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耳の形が思い出せない

耳の形が思い出せない好きなひと  時実新子(『月の子』)

表現っていうのは、みんながポストは青いと思っても、ポストって赤いんですよ、ポストは赤いんです、私にはそうとしか思えないんですよ、それ以外ないんです、と言い切ることなんだと岩松了さんが書いていた。

たぶん本当に世界は無数のいろんな可能性があって、あなたの世界も私の世界もあるし、そのこともわかっているけれど、でも私の世界はこうでしかなかった、これ以外ありえなかったという形で、ひとつの世界を立てることが表現なのかなとも思う。

耳のかたちには可能性なんてなくて、好きなひとの耳のかたちもたったひとつしかない。
好きなひとはそういう形で、ひとつの世界を私に試し、私は時々とても・すごくひとつなんだというそのあり方に驚きながら生きてゆく。

好きなひとが言う。
「世界にたったひとつのものなのに、耳ってふたつもあるんだよ。世界の豊かさに切なくなってしまうよ」

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