄関で帰るわたしにハグをした。

「あなたに会えてよかったわ。ありがとう。ここはあなたが好きに使ってくれて構わないから」

「ありがとうございます」

「またね」

奥様も娘様もうっすら涙を浮かべている。

「よろしく頼みます」

教授とご家族に見送られ、わたしはその家を後にした。




ダーーーーン

ダーーーーン

ダーーーーン


♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪


 景色が変わる。

わたしは来た時と同じボートに乗っている。

まったく同じ景色を今度は逆に進んでいた。


 どんどんドラの音が強くなる。


 空間に吸い込まれる……!!!


♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪


 わたしの部屋だ。

もうドラの音はしない。


何だった?今のは何?!


身体の感覚がおかしい。少しずつ慣らそう。だいぶ遠くまで行ってたみたいだから……。

妙に冷静な自分がいる。

身体の感覚が戻ってくると、目を閉じたり開けたり、耳を塞いだり、閉じたりした。特に問題は無さそうだ。


でも、何でドラなの?(笑)


♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪


 図書館に行ったり、ネットで調べたり……

いろいろしたけれど、今もあの遺跡は見つかっていない。


 あの白いお髭の紳士は誰なんだろう?

 ご家族の方、素敵な方だったなぁー。


 そのくらいリアルな体験だった。



 このタイムラインにある遺跡なら、いつか見つけてみたい。











 

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