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オッペンハイマーを観て

アカデミー賞でクリストファー・ノーラン監督の映画、オッペンハイマーが作品賞を含む7つの賞を受賞し話題となっている。
忘れもしない2023年8月、私は恐る恐るこの話題の映画を観にオランダにて近所の映画館へ足を運んだ。
歴史上の人物の話だし、ネタバレにはならないはず・・

何故観たのか

私はクリストファー・ノーラン監督の作品が大好きだ。Memento(メメント)を観た時の衝撃は忘れられないし、映画を観る文化のない家で育った私が映画を観ることになったきっかけと言っても過言ではない。InceptionもInterstellarも、頭をよじられたような感覚を持ったのを覚えている。
彼が近年Dunkirkの際のインタビューで、これだけの壮大な物語を描くために自分のスキルや道具が揃うのを待っていたと言った旨の話をしていた。きっと、彼の中でもこの原爆の父オッペンハイマーの半生を描くのは大きなテーマで、強い意図があって今なんだろうなと勝手に思った。
また、世界中で話題になっているこの映画を観てみたいし、それを日本人である私がどう受け取るのかに興味があった。

大前提として、アメリカは原爆が戦争を終わらせたと考えている

これは、私がカナダ留学中に何気ない会話の中で出てきたコメントの中でふわっと理解し、その後タイミングよく本当にそうだったのか?という趣旨の(多分アメリカで作られたものだったと思われる)ドキュメンタリーをテレビで見て学んだことだ。原爆投下がなければ、戦争が長引きより多くの犠牲者が出ていたはずなので、原爆投下は人命を救った・・・と多くの人が思っている。
この前提を理解してから見る必要はあると思う。

核兵器の開発

科学者であるオッペンハイマーは、核兵器の開発に携わることになる。携わっているものが核兵器だということを一旦外に置くと、競合との戦いに勝つべく技術開発を仲間たちと成し遂げる成功物語に一瞬見えるし、そう描かれている。そう考えると、私たちが日々の仕事の中でやっていることと同じことをオッペンハイマーは上手くやり遂げただけなのだ。ただ違いは、それが多くの人の命を奪うものだったということ。。
核実験の成功が前半のクライマックスとなる。

オッペンハイマーの苦しみ

開発に成功し、原爆も投下され、戦争も終わり、万歳!とは考えられず、彼は、シーンとしては出てこない広島と長崎での犠牲を知り、さらに大きな兵器・水爆の開発には反対をする立場となった。共産党との関わりを疑われたり、色々と苦悩する日々が後半は描かれる。

重い重い空気の中で、映画館で笑いが起きた

これだけの重いテーマを扱った映画なので、館内の雰囲気も重めではあった。その中で、クスッと笑いが起きたシーンがあった。
原爆をどこに落とすのか、軍のメンバーが都市を選んでいるというシーンで、「京都は新婚旅行で行ったところだから、そこは避けよう」という発言が面白い感じで出てくる。
が、私には全く笑えなかった。し、そこに「クスッ」のタイミングを持ってきたのが個人的には許せなかった。

結論:世界は評価したけど・・

映画としては、きっと良い映画なんだと思う。けれども、原爆を投下された国の国民としては、どれだけの一般市民が苦しんだのかを幼き頃から学んできていて、それを知らない人たちと同じようには楽しめない映画だと思う。世界は評価したかも知れないが、日本人からしたら解せない映画だという評価にして全然良いと思う。
ただ、どこまでも前提が違う、欧米目線だなというのが私の感想で、彼らから見たらこうなるのかという視点で観ることしかできないものだと思う。
クリストファー・ノーラン監督に日本人目線も考慮して欲しいというのは、彼が届けたいメッセージや観客やストーリーを考えたら難しい話だと思う。それはドキュメンタリー領域の仕事なのかな。
感想を世界に共有したり、日本視点も含めた作品を作ったりすることで、世界唯一の被爆国としてできることをしていかなければならないのかなとも思った。
世界の情勢が不安定な今だからこそ、きっとオッペンハイマーの苦悩とか核兵器に関する議論とか、色々と考えるキッカケとなって、少しでも平和な世界に近づけばと思う。

日本で公開

原爆投下の日や終戦記念日のある8月には絶対公開できなかった映画だと思うこの映画が、2024年3月末にやっと日本で公開になるそうだ。アカデミー賞も取ったし、もしかしたら多くの日本人が観ることになるのかも知れない。
そうなったら、色んな人の感想を聞いてみたい。
私が気になったあのシーンとか、あのシーンとか、私の気にしすぎなのか・・


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