Turquoise(短編)

「わたしってなんてついてないのかしら」
杏子は石の取れた指輪を見て思った。
正志がくれたものだ。
正志がくれたものはいつもそう。石が取れたり、ピアスの片方が無くなったり。
プレゼントの意味がない。運が無いのね。あの人。あの犯された晩を思い出す。そう思わずにいられなかった。

正志と出会ったのは、2021年の夏。カメラの前でだった。
すぐ寝た。会って1日目に。
びっくりすることを言ったのだ。
「子供作っていい?」
私もまた、
「いいけどホントに出来たらどうするの?」
気持ち良かった。正志の精子は。体の相性が合うってこういうことなんだわ。
杏子は思った。
それにしても、狂気の沙汰じゃないかしら?会って1日目に子供を作るなんて。
私も馬鹿なことを言ったわ。
そのセックスの後、正志は言ったのだ。
「俺と結婚して」
「会ってまだ、2時間も経たないのよ!?」
「俺は本気だよ。子供が出来たら結婚して」
呆けていると、
「名前なんていうの?」
そういえば、わたしは名乗っていない。
「···杏子」
「そろそろ戻ろう、時間が迫ってる」
これって、犯されたと言うんじゃないかしら?同意したものの。
「君ってサイコーに綺麗だな」
正志は言った。
子供は出来なかった。正志とは結婚していない。
でも、関係は今でも続いている。

ある日、ひょっこり子供が出来た。
『妊娠してる!!』
戸惑った。すれ違い生活で続いてる関係だと思ったのに、妊娠···。
正志には言えなかった。

「あれ?この人こんなに格好良かったっけ?」
ふと、ある日私は正志を見て思った。
端正な顔立ち。通った鼻筋。薄い唇。可愛い目。
しばらくボーッとしていたんだろう。
「どうしたの?」
正志が聞いた。
「何でもない」
私は顔を赤らめた。
「どうしよう。この人って、私の好みだったんだわ」
今更気付いたことに、驚いた。
正志と寝ても、今まで以上に気持ちよかった。
「この頃、感じるね」
そうなのだ。この人とはセックスの相性が良かったのだ。

子供が出来てからというもの、世界が一変した。
「あれ···窓の外の景色、こんなに綺麗だっけ」
世界がキラキラして見えた。それに、
「杏子さん、正志さんと付き合ってるのは分かってます。でも好きです。凄く可愛いなと思います。」
と、ちょくちょく可愛いと告白されるようになったのだ。
『可愛い···』
職業柄、綺麗とは言われていても、可愛いなどとは言われたことが無かった。
これって何!?友人に聞いてみた。
「あんた、この頃、可愛いよ。目がキラキラしてて。幸せだと杏子が自分で思ってるのよ。にじみ出てるのよ」

それからというもの、指輪の石は取れなくなった。ピアスも欠けなくなった。
杏子は言ってみた。
「妊娠···したよ」
「···えっ···」
正志はにーっと笑うと「やーりぃ!!」と私を抱き上げた。
そう言えば、この人の職業ってモデルだったわ、
もうお揃いのターコイズの指輪の石は無くさないだろう。
改めて、ニコニコ幸せそうに笑う正志を私も、笑って、見つめていた。

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