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ポメラニアンのお仕事1日体験【警備員編】

私のポメラニアンがお仕事1日体験として、警備員の仕事がやりたくなったらしい。この前散歩中に警備員のお兄さんが迂回ルートを優しく説明してくれたからだという。全てのポメラニアンは親切が大好きだ。

だが、生身のポメラニアンは小さくて遠くから見えない。そのため犬用スマートスーツと犬用スマートシューズを着用する必要があった。これで大きさの問題は解消される。

(犬用スマート衣服については:ポメラニアンのスマートランニング )

するとだいたいケルベロスくらいの大きさになる。犬用スマートヘルメットは開発段階のため、顔はポメラニアンのまま。

その巨大な風貌のせいで、かえって道路が混乱するのではないかとの懸念が警備会社には強くあった。警備会社はてんやわんやだ。かわいそうに。しかし、お仕事1日体験はポメラニアンの特権だ。ネコにはまだ認められていない固有の権利なのだ。
ポメラニアンはとある国道交差点の警備を希望した。信号機修理のあいだの警備業務だ。
近隣住民には「ポメラニアン来たる」との特製高級ビラをまいた。交差点の歩道橋にもそんな感じの特製高級垂れ幕をかけた。準備は万全である。

えっ?人類の経済的損失?
ああ、安心すべき事に、経済的損失などポメラニアンは普段考えない。ポメラニアンは常に、物事の芸術的な幕引きを想定して暮らしている。
物事の芸術的な幕引き。例えば私のポメラニアンには、「赤とんぼ」の絵本を急に読みだし、それに登場してる柴犬っぽいのには負けていられないと、日本の原風景を闘争的に欲し、日本語をマスターしてきた逸話がある。一生懸命で、かわいかった。
古今東西、誰彼のポメラニアンにもそうした逸話の一つがあるものだ。うーむ。かわいい。

今日(こんにち)のポメラニアンたちも、今日(きょう)の警備員ポメラニアンも、こうした逸話の積み重ねがあってこそなのだ。警備員は十字路に立つ。道行く人々は無意識にでもその存在の巨大さに圧倒されてしまう。

飼い主である私も彼の仕事ぶりをこっそり観察しに行った。しかしまるでポメデューサ。
本人は至って真面目な仕事をしているらしいのだが、キリっとした顔つきが能面のようで、コンビニから経営哲学をごっそりと抜いたような空っぽな気持ちにさせられる。

宇宙に浮いた商品の数々。まわりをちらほら飛ぶ赤とんぼ。

ときどき、空っぽな気持ちはリフレッシュにもなる。ポメラニアン・ポジティブ・シンキングだ。

なるほどシュールで、確かに芸術的な警備員。さて、垂れ幕の行方は分からないけれども、「ポメラニアン来たる」のビラは、今日の思い出のために大切にしまっておこう。大丈夫。今日の仕事は、少なくとも空っぽじゃなかったってことの証明書として保管しておく。これもきっと逸話の一つになれる。

彼がどんな顔をして家に帰ってきても良いように支度をしよう。私は上り坂の帰路を急いだ。途中、コンビニで犬用ノンアルコールビールを買った。

私の顔が少しほころんだ。芸術的な幕引き。

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