70. 雨を空に戻すより難しいこと

スマホの着信も気にしない
外の天気も気にしない
神様の機嫌も気にしない
あの娘に体温を注ぎながら
ベートーヴェンを口ずさんでる
色々と気づかってくれるけど
答えを急ぐ必要はないんだ
大丈夫だよ、ゆっくりでいいよ、と
自分に言い聞かせてから歌い出す
ビスでもネジでも歯車でもいいから
私を使って走りなさい、と彼女は言う
君と手を繋いだままならそうしたい
母の日にはエプロンを
父の日にはウイスキーとビーフジャーキー
凍ったブルーベリーを指でつまんで
ホームと電車の隙間に落とす
君の挫折まで好きになれそうな気がしてる
男は女の欠点を愛する生き物だ
傷だらけの白い手で頭を撫でてくれ
猫みたいに目を細めるから
僕らの影がひとつになる頃に
天使が目を覚まして笑う
オペラにフォークを突き刺して
くしゃくしゃのカスタネットを叩く
パジャマ姿で口笛を吹く
暖炉の前で絵本を読んでいるレイが
おじいちゃんになる頃、僕はいない
核兵器のボタンって
世界中にいくつあるんだろう?
二郎さんが誕生日に買ってくれた
赤い財布もなくしちゃって
ハイロウズのライブでゲットした
甲本ヒロトのピックもなくしちゃって
でも残ったものは、心の中にあって
いつまでもキラキラ輝いてるから
嬉しくなったり、悲しくなるんだろう
君の耳に届くまでの長い旅が
7年前に僕の喉を
震わせていたという事実
甘い惑星が空から降るとき
両腕を広げて踊るヒッピーたち
野良犬も笑っている

君を抱きしめた感触を
言葉にすることは
どうやらできないみたいだ
雨を空に戻すより難しい

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