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【校正12】大西寿男著『校正のこころ 増補改訂第二版ー積極的受け身のすすめ』を読む


校正者の大西寿男さんによる本。
この本の感想を書きだすのに、時間がかかりました。
というのは、論点が多く、勉強になることも多く、含蓄のある本でもあったから。
どこから手を付ければいいのか迷ったけど、この記事では論点をサブタイトルにもある「積極的受け身」に絞ります。

この増補改訂第二版は、現在の校正者が置かれた状況を踏まえた上で書かれています。
ICT化はもちろんのこと、短い納期への対応が求められる(どこを校正するか仕事の責任範囲を明確にする必要もある)、ライターさんが書いたまま印刷所に出された初校は誤りだらけ…。
一方で校正者の仕事がドラマで光を当てられ、SNSで校正者が発信することもある。そんな状況。

校正者は「徹底的に受け身」の仕事と筆者は書いています。
編集者であれば編集方針や編集企画に関われるが、校正者はそうではない。
裁量権や自己決定権があるわけではない。
著者や編集者の領分を侵さないことが求められる。

一般的に、校正者は執筆者から委任を受けている立場なので、「さかしら」こと自分の主観で文章を直すのはNGとされています。
明らかな誤字脱字は赤入れしていいけど、表記の統一が取れていないなど「誤り」と言い切れないものは赤ではなく鉛筆で疑問出し、Wordならコメント機能で入力します。

でも、原稿の言葉を積極的に傾聴し、「目の前にある言葉をより生き生きとあるべき姿にするため、誤りを正したり、かたちを整えたり、疑問や対案を提示すること」はできる。
その点において主体性を発揮するのが「積極的受け身」になると、筆者は示します。

「さかしらをしない」については、以前こちらでも書きました。
https://note.com/hihayuki/n/n429be1f7c47c

それをさらに進めて考え、現在の校正者の置かれた状況を踏まえた上で、見方を提示してくれたのが「積極的受け身」という概念だと思うのです。
単なる「わきまえろ」ではなく、原稿やゲラの言葉と向き合ったときに出てきた疑問点を積極的に出していくことも必要。

(そこまで本には書いていなかったけど)実務に落とすならば、疑問点をなにも調べずにコメント出しするのはよくないと思います。それだと「さかしら」的になりがち。
そうではなく、自分で辞書などで根拠を明確にし、原稿の意図を汲み取ったうえで、積極的に相手に提示するのが重要だと理解しました。
校正はゲラに向かって孤独に作業するイメージがあるけど、実は著者、編集者、原稿やゲラそのものとのやり取りなのだなと。

この本は、単なる校正のあるべき姿やノウハウだけでなく、言葉に対する向き合い方、慎重かつ丁寧な姿勢もうかがえます。
「校正」とは、いや「言葉」とはこんなにも奥深いものなのか、と気づかされた一冊でした。


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