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森のパン屋さん☆

おそらく11年くらい前の話。

ちょっとした遠足気分で出かけたパン屋さんがあった。

なぜ、そこに行くことになったかというと、知り合いがその敷地内でお店を出すから遊びに来てねと言われて、面白そうだなと思ってワクワクしながら家族と出かけた。

あれは多分暑い夏の日だった。

最寄り駅は知っているところだったが、そこからまったくしらないバスに乗り、聞いたことのないバス停で降りるという、かなりザックリした道案内しかわかっていなかった。

バスを間違えずに乗れるかとか、バス停を通り過ぎてしまわないかとか、そもそもどのくらいバスに乗るのかとか、いろいろ気になることはあったが、楽しみの方が上回っていて遠足気分だった。

たどり着けるかわからなかったから、念のため飲み物はあった方がいいかなと思って、最寄り駅前のコンビニで家族の分の飲み物を買って、おそらくここかなというバス停の前に並んだ。


そして、すぐに迷うことはないなと確信した。

なぜなら、このバス停に並んでいる人のほとんどが同じところに行くのではないかと直感で感じたから。


理由はあった。

①地元の人っぽくない

②みんなちょっとウキウキして、友人や家族の単位で賑やかに並んでいる

③登山ほどではないけれど、遠足っぽいリュックサックを背負っていたりして、このあたりにちょっと買い物に来た雰囲気ではない


そんなことを瞬間的に感じて、なぜかきっと同じところに行く人たちだ!迷うはずがない!と確信し、安心して来たバスに乗り込んだ。


*** *** ***


バスは全く知らない道をどんどん進む。どこまで行くんだろう?そう思いながら、降りるバス停の名前のメモをチラチラと見ながらバスに揺られた。

「楽しみだなぁ!どんなとこだろうね?」

家族と話しながら見慣れない風景を楽しむ。

すると、ある地点から急に緑が増えた。なんとなくバスの中がざわざわしている。

あれ、このあたり?

そう思った瞬間、誰かがブザーを押した。そう、ここがパン屋さんのあるバス停。やっぱり、ほとんどの人が一緒に降りた。

楽しいなぁ!!

ワクワクしながら「着いたねー!!」っと言ってみんなが歩いて行く方に道を渡った。ほとんどの人が常連さんなのだろうか。

こんもりした森の入り口には飾りが施してあって、思っていたより広い場所で驚いた。

入り口を入っていくと、もう行列が出来ている。けっこう早くに着いたのに、もうこの行列。びっくりだ!!せっかくだから並ぼうかと家族と一緒に並んだ。ログハウス的なお店は絵本に出て来そうで素敵だった。


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 それより、人の多さよ。

こんなに奥まったところになんでこんなに人が来るの?とキョロキョロしてしまう。

わたしが知らないだけで、めちゃくちゃ有名なパン屋さんなんだろうか?

どれだけ美味しいのだろう?と思いながら並ぶ。でも、こんなに行列が出来ていたら、パン売り切れですと言われてもしょうがないなと思う。

「売り切れてたら、売り切れてたでしょうがないから、他にもいろいろお店出てるだろうからいいよね!」

そんな会話をしながら、買ってきた飲み物を飲みながら並んだ。


やっとお店に入った。パンが見えない。

ひと、ひと、ひと。

ちょっと暗めの店内は雰囲気はいい感じで、圧迫感はなかった。

多分、買えないかも。まぁ、いいや。

なかなか味わえないこんな休日をめいいっぱい楽しもうと思った。


*** *** ***


「あの時、なんのパン食べたか覚えてる?」

「覚えてない」

先日、雲ひとつない青空が広がっていた日。急にあの森のパン屋さんを思い出して家族に聞いてみた。

正直、わたしもなんのパンを買って食べたか覚えていなかった。

おそらくお一人様ひとつみたいな感じになっていて、ほとんど売り切れていたから残っていたパンを自分と家族の分と2つ買って、お店の外に出てみんなが食べている横で立ちながら食べたような気がする。

でも、なんのパンだったんだろう。


パンを食べ終えてから、知り合いに挨拶しに行った。仕込みが終わるまでちょっと待って、出来たらすぐに買いに行った。

外で食べるのって気持ちがいい。

緑がきれいで、景色がキラキラしていて、土の香りがして。みんなが笑顔で。

その雰囲気が楽しくて、あー、きてよかった!と大満足だった。


あまり遅くならない時間にバスに乗って来た道を戻り、いつもの日常に帰った。

またイベントがあったら行きたいね、と話していたけれど、森のパン屋さんに行ったのはその一回だけだった。


*** *** ***


いろいろなパン屋さんにたどり着いた事はあるけれど、あれほど遠足気分でどこにたどり着くのかわからないワクワク感を味わったことはなかった。

なのに、なんのパンを食べたか覚えてないという……(笑)


そんな夏の思い出を青い透明な空を眺めながら思い出した。




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