子育て中の女性アーティスト・インタビュー vol.1 山本優美(1/4)

子育て中の女性アーティスト・インタビュー vol.1 山本優美
インタビュー日:2019年10月25日
場所:石川県金沢市、古本と珈琲NYANCAFE-BOOKSにて
インタビュアー:高橋律子、モンデンエミコ
書き起こし:高橋律子
公開日:2020年3月28日


山本優美 YAMAMOTO Masami
https://www.yamamotomasami.com
1983年大阪府生まれ 5歳より兵庫県神戸市で育つ
2007年金沢美術工芸大学美術学部工芸科陶磁専攻卒業
2009年ベルギー国立ラ・カンブル美術大学セラミックコース修士課程修了
2014年金沢卯辰山工芸工房技術研修修了
現在、金沢を制作拠点に活動している。
2010年に結婚し、2017年に長女を出産。

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(写真)山本優美さん(インタビューの様子)


高橋:山本優美さんには、2018年3月の「アートと子育てミーティング」でも登壇していただきました。ひいなアクションで子育て中の女性アーティストにインタビューすることになったとき、まずは優美さんにインタビューさせていただくことで、どのようなアーティスト・インタビューを続けていけばよいかも見えてくると思い、お声がけさせていただきました。アーティストのことって実はみんな全然知らないんですよね。1日どういう生活をしているのかとか。

山本:なぞの生態ですよね。

高橋:なぞの生態だから明らかにしていいのか、というのもありますね。課題もリアルにしたいけれど、希望も見たいです。

山本:私も実態をできるだけリアルにお伝えすることが役に立つのではないかと思っています。アーティストの取材やインタビュー記事にあるようなアーティストの「おしゃれさ」や「華やかさ」ではなく、「リアルさ」ですね。それと、アーティストの生態というか、暮らし方って、企業や組織に属しておられる方と異なる働き方や動きだと思うんです。制作の手法や活動方法などアーティストの中でも動き方の違いがあると思うのですが、いろいろなケースが少しずつアーカイブされていくことで、アーティストがどのように子育ての時期を乗り越えたかということをアーティスト同士で共有できます。また、アートの中だけに議論が留まらずに、他の領域や業態の方にとってもアイデアの参考になるなどといった広がりがあるといいですよね。広がりをもって、ひいなアクションの活動のなかで一緒に考えていくことで、異分野間でアートに興味を持っている人ともつながれるような気がします。

モンデン:実体験している時にすくいあげないと忘れてしまいます。私は現在6歳と3歳の子育て中ですが、たった1年前のことなのに、優美さんが抱えている2歳の子を持つ苦しさみたいなものも忘れてしまっています。今が必死過ぎて過去のことを覚えている余裕がありません。そういう意味も含めてアーカイブは必要だと感じています。

山本:「ママなんて言ってくれるのも今だけよ」と言われても、この今、しんどいと感じてしまうんです。それでも子供が大きくなったら「あのときはよかった」とか、きっと自分も言ってしまうのでしょうね。

高橋:インタビューでは、アーティストの1日をたどるというのと、経済事情についてもお聞きできたら。

山本:経済事情については本当は言いたくないんです。引け目があるからです。お話しすることはかまわないのですけれど、インタビューとして残るとなると、どういう形で伝えればよいのか。読まれる方は、「知りたい!」と思うでしょうけれど、話す側として不安を感じることなく伝えるにはどうすればいいのか悩みます。わかってくださる方はわかってくださると思うんですけれど、「あなたが好き勝手にやっているだけでしょ」と言われかねないところもあって。

高橋:先日お会いした作家さんは、「主人が役人で収入があったから自由にやらせてもらった」とおっしゃっていました。

山本:理解という点でも経済的な意味でも家族やパートナーの協力に恵まれるとか、柔軟な働き方のできる職場に恵まれることは、アーティストとしてはかなりラッキーなことだと思います。経済的にはなかなか厳しいことも事実なので、ちゃんと伝えなきゃいけないと思うのですが、どういう伝え方がいいのか。ひとたび成功してしまえば、「あのときはこうでした」とかいくらでも言えると思いますが、私自身は活動やキャリアを積み重ねている渦中なので、格好がつかないですね。

高橋:作品で収入が多かったら多かったで、言いづらい面があるかも知れないですね。商売っ気があるような、へんな誤解を生んだりとか。

山本:我が家は経済的にはほぼ主人の収入で生活していて、作家活動にかかる費用や私個人の出費は、自分の収入でまかなっています。展覧会の収入で次の展覧会につなげるというようなかたちです。もし、主人が職を失ったり、自分が一人になったとき、娘を抱えて今の活動が継続できるかといったら、今のような制作時間のかかる作品のスタイルや展覧会の頻度では不可能でしょう。自分の活動の主な収入は作品の販売による売り上げで、これだけで生活していくのは難しいというのもなんとなく想像していただけるのではないかと思います。アーティストは作品の価値をゼロから自分で生み出さなければなりませんし、大型の作品やインスタレーション、サイトスペシフィックなプロジェクトなど作品の販売に直結しないけれど重要な展覧会も多く行います。

高橋:アーティスト活動はご主人の収入からはやらないときっぱり分けているんですか。

山本:今のところそうですね。2014年頃から継続的に個展やグループ展に誘っていただけるようになり、自転車操業ですけれど、展覧会の売り上げでその後に続く展示の費用をまかなっています。東京で1回個展などを開催すると、会場費の負担がなくても制作費や輸送費、搬入出の交通費や滞在費で10万円前後かかります。子供ができてからは、展覧会の数を絞ることで、発表の質を維持していきたいと考えているのですが、展覧会が少なくなることは作品販売の機会が減ることに直結します。

モンデン:アルバイトなどして時給で働いたほうが収入にはなるけれど、それは違うんですよね。

山本: 2014年以降アルバイトはしていません。依頼された展覧会に応えるには制作時間としてもアルバイトをする余裕がありませんでしたし、アルバイトをするために展覧会を断るのは本末転倒だと思ったからです。継続的に展覧会や個展のお話をいただき、一緒に仕事がしたいと思える方々と様々な出会いに恵まれ、忙しかったですが非常にいい状態でした。子供が生まれたのは2017年5月です。2017年から18年の春まで仕事を休み、3月から制作と発表活動を再開し、娘は4月から保育園に入りました。

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(写真)山本優美《うつしみー自分が居てもいいっていう場所》2016年


高橋:2018年3月から展示を再開ということは、それ以前から準備を始めていたのですか? 旧作を出品されたのでしょうか。

山本:妊娠中に、ある展覧会に向けて作っていた作品があったのですが、最終的にその展覧会がなくなってしまい展示の機会が宙ぶらりんになっていました。そのような中でちょうど声を掛けていただき、その作品を復帰後初めての展覧会では出品しました。その後、個展が2つとアートフェアがあって、新作と旧作を織り交ぜながら、なんとか1年を乗り切った感じです。2019年は、2018年の反省もあってどうしていこうかと考えていました。

高橋:クオリティ重視に舵を切った感じでしょうか。

山本:今のスタイルの作品を作り始めて10年ほど経っていて、アーティストとして次の段階を見せていかなくてはいけない時期に差しかかっていると感じています。今までの作品のバリエーションであれば対応しやすいのですが、自分の考えが深化したものを見せるとなると、作品はすぐにはできません。調べたり思索したりという時間も必要で、今は足踏み状態という感じです。そのためにもペースを少し落として次の作品を生み出すステップにしたいと考えています。モンデンさんの活動の仕方から勇気をもらっています。今の、子育て中でバリバリ動き回れない時期だからこそ、考える時間にしたり、違う作品の手法を考える時間にしたいと思いつつ、そんなに効率よく思いついて作れるわけでもなく非常に苦しんでいます。

高橋:子育ての最中に頭のなかをクリアにすること自体が難しいように感じています。保育園に通うようになって作品を作る環境はずいぶん変わりましたか。

山本:どうでしょう。娘が保育園に行っている間でないと頭ですら考えられません。とはいえ、考える時間がふんだんにあるかというとそうでもなくて、家事と「働かなきゃ」という思いとが入り混じって、いつも追われています。

モンデン:制作場が自宅にあると、家のことと仕事と切り離しにくいと思うのですが、逆に小さい子がいるということで、よかった点もあるのでしょうか。 

山本:今、自宅の外に作業場を持とうとしています。同じ町内の古い町家を購入し、そこをアトリエにする予定です。自宅も、もとは町家だったような古い家で、6畳一間をアトリエにしています。窯は、家庭用電源で使える、炉の内寸が25㎤くらいの小さな窯だけ自宅にあって、粘土や釉薬のテストなどはここで焼いています。あとは、展覧会のスケジュールに合わせて公共の窯を借りて制作しています。自宅のアトリエは娘にとって開かずの間で、赤ちゃんの頃から入っちゃダメと言って、一切入れていません。ここ数年で大きな作品も増えてきて、自宅のアトリエや押し入れに入りきらない作品で溢れ、管理しきれなくなっていてきています。外にアトリエができれば、作業場と作品を保管するスペースができるので、自宅で家族も過ごしやすくなると思います。

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(写真)自宅のアトリエでの制作の様子


モンデン:そちらでは生活はしないんですね。

山本:しないです。作業場にしている今の部屋が空くと、夫の両親や私の家族や友人家族も泊まれるようになります。夫婦双方の両親が遠方なので身近に頼れる人はいませんが、いざという時には手伝いをお願いしやすくなるかもしれません。それに金沢って冬は乾かない洗濯物で一部屋埋まりますよね。出産の前後に、母に来てもらったときは2階の一室に泊まりこんでもらったのですが、廊下を隔てた部屋に私たちが寝て、その隣の部屋に娘が寝てという状態でした。日本的なつくりの家だけに、障子戸や襖ですから生活音も聞こえ、長期間来てもらっていたのでだんだんとお互いストレスを感じるようになりました。昨年もまた母に来てもらったのですが、産前産後に手伝いにきてもらった時の反省もあって、別に部屋を借りて、半分移り住むようなかたちで来てもらいました。その時は展覧会は決まっていて失敗するわけにはいかないし、娘の体調不良や途中作品の失敗などがあり、スケジュールはカツカツで、家事もまわらない。私の手がまわらなくても主人がフォローできる状態でもなくて、恥ずかしい話ですが、忙しさが落ち着くまで数ヶ月の間、母に来てもらうしか考えられませんでした。

高橋:ご主人は何時頃帰られるんですか。

山本:早いときは8時ぐらいです。残業や接待も結構あって9~11時ということもあります。その時によりますが、娘が寝るまでに帰ってくることはほとんどないですね。

高橋・モンデン:それは、たいへん。

山本:平日に夫がもっと育児に一緒に参加でき、子供の今の時期をもっと共有できたらという希望はありますが、夫の仕事の努力で経済的にはかなり支えてもらっているので、時に文句を言いながらですけれど、なんとか平日は一人で子供のお世話をしています。

モンデン:家は持ち家ですか。

山本:持ち家です。古い手ごろな物件を見つけて、水周りなどのリフォームをしました。主人は私の仕事を理解してくれていますし、制作をやめろとか、就職しろとか言われたことは一度もないので、感謝しています。平日の家事育児はほとんど私がしているので、娘は母親との2人生活のリズムができてしまって、わりときちきちっとした自分のリズムがある子なので、そこにパパがはいってくると嫌なんですね。オムツを交換するのはパパもできるけれども、ママがやってとか。成長の過程でそういう時期というのもあるのかもしれないけれど、ママじゃなきゃというのが結構あり、うまく育児を分担できないというもあります。

モンデン:女の子のほうが、自分のリズムがあるのかも知れないですね。うちは、お兄ちゃんはそんなこと言わなかったけれど、下の女の子は意志がはっきりしています。「今日はママが送っていって」「パパなんか大っ嫌い」とか。

山本:男の子のほうがおおらかというか、あまり気にしないところがあるのかもしれませんね。

(つづく)

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