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音楽制作業 OFFICE HIGUCHI 10周年までの道のり#4 〜阿佐ヶ谷への引越し〜

お世話になっております。代表の樋口太陽です。

2012年のはじめ、中野のアパートを離れ、引っ越しをすることになりました。

前回の記事にあったように、僕、兄、シェアハウスのメンバーのオチさん、それぞれの心情的な事情もありますが、もう一つ、具体的な引っ越し理由がありました。

騒音問題です。

中野のアパートは、一階のワンフロアに一世帯、二階のワンフロアが僕たちの世帯、二世帯だけという作りをしておりました。一階は、おそらく男子学生のシェアハウスのような雰囲気でした。軽量鉄骨で壁も薄い物件です。

よりにもよって、当時の僕たちは夜型生活。音楽の仕事に本腰を入れはじめるのが、22時ごろ。仕事が終わるのが朝方(下手をすると朝には終わらず昼まで・・・)というのが日常でした。

防音工事も何もしていない物件で、アコースティックギターをかき鳴らすのはよい方。歌のレコーディングでシャウトしたり、パーカッションを叩いたり、けっこうな大音量でミックスをしたり、兄弟で、ありとあらゆる騒音を出していました。

ある時、僕が夜中にコンビニに夜食を買いに行って我が家に近づくと、何やら奇妙な音が聴こえます。ウチで兄が唱えているお経が、近所中に響き渡っているのです。これに宗教的な理由はなく、お経をテーマにした、お笑いのネタ的な音源制作の仕事だったかと記憶しております。
 
また、こんな事もありました。リズムネタで有名なお笑い芸人の、2700 八十島さん。彼は、我が家でのボーカルレコーディングで、歌っていてノってきたら、足をドン!ドン!と踏み鳴らして歌うのです。

「八十島さん、すみません、歌はいい感じなんですが、ちょっといま夜中なので、足でリズムをとるのをやめてもらってもよいでしょうか・・・」

「あっ、本当!? 太陽ごめん!わかった!」

こころよく返事していただきましたが、いざ録音が再開してノッてきたら、またドン!ドン!ドン!と、高らかに足を踏み鳴らしながら歌います。彼はいつでも本気。たとえカメラが回ってなくても、身体の動きは本気なのです。リズムにノッている彼を止めることは、僕にはできませんでした。

こんな調子で毎日を過ごしていたにも関わらず、下の階の住人から苦情は一度もありませんでした。年齢が若く、お互いに夜型だったりしたのかもしれませんが、おそらく上から聴こえる音が、とても趣味や遊びで鳴らしているような雰囲気に聞こえず、何か事情があるのだろうと、懐深くとらえていただいたのかもしれません。また、単純に 上から聴こえる様々な音の本気度が恐ろしかった 事が原因かもしれません。下の階の住人の方々、この場を借りて、本当に、本当に、申し訳ございませんでした。

たまたま苦情は出てないにしても、これはとても事業をグロースできるような経営環境ではありません。グロースどころか、いざ苦情が来たら一発で僕らの音楽制作事業は終わりです。次の物件は、決して近所に迷惑をかけないようにしよう、と考えていました。

僕らが住んでいたのは中野。オチさんが住んでいたのは高円寺。親しみある中央線のどこかにしよう。東京で三人で住むなら、家賃は10万円台後半から20万円ぐらい・・・? 兄が2部屋、僕が2部屋、オチさんが1部屋の個室が必要だから、5LDKは欲しい。騒音問題を考えると、一戸建てしかないだろう。

と、大体の条件は絞り込めてきました。

向かった不動産屋さんは高円寺のウエブンというお店です。
そこで出会ったのは、みずほさんという人物でした。

かつて僕は、不動産の仲介業者というものに、よいイメージを持っておりませんでした。中野のアパートを探した時のことです。業者の方と内見に行った際、明らかにイマイチな物件にも関わらず、「まぁ、この部屋は広いですし工夫すれば・・・」と、内見したどの物件にも、無理矢理にメリットを探し、薦めてきました。

そこから透けて見えるのは、「この人はきっと早く成約させたいんだろう」 という思惑です。これが一般的な仲介業者かと思います。

しかし、ウエブンのみずほさんは、真逆でした。

物件の内見に行ってすぐ、「太陽くん、ここは違うよね?」僕らのリアクションを待たずして、一瞬でばっさりとジャッジして次の物件に向かいます。みずほさんの物件選びのディレクションは、自分の仲介業者観を変えるほど鮮やかなものでした。無駄な手間と時間をかけず、理想のゴールに向かうのに意味のある箇所だけ力を注いでいく。書類に記載されたスペックにはあまり左右されず現地で味わうフィーリングで、どんどん取捨選択していく。

今、振り返るとウエブンのみずほさんは、業種は違えどディレクションの本質を体現した、自分の中で印象に残る、優れた「ディレクター」の一人です。AIが台頭していくこの時代、わざわざ人間が関与するに値する仕事は、このような明快かつ、感覚的なディレクションだと思います。

話を戻します。この時の僕らの求める条件を満たす物件は、中央線付近にはなかなか存在しないものでした。まず、5LDKの一戸建てで賃貸というもの自体があまり出てこないそうです。あったとしても、駅から遠かったり、古すぎたり・・・。

そんな中、みずほさんから、「ちょっと高いんだけど、すごいの出てきて、これどうかな??」と提案された物件は、阿佐ヶ谷駅から徒歩5分。築浅の三階建5LDKの物件。駐車場付き。家賃は、30万円でした。

30万円。完全に予算オーバーです。

かつて福岡市でも3人でシェアハウスをしていた事がありますが、その時の家賃は6万5000円。ひとりあたり2万1666円です。その感覚でいうと、30万円だと 13人で住む ような計算になります。当時の僕たちにとって、罪悪感さえ覚えるほどの、高額な家賃でした。シェアハウスを行う目的が「なるべく家賃を抑えること」であれば、この提案は的外れです。しかし、僕たちにとってはこの提案がベストであった事を、徐々に思い知ることになります。

予算オーバーだけど、家賃以外はよさそう・・・試しに内見行ってみますか・・・。

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えっ、コンクリート打ちっぱなしのクールな外観・・・?

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えっ、リビングの床素材は何・・・デザイナーズ・・・?

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えっ、動線が広々と使いやすそうなキッチン・・・?
奥には、パ、パントリー・・・?

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えっ、ブラックを基調としたシックなバスルーム・・・?


僕らは、舞い上がってしまいました。予算オーバーだが、それを超える魅力がある。そしてコンクリートの一戸建てなら、防音面でも申し分ないだろう。何より後押ししたのが、法人登記がOKな物件であることでした。これで堂々と会社がやれる・・・。

結果、ぶじ成約となりました。

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引越しの際にお世話になったのは、たかくら引越しセンターさん。
兄のよしもとの先輩でもあります。たかくらさんは、芸人なのに、引越し屋さんなのです。

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引越しの際、僕は驚愕しました。僕が一人で運べる分量の数倍の荷物を、一人で運んでいるのです。奇術、あるいは魔術のような光景です。

人間の身体能力って、素晴らしい。

通常、オリンピックなどを観戦した時に抱くような感想を、たかくらさんの引越し業務を見て僕は感じました。

人間離れした腕力、かつ、ものすごく丁寧な、たかくらさんのプロの仕事に感動した僕は、その後の東京での引越しは全てたかくらさんにお願いしました。

引越し後、僕らは狂ったように何度もIKEAに行って家具を揃え、家を整えました。ビフォーアフターをご覧ください。

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これがビフォー。中野のダイニング。


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これがアフター。阿佐ヶ谷のダイニングです。

考えられないほどのジャンプアップです。

ちなみに、アフターの写真でたたずんでいるのは同郷の田川出身であり、数々の歌唱をお願いし、数々のライブでも共演してきたソウルメイト、いのうえあいちゃんです。

兄と僕の仕事部屋には、念には念を入れ、二重窓を施工し、防音対策も万全になりました。

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当時の僕の仕事部屋です。寝る部屋と仕事部屋を分けて、やっと遠慮なくお客さんを呼べるような空間になりました。

この予算をブチ上げた物件選びは大成功。当初は家賃が払っていけるかどうか不安なところもありましたが、新居パワーのおかげか、その後の仕事は調子良く回り、30万円の家賃が特段高いとは思わなくなるほどのリターンをもたらしてくれました。

最優先すべきは、金額を抑える事でない時もある。

それを、この阿佐ヶ谷の物件と、ウエブンのみずほさんが教えてくれました。

その後も、みずほさんには、結婚後の新居、友人の家探しと、何度もお世話になったのですが、後日談として言っていたことがあります。

太陽くん、あの物件ほんとよかったよね〜。賃貸で、あんな一戸建ては珍しいのよ〜。ただ、オチさんが大企業の勤めじゃなかったら、ぜったい審査は通らなかったよね〜。

オチさんは、僕らと同じような仕事をしているわけではなく、全くの別業種。純粋にルームメイトでしたが、僕と兄とだけで引っ越しを考えていたら、こんな物件は到底無理だったのです。この身の丈に合わない引越しが実現したキーマンは、実はルームメイトのオチさんでした。

その後、僕らはこの自宅兼オフィスを最大限に活かし、仕事の幅を広げていくことになります。


つづく


ウエブンのみずほさん
たかくらさん
そして、オチさん

この場を借りて、ありがとうございました。


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