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[装丁小話]1冊の本に箔を4種類押した話

こんにちは、ひいろです。
今回の話、タイトルが全てなんですけど、無事本になるまでに大きなトラブルはないものの、いろいろと書き記しておきたい点があったので記事にまとめました。
※今回装丁の話をするにあたり、内容にも少し触れています(すでにwebへ掲載済みの部分なのでネタバレというには微妙なライン)。本作は二次創作になりますので、苦手な方はご注意ください。

廃盤エエエエエ

話は3月まで遡ります。その頃の私は、装丁小話#壱で書いたはじめての同人誌をキャッキャしながら作成している最中か入稿した直後くらいでした。すっかり「本たのし〜〜」とヤバい遊びを覚えてしまい、次は何を作ろっかな〜もう1冊、今連載しているシリーズ物の再録と書き下ろしでまた今度一冊にしようかな〜とか多分浮かれて考えていたような記憶があります。確か天金加工に憧れていたりしていた。石油王の遊びなので目を覚ませ。
そんなある日、Twitterで見てしまったのです。「ポーラライト箔廃盤のお知らせ」を。え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
ポーラライトという箔は(多分)結構人気のある箔で、ベースが緑色で角度によっては紫〜青系に光る、まさにオーロラみたいなホログラム箔です。これが、廃盤!!え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
なんでこんなにショックを受けたかというと、その作ろっかな〜と思っていた2冊目の本で使おうと考え始めていたからです。主役のうちの一人にイメージがピッタリだからという理由で……。ところが廃盤。これはヤバい。まだ、在庫がないとかそんなレベルにはなっていないようでしたが、廃盤=もう入荷しないという点、このお知らせで駆け込み需要が増えてしまいそうという不安。ぐあー早く作ろ!やる!もう発注するー!!と心の女児大暴れ。
……だがしかしシリーズはまだ連載中。……とりあえず表紙を考えよう、そうしよう……。簡易的に考えたのがこれ。多分Twitterにも載せた。

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「神」がタイトルに入っているので、ちょっとカッチリした書物の表紙みたいなイメージというか。登場人物が使用する武器を対比で並べたりして……。主役が2人なのでちょうどいいんじゃない?と思いつつ、この段階で大まかな方向性を決定。
で、ざっくりともう少しちゃんと考えたのがこれ。なんとなく置きたい要素を適当に配置。この辺りから表4も考えた。話の終盤で表紙に入れている武器がバキバキになるのでそれを表紙との対比で入れています。

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で、確かこの辺りから「……全部箔押しでいくか?」と思い始めたような気がする。気は狂っている。ちなみに次の本はB6と決めていました。
箔押しというのは同じ冊数でも単価が箔の種類と入れる面積で変わってきます。一般的な金箔と今回使うポーラライトではポーラライトの方がホログラム箔という特殊仲間に入るので単価がお高め。面積は大抵の印刷所が大体25㎠刻み(もしくは50㎠刻みかな)で価格が上がっていくイメージです。それを4種類。ふーん……絶対に費用が高いな?(予想)
とりあえず、金額の事は横にそっと置いておいて、そもそもこの仕様で箔が押せるのか?というのを印刷所に聞いてみる事にしました。最大の難関は武器の部分ですね。刃の部分に模様の入っている武器なので、ベースの刃と模様で箔の色を変えています。細かいのに2種類の箔が隣り合っている状態でした。

今回の本を印刷・製本してもらったのはSTARBOOKSさんです。個人的には小説本を出す人も結構使っているイメージの印刷所さん。今回選んだ理由は「ジャングルセレクト(透明)」という箔がどうもSTARBOOKSさんくらいしか取り扱いないっぽい……?(調べが甘いので、他社にもあるかも)と思ったのと、箔の種類が多いから箔押し加工に強そうという予想でした。箔の種類は同人誌印刷所の中でも相当多いと思います。見たことない箔がいっぱいある。あと、作れるサイズにB6が選択肢としてあったのもありますね。とりあえず現状のレイアウト見本とやりたい仕様についての話、あとついでにポーラライト廃盤って言ってるけど在庫あります?という確認も入れてメールしてみました。ポチー。

STARBOOKSさんからのお返事 < シビアなデザインですけど多分可能です
ヤッター!!!

わかってても思わず笑う見積もりが出たよ

やりたい仕様ができる事が分かったので、すぐ申込。今回選んだのはオンデマンドノベルスのセット。そこまで部数も無いのと、サイズがB6なので。STARBOOKSさんは申込フォームでやりたい仕様をぽこぽこ選んでいけば合計金額が算出されてとても便利。その時に「毎割」という早割の価格も一覧で出るのがめちゃわかりやすい。毎割は会員レベルが0の段階でもオンデマンドノベルスなら最大9,300円も安くなります。合計金額的には少部数だとよりお得になるんじゃないだろうか。
ところで今回のように箔を複数使用するときや面積が大きくなりそうな場合は別途連絡欄にその旨を記載すると、再度メールにて正確な価格を教えてもらえました。そこまでは自動では出せぬ模様。
今回使用する箔はこの4種類。STARBOOKSさん、金とか銀も微妙な差で何種類もあるのがすごい。今回の銀は通常の銀よりも僅かに生成りがかったやさしい銀色です。あと、ホロ箔が目立つようにつや消しをセレクトしています。

つや消し銀2Bシルバー(メインの銀箔)
ポーラライト(緑系ホログラム箔)
リフレックスセレクトゴールド(キンキラのホログラム箔)
ジャングルセレクト透明(細かいカットがキラキラする透明ホログラム箔)

ちなみに一度目の見積もりを見た時は笑った。いや、分かってたけどすげ〜〜〜〜額の見積もりきちゃって笑った。え? これトータルの印刷費じゃなくて箔押しの部分だけの費用? ほんと? 本当だったわ。
人間予想を超えられると笑うんだなと知る。ここでSTARBOOKSさんの神対応が早くも出てくるんですけど、「僭越ながら……」と、銀箔を銀のインク刷りにして金額を抑えるのも可能ですよ、とあくまでさりげなく提案の一つとして教えてくれたところ。めちゃ優しいな? あと確かに結構金額下がる。
流石にここで一度あらためて考えてみたのですが、多分私はここで金額を優先して銀刷りで作ると、後々「……やっぱり箔にすればよかった〜〜」って絶対に思うタイプなのでALL箔で強行。箔を押した時に僅かに紙がへこんでいるのを見るのがたまらなく好きなので。
あと、今回選んだつや消し銀2Bシルバーは前述の通り、ちょっと生成りがかった銀なので銀刷りの銀(一般的な銀色)よりもやわらかい色味じゃないかな〜という予想でやっぱり箔かなぁ、となった。
が。
しかし、とりあえず箔の値段は面積が大きく関わってくるので、背表紙のホロ2種は銀だけに変えたり、値段切り替えの境目をさまよっている面積(51〜2㎠とか)は少ない方に収まるようにしたりとか、微調整を繰り返し繰り返し……で最終的に絵柄はこれになりました。いえーい。

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上が箔面積調整前、多分最初に見積もりを出してもらった時のデザインで、下が調整後の入稿直前の状態です。ところどころ絵柄も調整してますね(色が違うのはイメージで毎回適当にそれっぽい色に設定していたせい)。
特にホログラム箔3種が銀よりも単価が高いので、この3種類の面積調整を結構ちまちまやってました。逆に50㎠まで、と確定したエリア内では面積をオーバーしない分で逆に箔面積を広げたりしてます。(表4の血痕のところが主にそれ)あと、表4の登場人物名のところは最初ホロ箔だったけど、そのあたりも全部ベースの銀に変更。表紙ですでにホロで押しているので、そこは銀でもまあいいかなという自分の中での許容です。
メインの銀箔については枠的に一番大きく使っている事もあって、サイズの調整は最初からそんなに詰めませんでした。あとタイトル文字もいつのまにかいじってますね。
この面積の微調整は、絵柄に問題が生じないのであればやったほうがいいと思う。これで結構価格がグッとダウンしました。背表紙のホロを外したのも大きいかな。富豪ならここもホロ箔を使いたかったところですが。
あと、まあ、まだトータルでは普通に高いです。高いなりに下がったということで。

今回気にしていた刃の部分の箔ですが箔に箔を重ねて押すという仕様です。つまり、ベースに絵柄のホロ分も含めたサイズの透明ホロを押し、その上から緑ないし金の箔を押しています。これで細かい柄が重なるところも安心というわけです。わ〜。まさか箔の重ね押しとかできるとは思っていなかった。

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これは私が自分で確認用に作った各箔ごとのJPGです。上がジャングルセレクトの押す範囲で、下がポーラライトの押す範囲。刀の部分に注目して欲しい。ジャングルセレクトは模様関係なく刀身全体を押している、というわけです。
ちなみに諸々との兼ね合いにより、当初マットPP加工をしようかと思っていたのですが、今回は諦めてほしいと言われました。OK。PPをやめたこともあって、表紙は最終的に細かいラメがかわいいキュリアスIRホワイトにしました。ミランダスノーホワイトがキラキララメの紙では有名だけど、キュリアスもかわいいよ。ただしPP加工をするとラメはえぐいほど姿を消すので注意(STARBOOKSさんのPP加工見本帳はめちゃ役立つよ……あれ必見です)。今回選んだ紙は問題なかったようですが、場合によっては選んだ紙がNGになる可能性もあるので、絶対事前に相談した方がよい。

B6サイズ 230p(表紙含む)・無線綴じ・PP無し
表紙・本文共にオンデマンド印刷(表紙・表4は印刷なし/箔のみ)
表2・3はフルカラー/本文モノクロ
紙/表紙:キュリアスIR ホワイト 206.5kg 
  本文:淡クリームキンマリ70kg
加工/箔押し(面積はトータル)
   つや消し銀2Bシルバー:225㎠
   ポーラライト:150㎠
   リフレックスセレクトゴールド:150㎠
   ジャングルセレクト透明:175㎠

は、箔押し最高〜〜〜!!!

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ポーラライトのこの色の振り幅よ……(すき)。
基本的に相当綺麗に押していただけているのですが、若干のズレがあるものも中にはありますが余程ひどいズレではない限り、そのまま頒布しています。念のために頒布するページにはそのあたりの事を書いてあります。

キラキラした表紙を捲ると、あるセリフとともに一転赤〜黒の禍々しい色が出ます。これも今回やりたかった表2・3のカラー印刷。1冊目でやろうとしてやめた仕様ですね。本文はモノクロで持っていきたかったので表2の左端の黒から1pの黒に繋がるようにしています。表2の黒はリッチブラック+オンデマンドでツヤツヤなので、完全に繋がってみえるというわけではないけど。※これは画像載せてないですが、まあこれくらいは実際に見た人の楽しみということで……。表3は対比で恨みがましい言葉と爽やかな色の背景になっています。

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今回の組版。表紙の箔押しの話がめちゃ長なのでさらっと。フォントは前回でおなじみの源瑛こぶり明朝です。B6に2段組、A52段組に負けないくらい文字入るのでおすすめしたい。画像はノドを約22mm開けてるけど、レイアウトグリッドの計算上では1ページ912文字おける計算になってます(24字×19行が2段)。実際にはセリフや改行でそこまでにはならないけども。画像は比較的文字が埋まってる見開きです。

ちなみに表紙がほぼ完成して調整段階の時に、「もし、万が一足りなくなったらこの本は再販無理だな〜」という脳のどこをいじったらそうなるのかよくわからないポジティブさが炸裂して部数を増やした結果、ほぼ箔の面積を調整する前の価格と同じになりました。途中で本文ページ数を変更したのもあるけど(150p→226p)これはひどい。暫くしてから(もう表紙とか入稿した後)早まったかなぁと思ったけどまあいいか……と考えるのをやめました。7/25の現時点で、とりあえず増やしておいてよかったあ〜という結果になっているので、あの時の私を誉め殺したい。よくやった。

今回の本が出来るまで、STARBOOKSさんとは結構やり取りを繰り返しました。本当に足向けて寝られない。中身の3/4が再録の小説本にも関わらず、本の発注からデータ入稿まで2ヶ月を超える程度には月日が掛かっているので、複雑な仕様をかける時はゆとりをもったほうがいいです。余談ですが、印刷代金をクレジットでペロッと決済したら「不正利用か?!」とカード会社にカード止められました(すぐに復活できた)。こんな部数でそんな額なの?!と言われる額です。多分。

これは今回の本(宣伝)。
早速次の本を作っているのですが、次の表紙は多分オフセット多色刷りです(気が早すぎる)。


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