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朝のはなし。(4)

今日の主人公は、55歳男性。

普段の朝だったら、6時半に起きて妻が作ってくれた朝食を食べるが、昨今の社会情勢から、仕事がリモートワークになったため、最近は8時過ぎに起きて、9時のWeb会議ギリギリにパソコンの前に座る生活が続いている。

しかし今日は、5時に起きてしまった。

妻は隣でまだ寝ている。

外を見ると、今日は天気がよさそうだ。

外出自粛要請に愚直に従っていたというより、髭をそったり着替えたりするのが面倒くさくて外出しなかっただけだが、久しぶりに外の風景を見た気がする。

太陽が出ていて、雲があって、鳥が飛んでいて、遠くに海がきれいに見えていて……。

自然は呑気で良いなと思ったが、心が廃れ始めていることに気づき、少し反省してしまった。

ぼぅっとしていたら、ふっと時計とピントがあった。

もうすぐ5時半になるところだった。

テレビをつけようかとも思ったが、きっとあのニュースばかりで、朝から疲れてしまうだろうと思った。

廃れた心をきれいにしようと思い、何をしようかと考えた。

ふいに、リモートワーク期間を利用し、毎朝家族のために、朝食を作っているという同僚の話を思い出した。

キッチンに立ってみたが、おそらく3年ぶりに立ったので、何をすればよいのかわからなかった。

色々見ていると、妻が味噌汁とご飯の準備をある程度して寝ていたようなので、正直朝食の準備はやることはなかった。

だが、何かしないと気が収まりそうにないので、冷蔵庫を開けいろいろ考えた。

クックパットを見て、これならできるなと思い、キッチンを荒らして1時間ほどかけて、料理をしてみた。

完成した料理をお皿に盛り付け、LINEのトップ画面用に写真を撮った。

そうこうしているうちに、6時40分になり、炊飯器がピーピー鳴った。

そして、妻が起きてきた。

「おはよう。」

声はかけたし、電気もついているし、この部屋の違和感は少なくないはずだが、妻は何も反応せず、ゾンビのように洗顔にいった。

10分後に戻ってきた妻は、さすがに違和感に気づき、何をしているのかと聞いてきた。

「たまには、こういうのもいいだろ。」

妻は吹き出し、大笑いした。

「そういうことじゃなくてさ、なんで朝から鶏の唐揚げなの?」

机の真ん中には、大皿にドーンとのった大量の唐揚げがあった。

そういわれると、なぜ私は朝から唐揚げを作ってしまったのだろうか。

私は、今の今まで、起きて2時間ずっと寝ぼけていたのだろう。

質問の返答に困っていると、妻がまた大笑いした。

「胃もたれを感じる前にさっさと食べつくしちゃいましょう。」

妻の大笑いと妻のわけのわからない言葉につられて、私も大笑いしてしまった。

こんなに夫婦で大笑いしたのはいつぶりだろうと思った。

今日は、久しぶりに生き生きと疲れそうな一日になりそうだ。

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