『暇(いとま)』
資料がようやく完成した。
誰かに情報を伝えてはじめてその使命を果たす資料。
肝心の会議はまだこれからだ。
でもそんなことは承知で、
高揚感と満足感は隠せない。
帰り道、駅でエスカレーターの列に吸い込まれる前に階段を駆け上がる。
その先には行き慣れたカフェがある。どこにでもある定番のカフェ。
定番だからこそ、束の間の安らぎが約束されている。
私はクイズ番組の二択の回答パネルにダイブするように、
一択しかない正解へとダイブする。
店内に広がる柔らかなコーヒーの香りと、夕方の選択肢の少ないケーキ。
私は二択ですらおおいに迷って、結局はチーズケーキを注文する。
仕事のデキる人は着る服や、その日やるべきタスクを決めておくらしい。
そうやって頭のエネルギーを配分して、重要な場面で適切な決断をするとかしないとか。
だとすれば、今日の私にとってはケーキの決断こそが重要な案件だったな。
と、私だけの納得を得る。
固い表情が可愛い、”新人さん”に代金を支払う。
一生懸命な姿だって充分なサービスだよ。
金額以上に渡せるものは言葉しかないなぁ。
「頑張ってね」
持続した高揚感と満足感に柄にもないことをした。
人生の先輩ぶったな、なんて思いながら席に着く。
それでも気持ちの応答は人間の醍醐味だろう。
定番のチーズケーキがいつもより美味しいのが何よりの証拠だ。
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