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子育て中の女性アーティスト・インタビュー vol.1 山本優美(2/4)

モンデン:ご結婚はいつですか。

山本:結婚したのは2010年、27歳の時です。自分は何も成し得ていないし、アーティストとして活動したいけれど何の実績もなくて、とてもすぐに子供をもちたいという気持ちになれませんでした。子供が生まれたのは2017年です。

モンデン:7年の間にそろそろ子供が欲しいという気持ちになったんですか。

山本:結婚した翌年の2011年に金沢卯辰山工芸工房に入所したこともあり、奨励金をいただいて制作や発表活動を行う環境に身を置いていたので、その間は子供をもつことは難しいと思いました。工房を出た2014年に30歳になり、SICFというコンペティションでグランプリをいただいたことがきっかけで、その頃から継続的にに発表できるようになってきました。忙しく数年を過ごしながら、年齢も30代半ばに差し掛かり子供をもつことを真剣に考えるようになりました。ただ、先々の展覧会の予定が決まっていると、果たして妊娠しながらこなせるのかという不安もあります。個展や、規模の大きい展示の予定が入ってしまうと、今は子供を作れないなと、どんどん先延ばしになっていって。かといって、ほしいタイミングで子供ができるかといったら、そうじゃない。2人目のことも悩んでもいるんですけれども、タイミングが難しいですよね。

高橋:妊娠したのは悩みつつ、できたらできたでという感じのとき、とか。

山本:その頃はもう子供がほしいと思っていました。やっと、という感じでした。今は2人目で悩んでいます。仕事とのバランスだとか。

高橋:私自身は、2人の子育て、結構しんどいです(笑)。

モンデン:私もしんどいです(笑)。ただ、私は2人目がずっと欲しかった。子供と1対1がすごく嫌だったんです。子供が2人いたら子供同士で遊んでくれて、私の時間ができるんじゃないかって思っていたんですけれど、意外とずっと喧嘩していて、私の時間ができるわけじゃなかった(笑)。

高橋:大きくなると楽なところもあるけれど、小さい頃は結構きつかったです。子供の手も1人ひとつじゃ足りないから、ご主人なりお母さんなりの手がどうしても必要になってくる。子供はそれぞれやりたいことが違うから。

山本:そうですか。リアルですね。今、2人目を欲しいと思っていて、悩んでいます。発表をすればするほどそれが繋がって展示のお誘いもいただくじゃないですか。展覧会のお話をいただいたとして、年齢も36歳でまったなしで、もしも引き受けて妊娠が分かって体調が悪くなったらどうしようとか。そういうこともあって展覧会の数を調整しようというのもあります。女性の仕事の進め方ってなんて難しいだろうって思うんですけれど、でもその謎の生態のアーティストたちはみんなやっているんですよね。みんな、なんとか頑張ってやっている。

高橋:数は少ないかも知れませんね。

山本:モンデンさんは普段お仕事されていますか。

モンデン:私は普段、勤めています。週29時間、週休3日です。平日は8時45分から5時か5時半まで働いて、水曜日と土日が休みです。私は家の事情的に収入が欲しいのでフルタイム勤務がしたかったんです。でも、子供が2人になって就職活動をしたら、「実家もないのにフルタイムで働けるのか」とか「風邪引いたら誰が面倒を見るの?」と、どこの面接でも言われて。結局、辿り着いたのが今の職場なんですけれど、平日は働いているので制作できる時間はほんのちょっとです。

山本:でも制作されていますよね。

モンデン:「刺繍日記」があるからぎりぎり保っていますが、そうでなかったら続けることは難しかったと思います。今の制作方法にすごく感謝しています(笑)。

山本:世の中の女性が、子育て、家事、制作と、収入を得るための仕事もされていて、そういう部分でも私は自分に引け目を感じています。私の家も決して余裕があるわけではないのですが、私はこれまで他の仕事はせずに制作と発表活動に集中できる環境があって、それでも活動と子育ての両立を難しいと感じてしまう自分は能力がないんじゃないかとものすごく考えてしまって。現在の手彫りで衣類を焼き物に写し取る制作のスタイルはどうしても時間がかかります。また焼き物という素材のため、最後まで無事に完成するかわからない不安定さと、それに耐えて気持ちを保ち続ける強さ、そして失敗も含めたスケジュールが復帰した2018年はかつかつだったんです。作品やスケジュールが不安で眠れない日も多かったです。子供と一緒にいる時間は制作はできないから、作品のことを考えても仕方がないのだけれども、子供と接していても上の空。どこかで作品のことを考えていて、不安や焦りからいらいらしてしまう。いらいらして子供に接している自分にもまたいらいらしてしまって。人間失格なんじゃないかと落ち込みます。この状態をずっと続けると精神的に病んでしまう、ちょっと危ないと思って、母に助けを求め、その期間はなんとか乗り越えましたが、もうあの状態には怖すぎて戻りたくないです。なので、今は実家の助けを借りずとも自分で無理なく継続できるような仕事のペースを探りながら、子育て中の期間を考える時間にしたり、新しい作品にチャレンジする期間にしてみようかと考えています。今の作品は一点制作するのにすごい時間がかかってしまうし、物理的な制約があるので、異なるペースで作れる作品に取り組みたいという思いもあります。

モンデン:売れるような、小品的なものを量産というのは考えたことはありますか?

山本:今はそこまで手が回っていないということだと思います。例えばアートフェアに出す時はギャラリーの方と相談しながら小品を作ったりとか、個展などでもメインの作品を作りつつ、バックでコレクションしやすいサイズや価格のものを作ったりもするのですが、メイン作品に時間やエネルギーを取られるので、小品のラインナップまでなかなか充実させられない時もあります。

高橋:引け目を感じているという話があったけれど、収入の意味ってとても大きいですよね。本来、アーティストの価値基準は収入ではないはずです。社会的に意味あるものを生み出している唯一無二の人であるわけだから。

山本:ある意味自分の人生をかけている。

高橋:ひいなアクションの活動で社会も変えられたらと思っています。収入じゃないというところに持っていきたいと思いつつ、結構世の中の価値基準って収入だから、そのバランスが難しい。

山本:みんなお金に興味ありますしね。私ももちろん興味がありますが、それ以上に拝金主義というか、お金の価値があまりにも大きすぎるように感じています。最近、『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』(藤田結子著、毎日新聞出版、2017年)という本を読んだのですが、果たして賃労働がその他の労働に比べて本当に高い価値があるのか、と問いかけられています。お金に変えられない労働も実はたくさんあるじゃないですか。アーティストの活動もなかなかお金に還元されにくい活動です。引け目を感じるというのも、裏返しで拝金主義的な考えに染まっているからかもしれません。そこに気づくだけでも価値観は変わります。

モンデン:お金があればということ、結構ありますよね。

山本:お金の問題は、男女を問わず、アーティストの活動につきまといます。日頃の活動のなかで、アーティストは金銭的、身体的、心理的な負担など身を削りながら、安定した収入の見込みもないなかで表現活動を行っています。+(プラス)女性のアーティストは育児の負担を受け持ちがちなので一層関わってきます。私は男性のアーティストが子育てをしながらどのように活動されているかも気になっています。あまりお話を聞く機会はないのですが。

モンデン:同期の方とかはどうですか。

山本:私がお世話になっているあるギャラリーの作家さんたちが、ほぼ私と同じ時期にお子さんが生まれたんです。同世代や年上の男性のアーティストや女性のアーティストです。男性の作家さんは男性の作家さんで、制作や発表を両立させながら家族養わなきゃというプレッシャーがきっとあるじゃないですか。今の時代ですから子育てへの参加も求められる。アーティストによって、いろいろなやり方があると思うので、そのあたりも知りたいと思っています。

モンデン: どんな1日のサイクルで制作されているんですか。

山本:朝は6時ごろに起き、先に自分の身支度と食事をすませます。7時前に娘を起こして、ご飯を食べさせて、本を読んだりしながら子供の身支度を整えて8時半に自転車で保育園に送っていきます。それからまとまった家事をして、9時半ぐらいから仕事に取り掛かれたらいい、という感じなんですけれど、実際は10時くらいから昼まで2時間ぐらいが制作時間です。展覧会に向けてのメールのやり取りや書類の作成など事務的な作業などがあったりすると制作には取りかかれない日もありますね。お昼は12時ぐらいから1時間休憩にしています。

作業風景

(写真)自宅のアトリエでの制作の様子


高橋:自分の中で「休憩」と決めているんですか。

山本:そうですね。昼食と夕飯の準備はその時間にしています。

高橋・モンデン:「休憩」じゃないですね(笑)。

山本:実質的な作業時間は午前2時間、午後2時間ぐらいです。16時には仕事を切り上げて、片付けたり、作品を保護したりして、それから子供を迎えに行きます。娘と帰ってきたら絵本を読んだり、ご飯を食べさせてたり。ちょっと前までは8時ぐらいには娘を寝かせられていたんですけれど、最近は体力がついてきて寝る時間は遅くなってきています。

モンデン:夕飯は何時ぐらいですか。

山本:娘は6時ぐらいに食べています。最近、娘は9時過ぎに就寝するので、私もそこまで空腹に耐えられないので夕方に一緒に食べています。

高橋:ご主人が帰ってきたら、また食事を温めたりとかするんですか。

山本:します。夫は仕事にお弁当を持っていくので、お弁当に持っていけるような料理を作ります。できるだけ手のかからないような献立にしています。お野菜多めの1品~2品みたいな感じ。ちゃんと食事をしないと体調を崩しやすくないですか。子供がもらってくる風邪も強烈だし。料理は気分転換になるので嫌いではないですが、時間がない中で毎日のこととなるとしんどいです。でもきちんと食事をとることを、健康で気持ちよく過ごすための楔のように感じています。

高橋:本当に制作する時間がないですね。

モンデン:1日4時間ぐらいしかできないですね。

山本:4時間制作できればいいほうです。会社勤めは会社勤めで大変なことがたくさんあるのだと思いますが、会社に行って、仕事があって、自分も仕事をこなしている感覚があって、しかもお給料が支払われる。帰ってくれば仕事と切り離せる感じがあるように想像するんですけれど、アーティストって机に向かっていれば何か生産できるかといえばそうでもない。アイデアが降ってくるかといえばそうでもない。公私もあまり分け隔てがない。活躍されているアーティストの方は、それをロジカルに進めるようにされていると思うのですが、私はまだそれがつかめなくて。次の作品の展開についても、悶々と本を読んだりとか、生産的に過ごせない時間もあります。こういう時は心の持ちようが難しいです。決して遊んでいるわけではないんだけれども、会社に行って仕事をこなしているような感覚とは違う動き方をしているので。

高橋:子供が寝た後、もう少し制作するというのが理想ですか。

山本:したくないですし、基本的にはやりません。また明日1日フル回転できるよう体を休めたいです。現実は、家事がちょっと残っていたりもするので、体力的にはぐったりです。

高橋・モンデン:ぐったりです。(笑)

山本:こんなことを明らかにすると、お前もっと仕事しろという声が聞こえてきそうで怖い(笑)。

高橋:私はもうご飯は、大人の面倒は見られませんってことにしています。子供のためのご飯は作るし、そこにご飯はあるので温めたりは自分でやってください、あるものはなんでも食べていいからと。

山本:自分の中の割り切りの問題もあるのかな、って思います。

モンデン:私も子供が2人になってから「かわいい妻」的なところはなくなりました。主人の帰りが遅い時に、主人だけのためにご飯を用意して待っているということはなくなりました。子供を寝かしつけたら力尽きてしまってそこまでできなくなりました。優美さんも2人目が産まれたら、お昼を挟んでの2時間+2時間の制作時間すらとれなくなるかも知れません。1年くらいは難しい状況が出てきそうですね。

山本:2人目もいつできるかもわからないし、そうこうしている間に時間は過ぎていっています。

高橋:怒涛のように日々が過ぎ去って、早く終わっていくのもいいかも知れない。

山本:そうなんですけれど、そうもいかなくて。自分に2人目をもちたいという意志があると、先々の仕事を入れるのが怖いですし、先方に迷惑をかけたらどうしようという思いもあります。仕事でお世話になっている方々とはしっかりとコミュニケーションがとれるので、家族計画はこういうふうに考えていますということを相談していて、ギャラリーから仕事の依頼は調整してくださったりしています。

モンデン:イメージとしては、ゆくゆくアーティスト活動をどんなふうにしていきたいですか。

山本:いろいろな場所や人と出会いながら作品を進化させていきたい。でも今は子供や家族と過ごす時間とアーティストとしての活動を、無理のないバランスで継続することを重視しています。今は子供のお世話にエネルギーが要るので、あまり踏ん張りがききません。そしていつ子供を授かるかわからないので先々の展示スケジュールを立てにくいです。制作スタイルとも関わっていて、時間がかかり、失敗する可能性もあるような作品なのである程度余裕のある制作期間が必要です。展示のお話をいただく時、時間的な余裕があることばかりではないので、ご相談ができるような状況であれば、時期や作品の内容の調整をお願いしたりもします。

高橋:美術館に勤める立場から言うと、誰だって病気だとかいろいろあるし、子供も産まれるかどうかわからないわけだから、気にしなくていいんじゃないかと思う。その時はその時で、何かしらやりようを考えるしかない。病気になる人もいるし、死んでしまう人もいる。妊娠だから計画性があるように見えるけれども、そんなものでもないし、事前に言わなくてもいいように思うけれど。持病があるから言わないといけないとか、そういうのはかわいそう。言ってもらえたらありがたいけれど、そうするとこちらは控えることしかできないから。

山本:私は言ってしまったほうが気が楽なんですよね。作品を作ることができるのは自分しかいないという責任があるので、展覧会の予定が入って、会期があって、妊娠したりして、体調不良で作業が追いつかないということになって迷惑をかけるのが恐ろしいというのがあります。「できません」と伝える恐ろしさ(笑)。それでも計画的にいくものではないし、場当たり的にやっていくしかないと思いますし、タイミングにもよるので、控えるのではなく気軽に「参加できそう?」と打診してもらえると嬉しいですね。長女を妊娠した時はつわりが重く体調が悪い期間が2か月半ほどあったので、もし二人目を授かり、展覧会の予定があってスケジュールがぎりぎりで、娘のお世話もあって、つわりがひどいということになると精神が崩壊するな、という心配があるのでそれは避けたい。

モンデン:それで精神が崩壊したら最悪ですよね。

山本:子供を出産されて何年か制作をお休みされるアーティストの方もいらっしゃいますよね。私自身は休むのは怖いんですけれど、しっかり割り切って制作を休まれているアーティストの方に好感を抱きます。子育てで何年か休まれてまた復帰されているアーティストの方を見ていると、休むことはそんなに問題がないような気もします。その方が実力があるということなのかもしれませんけれど。

高橋:それもそうだと思います。休んでもいいと思う。

山本:それで展覧会の数を調整しようかな、と思ったんです。もし先に規模の大きい展示の話などが来たりしたら、きっと私は子供を持つことを先延ばしにしてしまうでしょう。年齢的なこともあります。さばさばしたいなあ。

高橋:でもそれが優美さんの作品の持ち味でもあるんですものね。

山本:もやもや考えています。

(つづく)

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NPOひいなアクションは、子育て中の女性アーティストを応援する団体です。アートと子育てを隔てる壁をなくし、女性アーティストが地域の中で活躍する場をつくり、すべての人にとって生きやすく豊かな社会を目指して、さまざまなアクションを起こしています。