パレイドリアの顔は、どう見えるか?
レビー小体型認知症の特徴の一つに「色々なものが顔に見えやすい」という現象があります。その現象には、パレイドリアという名前が付いています。
先日、レビー小体型認知症の幻視・錯視を再現したARを体験しました。
静岡大学の石川翔吾さんらとアルファコードという会社が共同開発しているものです。
「VR認知症 レビー小体病幻視編」(シルバーウッド)では、幻視や錯視を見て体験するのですが、ARでは、仮想空間の中に自分も入り込んで、物をつかんで動かしたり、顔を近づけてアップで見たりすることができます。
その時、一番違和感を覚えたのは、コーヒーの表面に浮かぶ人の顔でした。
何コーヒーかは分かりませんが、表面にリアルな人の顔(写真)が張り付いています。
幻視ではなく、パレイドリアを再現したものだと聞きました。
そこで、静岡大学の開発者と、どんなものが、どんなふうに見えるかという話をしました。パレイドリアについて、人とこれほど話をするのは初めてでした。
よく話してみると、認識に違いがあり、想像以上にわかりにくいものなのだと初めて知りました。
人は、誰でも点が3つあれば、「まるで顔のようだ」と認識します。
でも、レビー小体型認知症(レビー小体病)の場合、健康な人には、顔に見えにくいもの(木漏れ日、模様、布のシワ、木の茂みなど)の中にもすぐに顔を見つけてしまいます。
例えば、その特性を検査に利用した写真があります。
(この論文の15ページに10枚の写真があります。)
下の3枚は、私が自分で撮影した「顔」です。
歩いていて「顔だ!」と目を引かれたものです。じっと見ている内に「なんとなく顔にも見えるなぁ」ではなく、視界の隅に入った途端、「顔だ!」と強烈に目を引きつけられ、しばらく目を離せなかったものです。
木だということは完全に理解していますが、顔にしか見えないです。
脳内の「顔認識センサー」が過敏になっているのだろうと考えました。
写真を撮った時は、地割れを撮ったのですが、後で写真を見ると黒い闇の中に人の顔が見えます。ぼやけて、表情ははっきりしませんが、どうしても顔だと感じます。不気味な感じがします。
8月なのに秋のような雲が出ているので撮った写真の一部です。(撮った写真はこの約9倍の大きさ)
この写真も後でよく見ると顔がたくさん見えます。小さな丸い雲が一人の顔の輪郭です。目も鼻も口もぼんやりしていますが、「あ、これも顔。ここにも顔。これも顔」と、次々と顔が見つかります。
雲だとは理解していますが、やはり脳内の顔認識センサーが、勝手に次々と反応してしまう感じです。
地割れの写真ほど不気味さは感じませんが、顔がたくさんあるのは、ちょっと怖いなと感じます。
*パレイドリアは、アルツハイマー型認知症では起こりにくいと言われます。
*レビー小体型認知症の幻視は、何もない所に、人(性別、年齢は様々。生きている子や孫/故人/知らない人であったりする。)、動物(犬猫など小動物が多いが、動物園にいる動物の場合も。)、虫(クモ、ハエ、アリ、蛆虫など様々)が、はっきりとリアルに見えるのが典型例です。
煙、水、光、風景などが見える場合もあります。
人によって見えるもの、見え方には、違いがあります。
最後まで幻視が出ない人も3割程度います。初期から出る人は、3-4割です。
*錯視は、実際にあるものが、全く違うものにリアルに見えます。
電気のコードがヘビに、落ち葉がスズメに、ご飯の上のふりかけが虫に、ハンガーにかけた服がその服を着た人間に見えたりします。
見間違いの一種と言われますが、幻視のようにはっきりと本物に見えます。
動かない場合もリアルに動く場合もあります。
*パレイドリアも錯視も、そのものを視界から取り除けば、消えるはずです。例えばクッションが顔に見えていた場合、クッションを隠せば顔も消えます。しわくちゃのシーツが顔に見えていた場合、しわをピンと伸ばせば顔も消えるはずです。
庭の茂みとか、木の場合は、大きなシートで覆ってしまえば、顔は、消えると思います。
*幻視への対応については、『レビー小体型認知症とは何かー患者と医師が語りつくしてわかったこと』(樋口直美・内門大丈著 ちくま新書)をお読みください。