【毒リンゴ農家に嫁いだ娘の詩】

アカリは文字が読めなかった
少し耳が悪かった
薄く美しい唇を持ってた
19歳で、毒リンゴ農家に嫁ぎ
四畳半19800円の家賃の為に
朝から晩まで汗を流した
夫は早くに病気で死んだ
取引先の魔女とは仲良くなれなかった 
魔女は耳の悪いアカリに大声で
自分がいかに美しく賢いか
お姫様がいかに淫乱で頭が悪いか
そればかりを力説した
言葉の種類を知らないアカリにも
悪意というものを感じられた
でも所詮、現実とは関係ない話だった
もう「おとぎ話」なんて歳じゃないし
仕事だと割り切っていた
そもそも毒リンゴ農家の取引先は
その魔女ひとりきりで
だから毎日、毒リンゴは山のように余った
お姫様は何度も死んだ
死ぬ度に、王子様がキスをして
目を覚まして、誰かが本を閉じて
誰かが本を開くと、また毒リンゴを食べる
お姫さまは馬鹿だとアカリは思った
そんなことをいったら
あらゆる本の物語の登場人物は馬鹿者で
何度も同じことを繰り返してしまうものだ
でもそれはあたしも同じじゃないの?と
毒リンゴを眺めながら
時々、アカリは途方に暮れてしまった
余った毒リンゴはアカリの夕飯になる
アカリには毒がちっとも効かなかった
少し視力が落ちたくらいで 
免許証の書き換えの時も 
適性検査は通るくらいだった
一生懸命に労働する人間に毒は
通用しないのだと、世界は証言した
腐りかけの毒リンゴは美味しいけど、
そればかりだと飽きるので
時々、寿司や天ぷらを食べた。
アカリは自給320円で働いていた
そこから家賃を差し引いて
お金が5000円くらい溜まると
ディスクユニオンに行って
ジャズの中古CDを購入した
ジャズのCDはボックス5枚組が
2000円くらいで購入できた
ジャズはあまり言葉を知らないアカリに
嬉しさみたいなものをくれました
光のようなものをくれました
耳が悪いので爆音でジャズを流すと
近所から苦情が来た
ボリュームを落とすとき
少し悲しくなる

毒リンゴのプールに飲み込まれる
美しい唇をもつアカリは
恋を知らなかった、愛を知らなかった
ジャズを知ってた、物語を知ってた
美しい唇を持っているのに
現実の世界には王子様はいない
好きな物語の終わり方は
ハッピーエンドでキスすること
このまま、毒リンゴ農家でずるずると
来るはずのない王子様を待っていなきゃ
いけないと考えると、
憂鬱な気持ちになりました
憂鬱(ブルース)とジャズが絡みあって
冬の青空の影を震わしました
いつかお金が溜まったら
毒リンゴ農家など退職して
外国に住みたいとアカリは考えていた
それかお金が溜まったら
アップルのマックブックを買おう、いや
その前にiPhoneがほしい
私を遠くへ連れてってくれるものを
私を遠くへ連れ去ってくれる感覚を
欲していた
言葉を知らない私にも
耳の不自由な私にも
どこかに行けるかしら
何かを作れるかしら
そんな事を考えながら
今日も朝から毒リンゴの収穫する 
空はあまりに綺麗な青空でした

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