【読書】『桃花源奇譚』

 中国の宋、三代目の皇帝の時代。
 『桃花原記』をベースにした架空歴史小説
 井上祐美子さんの、架空歴史小説はおもしろい。
 ハリウッドの映画でこんなやり取りしてるよね、ってのがちりばめられているのがよい。
 教科書や、古典から歴史に入ると小難しい。
 そんな方にオススメ。
 歴史上の英雄や偉大な人物であっても、僕らと同じ人間。
 たまにはふざけてみたくなることもあっただろうに―――――と思いながら読みながら、歴史に興味を持っていただけると嬉しい。
 こういう歴史の入り方もあるんだよ。


本題。
 三代目皇帝の実子なんだけど、後継者争いでハメられて、生まれた直後に殺されそうに。
 すんでのところを助けられ、八大王家の長男として養育された白戴星こと、趙受益。
 行方不明になった実の母を探しだすため―――――に出奔したはずだったんだけど。

 旅芸人の一座、剣舞を披露していたところ、酔っ払いに絡まれた、陶宝春。
 黙って見ていれば、一座の親方が何とかしてくれたものを、白戴星がちょっかい出したばっかりに――――と思ったら、戴星の実の母につながるヒントが。

 その現場に居合わせただけ、だったのに、なぜにして? いや、興味津々で関わっていく、科挙に「わざと」落第した包希仁。

 これ以上登場人物を紹介してしまうとネタバレするので割愛。
 登場人物の誰もが―――――情けないヤツであっても―――――個性的。
 ここでは、明るく、元気に、まっすぐ生きる、白戴星のエピソード。
 まずは、登場する宦官のセリフから。

私は主を選べる立場にござませぬ。逆にいえば、主が替わることがあっても、それは私の恣意ではございませぬ

 サラリーマンと宦官ではレベルが違うのは承知の上。
 サラリーマンであっても、最悪、転職という逃げ道があるだけましだ。
 宦官って後宮で働くしかないもんな。「パワハラだ!」って訴えることもできないのか。

私自身、どう処分されるかしれたものではございませぬが、それは今、わたしの知ったことではございませぬ。私は、いまの主の命令を忠実に実行するだけですし、新しい主の命にも、だまって従うだけのこと

 こう言われると切ないものを感じる―――――
 のは甘い。
 白戴星はバッサリ切って捨てます。

いや、こいつは主の命令なら、なにをやってもかまわないと思っている。主が替れば、正反対の命令に従うのが当然だと思っている。たしかに、主が替わるのは、こいつの恣意ではないかもしれない。だが、主の命令にただ黙って従うのが正しいことなのか、考えてみろ。人倫にもとるかどうか、おのれで判断せず主に責任をかぶせて知らぬ顔をするのが、臣下のやり方か

 ごもっとも。
 世の中にはやってはならないことがある。
 それを、自分で考えることもせずに、責任は誰かにとらせることで逃げようとする。
 「パワハラ」だって、やってはならないこと。
 たとえ会社に責任があったとしても、それに従うかどうかを考えて、判断したら、パワハラなんて行為に出られるわけがない。
 歴史の勉強しようと思ったんだけど、人としての勉強までできるのです。


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