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映画「ククーシュカ ラップランドの妖精」(2006年公開)

個人的所感によるあらすじ

第二次世界大戦末期、スカンジナビア最北の地、ラップランドではロシア軍、ドイツ軍、そしてドイツと同盟を結んでいたフィンランド軍が戦っていた。フィンランド軍の狙撃兵ヴェイッコは、非戦闘的な態度に怒った戦友らから罰としてドイツの軍服を着せられた上、鎖で大岩に繋がれたまま置き去りにされる。その頃、ロシア軍大尉イワンは軍法会議にかけられるため車で護送中、味方の戦闘機に誤爆されてしまう。命を落としかけた敵味方ふたりの兵士を救ったのは、その地でひとり暮らす女性アンニだった。しかし彼らはそれぞれサーミ語、フィンランド語、ロシア語しか理解することができない。言葉の通じない三人の男女の奇妙で不思議な生活が始まり、やがて・・・。

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ちょっとネタバレな感想

素朴に生きる女性が戦争に傷ついた兵士を助け、みたいな美しき物語を想像していると見事に裏切られる。イワンにとって命を助けてくれたアンニはまさに理想の女、平和主義者ヴェイッコにとっては闘志ムキ出しのイワンは理解できないし、四年もラップランドの自然の中で一人逞しく生きてきた女性アンニにとっては彼らは聖霊に願ってやまなかった「オトコ(♂)」でしかない。

三人にとって、全ては現実。幻想や夢が入り込む隙間など存在しない。

言葉の通じない彼らにとってのそれぞれの思惑や思いは同化することなく、勝手な思いこみが不思議な調和を保ちつつ流れていく。そのやりとりはまさにコメディで、馴染んだ常識の違いや言葉のコミュニケーションがとれないということがいかに喜劇であり悲劇であるか、ということをわかりやすく伝えてくれているようだ。

アンニを演じたクリスティーナ・ユーソのくるくると動く表情がいい。厳しい自然の中で生きる人間によく見られるように、彼女もどちらかというといつも不満げな厳しい表情をしている。だからこそ時々見せる笑顔がとんでもなくキュートで美しい。開けっぴろげに「オトコ」に迫ったりするのも、だから全然いやらしくないし、むしろ魅力的だ。

逞しくしたブラピといった感のヴィッレ・ハーパサロのハンサムで理想主義の若者もいいし、ヴィクトル・ブィチコフの演じるイワンは、歳やら戦争やら嫉妬やらいろんなものに翻弄されて訳がわからなくなったとまどいとあきらめをリアルに表現していた。

普通ならむしろ途中だらけそうなストーリーも、前半の鎖の話と後半の犬憑きの話ではらはらと引き込まれてしまう。脚本もなかなかだ。

広大なラップランド大自然とと三人の演技力と脚本、この高レベルのバランスが、むしろ地味な作りのこの映画の魅力を形作っていたのではないかと思う。

最後に解ける、”チラシの謎”。
(写っている人物をよく見てみてください。)

彼らはアンニの人生のほんの一瞬通りすぎただけかもしれないけれど、彼らが残したものは彼らよりももっと確実にアンニの生活を潤し、そしてラップランドの自然に根付いて行くのだろう。

あまりメジャーではないロシア映画だけれど、そんな幸せな余韻が残る「現実過ぎるからこそのおとぎ話」かもしれない。

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