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私を忘れてもいいよ

この道と私を忘れてもいいよ  やすみりえ(『現代川柳鑑賞事典』)

WOWOWでやっていた小林聡美のペンションのドラマが良かった。どこか不審な紳士、役所広司が泊まりにやってくるのだけれど、役所広司は本当は狐で、御礼の茸を残して消えてしまう。

でも役所広司くらい色んな役をやっていると確かに人間を通り越して狐の方に近いんだよなあとも思う。
役所広司はもう役所広司じゃなくなってることで役所広司なのかもしれない(狐構文)。

私を忘れるっていうのは、狐の方に近づいてゆくことなのかな、とこんと思う。
私を忘れ、私と出会った人を忘れ、時々私の悲しみや怒りや喜びを忘れる。
私は誰にも知られずひとつの狐になっている。
知られたときはいくつかのきのこを残すとき。

「ひからびたひとさんって、すごくなんだか狐っぽいですよね。この町に住んでる人じゃないみたい」とこの町で言われる人間の私がいる。

「ひからびたひとさんって、すごく人間っぽいですよね。この森に住んでる狐じゃないみたい」とあの森で言われている狐の私もいる。

どっちかがほんとう。

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