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みんな好き

花屋から出てくる人はみんな好き  伊藤美幸(『現代女流川柳鑑賞事典』)

ときどき沼のことを考える。私が一度も行ったことのない沼を。
「今、なに考えてたの?」と言われて、沼のことを考えていたのだけれど、「うん、沼のことを、ちょっとね」とは言えなくて、「まだ見たこともない、でもこれからきっと見ることになる花のことを考えていたの」と私は言った。
「花のことがずっと頭にあるっていいね」

眠るときや机にうつぶせになるとき、バスの中で思わず窓にもたれて眠ってしまっているとき、私は私の中でその沼に向かっている。
気がつくと、バスの中は私と車掌さんの二人で、このバスはもちろん沼に向かわない。
沼の話を私はきっと誰ともしない。代わりに何度も何度も花の話をしようと思う。バスが止まる。

バスを降りると、花屋から花を抱いたひとが出てくる。

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