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[装丁小話]特色3色印刷とモンテシオンの話

少しづつオフラインのイベント関係は復活してきていますが、まだ都心へと参加するのは難しいところだったため、先日3回目の頒布をBOOTHにて行いました。イベント出てみたいなぁ〜〜という気持ちではしゃいでしまったので新刊2冊(どっちも書き下ろし)と再頒布1冊、ついでに使ってみたかった印刷所のセットをつかった小さくて薄い無配1冊、とひとりでめちゃくちゃはしゃぎ踊り倒しました。ここからは新刊その1の話です。
※今回も多少二次創作の内容にからんだ話があります。ご注意ください。

特色(それでいて多色刷り)が好きだ

発端として、前の小話にも書きましたが本業の方では最近特色の多色刷りをあまり作っていないこともあって、多色の特色がやりたくてやりたくて……。
1色で刷るのもいいですが、好きなのは2色刷りか3色刷りです。少し前に買った「同人女の感情」のコミックス装丁も3色刷りでかっこいい。蛍光をバキバキにきかせたい欲。そう、蛍光色も好きなんですよね……特に赤。ピンクも好きだけど、赤の方が好きです。ちょっとコーラルっぽい感じで。
そう思いつつ、意気揚々と作り始めたものの、今回の表紙はすごく迷走してしまったので途中で4Cの方がいいかも……と思ったりもしました。が、無事特色で作成することができた〜〜。よかった〜〜。
今回の印刷はBRO'Sさんでお願いしました。BRO'Sさんは「とにかく角がピシッとしている」というのをよく聞きます。実際今回も確かにピシッとしてました。※ただ、過去刷った2冊も割と角ピシだったな……とも思っています。厚みのせい?
あと、締め切りが遅めで嬉しいです。以前利用したプリントオンさんやSTARBOOKSさんは割引をMAXに適用させたい場合は月単位で早く入稿する必要があるので、それに比べるとかなり遅めでもOKでした。
ちなみに今回利用したのは「マスカットセット」という特色印刷のセットです。岡山の会社なので他のセットも岡山にちなんだ名前がついてるみたいですね。印刷会社によっていろいろあって楽しい。
BRO'Sさん、前述の2社に比べると特殊装丁のできる範囲はやや控えめですが、それでも箔押しはもちろん、小口染もスピンだってできるし、カレイド印刷もできますし、なんだかんだ結構いろいろできます。webに記載がない非常備の紙でも、問い合わせると使用できたりしますし。今回がまさにそれ。使用した紙の話はまた後で。

なのでオフセット印刷をやった

さて。特色という事は、オフセット印刷になります。過去2冊の本は部数の関係もあってオンデマンド印刷で作っていたのですが、特色はオフセットになります。ホワイトインクとか、メタリックインクを使える特殊なオンデマンド印刷はありますが、特色といえばやはりオフセット。
オフセット印刷になると、何が大変って部数が多くなります。あと、最低金額もオンデマンドよりは高めになりますが、一定の部数以上になればオフセットのほうが一冊あたりの金額は安くなります。
で、元々そんなに作らないからオンデマンドだよね〜〜と過去2冊はオンデマンドで作っていたのですが(それだけではない仕様などの理由もありますが)、BRO’Sさんてば最低部数が50部じゃないですか。過去2回の印刷部数を考えると、これならオフセットでもいけるな…ということで。
特色インクは「銀」「黄色」「蛍光レッド」の3色にしました。マスカットセットでは料金を追加すると、3色までインクを選ぶことができます。何気にメタルカラーとか蛍光カラーが標準色に入っているのもいいところ。追加料金を出せばDICカラーとか、選択肢ない色も可能みたい。とにかく融通が効くのがありがたい。
特色での混色は結構どきどきします。今回に関しては特に銀。黄色と蛍光レッドの混色は正直そこまで汚くなりはしないだろうと思っているのですが、銀はある意味グレー的な、濁りの出そうな色でちょっとハラハラしていました。その問題の混色した背景は、3色それぞれ15〜25%前後の薄さでグラデーションにしています。ベースに銀〜蛍光レッドのグラデがあって、その上に下の方だけ黄色のグラデーションを乗算した形。画像は入稿したデータと実物。

画像1
銀→スミ、黄色→黄色、蛍光レッド→マゼンタで指定
相変わらず物撮りがへた(この後に出てくるアップの画像の方がわかりやすいです…)

背景が思っていたよりも薄めの仕上がりだけど、濁りがなくてよかった!あと背表紙にちゃんとタイトル入れておいたんですが、めちゃくちゃ目を凝らさないと見えません。薄いグラデーションに白抜きしたせいです。120%私が悪い。

特殊紙に空押し

今回表紙に使用した紙は「フリッター」というふかふかした雲みたいな表面の紙です。空押しをやってみたかったので、押しがわかりやすそうな紙を選びました。サガンGAというざらざらした壁紙みたいな紙(漢字だと砂岩なんかな……)と迷ったのですが、フリッターで正解だったと思います。押した部分はふかふかした質感がなくなってつるっとするので、押した感がわかりやすい。空押しで変化することで有名な「パチカ」や「OKフロート」ほど変化の幅はないですが、色が変わらないのに明らかな変化がしっかりわかるので結構おすすめ。すごく気に入ったので、今度は色付きのフリッターで試してみたい。黒とか焦げ茶系統でもよさそ〜。※またやりたいことが増えた。空押しと箔押しの合わせ技もいいな〜。
空押しの形はまあ無難に涙の落ちた感じをあらわしているのですが、涙の表現はエナメル加工というか、厚盛りニス系のあれもいいですよね。いかにも水滴感で。あれは結構金額が張るやつ……。涙の所というか、瞳も含めて透明箔を貼る加工もたまに見ますが、あれもステキ。
ブロスさんは特急印刷以外の場合は予約がいらない(はず)印刷会社さんなので、今回特殊紙については事前にメールで問合せておきました。フリッターで、空押しする時にこのサイズ・このページ数で捲りやすくいい感じになる厚みを教えてほしいという質問にもすっと答えてくれてありがたやありがたや……。ちなみにフリッターはデメリットがあるとすれば、紙の凹凸によってベタにムラが出やすいです。個人的にはこれは紙による味としていい感じと思いますが、ムラが嫌いな人は要注意かな。
あと、今回紙の質感を活かしたかったのでPPは貼りませんでした。ふかふかふかふか……。

本文用紙・モンテシオン

今回、本文の紙もちょっと迷いました。無難にいくならBRO’Sさんにはいつも使う「淡クリームキンマリ72.5kg」のさらに薄めの「62kg」があるんですけど(これ、他社で案外取扱いが少ないので貴重)、今回は試してみたくてモンテシオンという紙を使ってます。
モンテシオンは震災の復興支援で作られた紙らしいです。ラフな感じで、柔らかい、ややグレーがかった嵩高紙です。いつも使うクリームキンマリが名の通り黄色みのある紙なので、グレー系が使いたかったんですよね。
モンテシオンは60kgと69kgの取扱いがあったので、とりあえずそこそこページ数もあるし薄いほうの60kgにしました。紙見本も取り寄せていたのですが、1枚だとわかるようでやっぱりわからないです。できることなら束見本が欲しい。
結果から言うと、ものすごく柔らかくて読みやすいです。めちゃくちゃ気に入った。真っ白でもないので、そこまで目にもキツくないと思います。似てる名前でモンテルキアって紙がありますが、あれはめちゃくちゃ白色度が高い紙なのでおそらく小説には不向き。

右が淡クリームキンマリ・左がモンテシオン。白っぽいけど淡〜いグレー

そう、とっても気に入ったんですけどね……けどね……ついこの間60kg廃盤になったんですよね……。気に入ったものなんで廃盤になるん?(例:ポーラライト)。
モンテシオンは嵩高紙なので、少ないページで厚みを出したい時にもお勧めです。今回の本は風神雷神よりページ数が40p程少ないにも関わらず、風神雷神より背幅が1mm多いです。69kgだともっと厚くなりそう。
ちなみに今回の段組みは1段にしてみました。風神雷神の時は再録分もあって文字数が結構多かったため2段にしましたが、読みやすさの点で言えば2段より1段かな〜と思います。

地の文が少ない場合は2段の方がいいかもしれない


押している部分とそうでない部分との質感の比較

B6サイズ 184p(表紙含む)・無線綴じ・PP無し
表紙・本文共にオフセット印刷(表2・表3は印刷なし)
表紙〜表4は特色3色印刷(銀・黄色・蛍光レッド)
紙/表紙:フリッター ハイホワイト 180kg 
  本文:モンテシオン60kg
加工/空押し:101〜125㎠

結果として、全体的にパッと見ふわふわしたゆめかわ感が若干ある仕上がりになりました。今回の表紙デザインは中央に大きな円を配置しています。タイトルがタイトル(夜明け〜〜)なので、「太陽」をイメージしてるっぽくなっていて、それも間違いではないのですが、作中に出てくる「世界の瓶」を上からのぞいているイメージでもあります。実は。
タイトルを英語で作字したのですが、「W」の部分はまあわかりやすく本に出てくる雷をイメージ。


いつもの宣伝と印刷所さんへのリンクです。
次は新刊その2の話になると思います。暗い赤い本を作った話です。


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