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知らない間に桜は散っている


#お花見note

コロナで大っぴらに旅行に行くことも飲みに行くことも憚られてきたこの一年。
ちょうど緊急事態宣言直前に会社の同僚と花見をしたのが奇跡に思える、あれから一年。


***


風がひとひらの花びらを運んできた。私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。

「彼氏にしてもらいたいよね、こういうシチュエーション。」

そう笑いながら夏菜子は私の隣を歩く。

風に舞う花びらの中を歩きながら、花吹雪にうっとりする自分、や髪に舞い降りた花びらを彼がそっと微笑みながらとってくれる、それが恋する女の憧れなんだと夏菜子は言い切っていた。そんな可愛らしく可憐な自分を時には見せつけたっていいじゃん?と言う彼女の正直さが私は好きだ。

ー私もそうして欲しかったなぁ。

半年前に別れた彼のことを思い出す。5回もそのチャンスがあったのに、と空に重なる桜の枝を見て思う。

夏菜子の言う理想のシチュエーションにケチなんかつけない。恋してる時くらい静かに酔いたいのだから。
でも男の子ってどうしたって、気づかないのか、照れるからなのか、そんな絵に描いたようなことなんてしてくれない。
そんな時、私は漫画の主人公のようにはなりきれてないと思う。そして私は主人公になれないまま彼と別れてしまった。


ーこんなこと考えながら花見をしてる自分はまるで…

悲劇の主人公みたいじゃないか。

そんなのはやめだ。
悲劇の主人公を決して悲劇のまま終わらせない。だって今日も世界はこんなにも気持ちよく晴れている。
目の前の桜と、思いっきり空気を吸うと感じる春のにおい、そしてとなりで笑っている夏菜子という友人。
ただそれだけのこと。ただそれだけの世界に生きていることが、生きることの全てに思える。

人は上を見ろと言う。前を向けと言う。でも下を見ても後ろを振り返ってもいいんだ。
そうして私は生きていく。


「私たちは人生の楽しみを先延ばしして、じっくり味わってるということにしよう!」

開き直りもあきらめもしたっていい。
今なら前を向ける気がして、私は満開の桜を眺めた。

***

時々無性に人恋しくなる時もあって、不安になることもあって、他人と比べて焦ることもあって、落ち込むことなんてたくさんあった。

なんとなく世間が提示する到達点にいっておけば間違いないよね、と思って生きてきた。

でもスタンプラリーを集めるような人生はしない。わたしはわたしだから。


そんなことを考えながら歩いていたら、近所の桜はもう散りかけになっていてちょっとだけ悲しくなった。
でも、仕事をはやく切りあげてこんなに気持ちのいい日に散歩をした自分をそれ以上にほめたくなった。


今年は、今年の私はもっと人と、ものと、何かに出会っていきたい。出会いに貪欲にいきたい。


初めて小説を書いた記念すべき日。
企画に感謝!

#お花見note
#桜 #小説
#チャレンジしたいこと
#この春やりたいこと

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