【エッセイ】映画とセブンアップ
長い間、勘違いしていたことに気づくと、びっくりするのと同時に笑えてしまう。
僕は22歳くらいの頃に、映画館でアルバイトを始めた。面接日、39度の熱を出したが突撃して、根性を買われたのか採用された。
チケットのもぎりや、シアターの掃除もしたが。メインは売店でホットドッグや、ポップコーンを売る仕事を任されていた。
とにかく忙しい職場で休む暇がなかったし、
夏休みのワンピースの映画など、店外までお客さんが並んで地獄だった。まるで東京のマクドナルドみたいだ。一日働くと制服の下のシャツから髪まで、キャラメルポップコーンの匂いが染みついた。
でもバイト仲間は良い人が多かったし、僕はTさんというバイトの女の子に、恋をしていたので割と楽しかった。幽霊が出ると噂されている、映写室にも一度だけ入れてもらえた。給料日には月に3枚ずつ、映画の無料券をもらえたけど父にあげていた。
仕事にようやく慣れた頃に、売店に新商品が増えることが決まった。梅味のポップコーンと、ナンカレードッグと、アップルパイと、セブンアップだった。
セブンアップ・・・ってなんだ?分からないので上司に質問すると。
「ああ、セブンアップはスプライトと同じものだよ」と簡単な説明をされて、ふーんと思った。一杯だけ試飲させてもらうと、確かに、普通のサイダーだった。
外国の炭酸飲料では有名らしいけど、
田舎町では珍しい飲み物だったから。
お客さんに「セブンアップってなんですか?」と、聞かれることが多かった。僕は当然のように「スプライトです」と答えてた。
それから二年ちょっと働いたが、東京でしていたバンド活動に熱が入り、上京することを決めて映画館を辞めた。最後の出勤日、皆から上京を応援されて、色紙に寄せ書きをもらったりした。かなり忙しくて、しんどいバイトだったけど、青春の1ページと素敵な思い出になった。
Tさんの連絡先を聞く勇気はなかった。
だいぶ昔のことだし忘れていたけど、
最近、あるドラッグストアで、僕は驚愕してしまった。なんと飲み物売り場に、
「セブンアップ」と「スプライト」が、
同時に並んで売っていたのだ。
え!嘘!?違う商品じゃん!!!
長年、騙されていたし、
僕はお客さんを騙していたのだ。
こんなオチがあったなんて・・・
思わず笑いがこみあげてきた。
久しぶりにセブンアップを買って飲んだ。
なんでもないサイダーが妙に美味しく感じた。
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