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こんな屑になり果てるために(新大久保のための下書き)

「こんな姿、誰にも見せられないな」コウタがそっと呟く。


「なんでよ?」ムニアがポテトチップスを頬張りながら、そっぽを向きながら応える。


「無職で、自殺未遂もして、もう若くもない。俺も、阿川さんも、人間の屑みたいなもんになっちゃったんだなあって。俺なんて学校にも行けてないし。屑だよ。どっからやり直せばいいか分かんなくなっちまったんだよ。そんな風にさ、今日の朝目覚めたら、突然気づいたんだ。なあ、どう思う?」


「不幸の自慢比べをしたいわけ?それなら、私が勝つわね。無職もあった。自殺未遂もあった。けれどね、やっぱりこの私の体臭の不幸には誰も勝てないわよ。私は、これ以上追い詰められたら首を吊るって決めて生きてるんだから。あーあ、アルコール飲みたい。」ムニアは急にこちらを向いて、


「コウタ、もっとシャキッとできないわけ?毎日ゾンビみたいな顔で。おいぼれのゾンビみたい。ゾンビってやたらと何かを追いかけるイメージあるじゃん?あんた、青春を追いかけるゾンビみたい。それってさ、この世で一番気持ちわるい存在じゃん。そのまま一生売れないシンガーソングライターみたいな美意識繰り広げてればいいのよ。ゾンビに一生なんて言葉似合わないかもだけど。こんな姿が浮かぶわ。『この曲は、当時の自分が売れない悩みをそのままそっくり書いたんです』って、ドヤ顔でインタビュアーと押し問答するあんたの姿よ。はかない夢だけどね。いいこと?もうこれ以上、テクニカルに生きたがるのを止めなさい。もっとマシな生き方があるでしょう?売れている人のマネをホントに堂々と始めなさい。死んだ顔のゾンビ生活より、マネ事の金持ち生活が人生マシに見えるけれど。わたし的にはね。」


「そんな話をしたいんじゃない!」急にコウタが立ち上がった。彼の眼はひどくうるんでいた。


「俺はこんな屑にはなりたくなかったって話をしたいんだ。ムニア。後悔の話、懺悔の話をしたいんだ。よっぽどの事がない限り、人は死にたいだなんて思わないじゃないか。俺たちはおかしな世界に迷い込んじまってるんだよ、きっと。どうしたら後悔を終わらせられるか、どうしたら悔やんだ気持ちから解放されるかをずっと考えてる!考えてくれ、ムニア。このまま夢も希望もなく、ただただ生きるのを延長させる。そんな機械みたいな人間でホントに良いのか……。取り戻せない何かのために、一生をかけて働くなんて滑稽だと思わないのか?俺は今朝からずっと震えてる。ただただ震えてる。街行く人々をムニア、君は滅多に見ないだろうけれど、あいつらは何か楽しそうに暮らしてるんだ。夢と希望を持って。自殺未遂もしないし、マトモな職業にだって就いているさ。ムニア、そいつらを見下してた俺たちが悪かった。そう素直に謝って、何もかも最初からやり直すことなんてできるのかなあ?俺、地元にももう帰れないし、阿川さんを救う手立てもないよ。俺は、こんな屑にはなりたくなかったんだよ…。」


「ちょっと…落ち着きなさいよ。」ムニアがなだめるように言う。続けて、


「屑探しは一旦置いておきましょう。今は、とにかく阿川さんの事が最優先じゃないの。」


「違うんだ…ムニア、俺たちは、こんな屑になり果てるために産まれた訳じゃないじゃないか…。」


コウタはついに涙をこぼした。それは止まるところがなく伝って流れ、彼のシャツの胸の辺りを濡らした。

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