JFL開幕直前!日程から「クラブが何を考えているのか?」を読み解いてみる、というお話

JFLの日程が発表されました。好きなチーム、贔屓の選手がいるとそのチームが「いつ、どこで、どこと試合があるのか」が気になりますよね。もちろんそういう楽しみ方はとても重要なのですが、全日程から読み取ることのできる「何か」をちょっと読み取ってみようかと思います。

日程から得られる情報は対戦カードと対戦順、開催日とキックオフ時刻、そして試合会場です。今回は特に、最後の試合会場に注目してみます。
ホームアンドアウェーである以上、試合会場はそのままホームチームの試合会場を示すこととなり、その試合会場にチームそれぞれの特徴が現れることがあります。例えば東京武蔵野ユナイテッドなら、ホームゲーム14試合(今年は15チームのため、例年より1試合少ないです)のうち、9試合が武蔵野。東京スタジアム西競技場、いわゆるAGFフィールドと味の素フィールド西が丘でそれぞれ2試合、そして久しぶりの開催となる駒沢が1試合。武蔵野が半数以上ではありますが、武蔵野には照明設備のないのでは夏場は照明設備のある西が丘での開催となるなど、会場と日程とを見ていくとそれぞれのチーム事情が見えてくるのです。それがJ指向のチームとなるとより強く現れてくるように思えます。

J参入を狙うチームの思惑を日程から読み解いてみる

それでは、具体的に見てみましょう。今年のチームの方針がよく現れていると感じるのは高知ユナイテッドとラインメール青森ではないでしょうか。
まずは高知ユナイテッド。ホームゲームのうち、2試合行われる宿毛開催以外は春野総合運動公園での試合となりますが、12試合中11試合がJリーグクラブライセンスの施設基準をクリアした春野陸上競技場、残り1試合だけがメインスタンドしかない球技場での開催です。昨年と比べても、2試合あった宿毛開催以外の13試合中10試合が陸上競技場なので、今年はより陸上競技場開催の比率が高くなっていることがわかると思います。

実は今年から参入要件が変わったのです

実は今年からJリーグ参入要件が緩和させているのですが、その中で一番大きいのは「観客動員についての緩和措置」ではないかと思うのです。去年までは「Jリーグ百年構想クラブ」に申請したで、Jリーグクラブライセンスの施設基準に準拠したスタジアムがある、あるいは将来的に基準を満たすよう、施設所有者が改修計画が文書に示してあること、その施設のある自治体からの支援があることなどの条件をクリアし、さらに当該シーズンにおいて平均入場者数が2000人以上、年間事業収入が1億5000万円以上で、かつ債務超過状態にないことが、JFL4位以内かつ百年構想クラブ中、上位2チームになることに加えて必要な条件でした。
それが今年からは、平均入場者数2000人以上と債務超過でないことの2点について「平均入場者数2000人以上を目標とし、近い将来のクラブ経営が困難にならない程度の債務超過状態ではないこと」というやや緩い条件に変更されたのです。つまり今年からは、たとえ観客動員が平均2000人を割り込んでいたとしても参入条件をクリアすることができ、ある特定のホームゲームにおいて大量動員などを実施することで「平均入場者数2000人を無理矢理クリアする」という手段を取らなくても良くなったとも言えるのです。

攻めの姿勢を貫く高知ユナイテッド

にもかかわらず、高知ユナイテッドは小規模で収容人員の少ない春野球技場ではなく、収容人員が圧倒的に多く大規模なので試合運営に多額の経費の掛かる陸上競技場での試合を今年も継続して行うのはなぜでしょうか。おそらく、より大勢の人に見に来てもらうことで高知ユナイテッドの知名度アップと、さらにはコア客、固定のファンを増やしていこうという意気込みからなのではないかと思うのです。
さらに高知ユナイテッドは、今年大量に選手の入れ替えをおこなっています。しかも、チームを退団した選手がそのままJFLに水平移籍したケースがほぼないところから、昨年までの既存の選手からJFL、もしくはそれ以上のカテゴリーで通用するであろう選手に大幅に入れ替えたのではないかと推測しています。今年から4位以内ではなく2位以内が必須となり、さらに2位だとJ3の19位チームとの入替戦に勝たないといけない。必然的に戦力のさらなる強化が求められることを考慮した補強とも見てとれます。そういう意味でも今年の高知ユナイテッドは本気度超高めなので、注目しておくのもいいのではないかと思います。個人的には中京大のエースで福岡から移籍した東家くんが入ったので楽しみですね。

Jを狙うチームもそれぞれさまざまな思惑が…

高知とは対照的に、真逆の日程を組んだとも思えるのがラインメール青森です。ラインメールと言えば、昨年もここで触れましたが観客動員数の伸び悩みが顕著で、特にどこのチームも観客動員を稼ぐのに必死になっていた、カズがいた鈴鹿ポイントゲッターズとの試合でも観客数が2000人にすら達しなかったというくらい、J指向でありながらも致命的に観客動員の少ないチームです。
そんなラインメール青森。今年のホームゲームは、例年行なっているむつ陸上競技場開催2試合があるものの、残りの試合のほとんどを新青森県総合運動公園球技場というメインスタンド1500人、芝生席含めても3300人しか収容できない小さなスタジアムでの試合で、同じ敷地内にありJリーグクラブライセンスの施設基準を満たすカクヒロアスレチックスタジアムを使う試合はわずか1試合のみとなります。
その理由としては、現実問題として今年、観客動員が大幅に増える見込みがないこと、同じ新青森県総合運動公園にあるとはいえ、カクヒロアスレチックスタジアムと新青森県総合運動公園球技場とでは使用料が10倍以上も違うことから、昨年までのように大きなカクヒロスタジアムを使い入場収入だけでは1試合分の経費を大きく下回るようであれば、入場収入に見合った経費で済む小さな球技場を使ってもいいのではないか、という判断に至ったのではと推測されます。

試合会場を巡る悩みは尽きない?

同じような経営判断に至ったと思われるのが、ヴェルスパ大分です。こちらもホームゲームの半分に当たる7試合を使用料の安いレゾナックサッカーラグビー場で行い、観客動員が望めてさらに将来的にホームスタジアムになりうる可能性の高い大分市営陸上競技場(ジェイリーススタジアム)ではわずか2試合だけの開催にとどまっています。ただ、こちらは大分市陸上の利用状況も関係している可能性は否めないので、単純な経費の問題だけではないかもしれませんが、近い将来のJ3を視野に入れたクラブとしてはやや消極的な姿勢に見えてしまうのではないでしょうか。
ヴェルスパ大分はホームタウンを当初別府市と由布市にしていましたが、昨年途中からは大分市を加えました。現実的に別府市にも由布市にもJリーグクラブライセンスに即したスタジアムはありませんし、JFLでさえ開催ができるスタジアムもほとんどありません。また、新設の話も既存のスタジアムの改修という話も耳にしません。当初はトリニータとの棲み分けを考えて、別府市と由布市というホームタウンを選択したと考えられますが、現実的には大分市、ジェイリーススタジアム(大分市陸)をメインとせざるを得ないでしょう。そのような状況であるからこそチームとしては、もしかするともっとそこで試合をやりたいというのが本音かもしれませんね。まずは、現在未定になっている1試合をジェイリーススタジアムで出来るよう、大分市との調整を頑張ってもらいたいですね。
それと、これは余談ですがいつもなら都田サッカー場でしかホームゲームを開催しないホンダが、珍しくエコパ開催を組んでいます。これはおそらく、今年も鈴鹿にカズがいると踏んで、鈴鹿戦をこの日に予定していたのだろうと推測できます。ホンダ以外でも、前述の青森や大分もそれを見越した会場を1試合組んでいる(大分はレゾナックドーム2試合中、最終戦ではない方を予定していたと思われます)ので、同じことを他のクラブも考えていたのだろうな…、などと思うのです。そういう観点から日程を見ていくのもおもしろいかと思います

今年の西が丘開催の多さはいったい何を意味しているのであろうか?

次に触れておきたいのはクリアソン新宿です。クリアソンの日程で特徴的なのは、昨年は少なかった西が丘でのホームゲームが大幅に増えたこと。昨年はいわゆる味スタ西と言われるAGFフィールドが9試合、西が丘は4試合でした。しかもそのうち2試合は東京武蔵野ユナイテッドと土日で連戦、というおそらく武蔵野とうまく調整した形での日程を組んだりしていましたが、今年は西が丘が9試合でAGFフィールドが4試合とほぼ真逆になっています。さらに西が丘に絞ってみると、武蔵野も2試合あるのでシーズンでなんと11試合もJFLの試合があるのです。そして、昨年のように土日の連戦は今年は無くなっています。
西が丘といえば別にJFLの試合だけではなく、例えば大学サッカー、特に関東大学リーグの試合はもちろん、女子のなでしこのスフィーダ世田谷もホームゲームを行ったりします。場合によればWEリーグも使うことがあるでしょう。さらには高校選手権の本戦と東京都予選も準決勝と決勝の会場でもあります。今年のGW明けにはコロナウイルスの種別が2類から5類に変わりここ3年、特に昨年と比べても有観客開催が一気に増える可能性があり、都内で有観客開催が可能で、かつ規模的にも手頃なスタジアムとして、今年は西が丘は以前のような使用頻度の高いスタジアムに戻りそうです。

キーワードは「セントラルスタジアム」と「施設管理運営者」

この今年のJFLの西が丘開催の多さをどう読み解くか、いくつかのキーワードから見ていきたいと思います。
Jリーグが「2030Jリーグフットボールビジョン」として、2021年4月1日付で「リプランニング推進サポートチーム」というものを立ち上げました。そのサポートチームが2030年に向けて掲げたいくつかの目標項目について「実現に向けて検討」「検討するか否かを検討」「現時点ではタブーに近いが案として提示」の3つに分けて発表しました。
そのうち「実現に向けて検討」として紹介されたのが「23区スタジアム」というものです。どこか特定のクラブのホームスタジアムではなく、Jリーグが保有するスタジアムとして不特定多数のJクラブが使用可能なセントラルスタジアムを設ける、というものです。イングランドにおけるウェンブリースタジアムのようなものを作りたい、というもののようですが、現在のところ全く構想の段階でしかありません。
23区内でそんなニュートラルなスタジアム、と考えると現状ではどう考えても西が丘しか思いつきません。以前からJでは東京ヴェルディが西が丘を使って試合をすることがありますが、それでも年に数回あるかないか。実際にセントラルスタジアムとして活用するのであれば、現状の倍以上の試合数をこなさないといけなくなるでしょう。果たしてそれだけの試合日程を開催できるのでしょうか?
そんな不安を解消するために、JリーグではないJFLで年間何試合くらい可能かどうかを試しているのではないでしょうか?ということです。そうすると今年はクリアソンで9試合、武蔵野で2試合、合計11試合の開催となり「実証実験」としては十分な試合数がこなせるのです。その11試合で他のリーグとの日程面はもちろん、ピッチへの負担や観客動員数、入場時や退場時の観客の動線の把握や公共交通機関への影響、さらには周辺住民の反応など、さまざまなことがこれらの試合を通じて確認できるうえ、それらをデータ化することができ、Jリーグによるセントラルスタジアムの実現性を検証しようとしているのではないかと思うのです。

西が丘サッカー場の有効活用

とはいえ、西が丘はご存知の通り「国立西が丘サッカー場」です。国の持ち物を営利目的メインとして使うというのについては、さまざまな障害が生じると予想されます。しかし今年に入ってすぐ、新国立競技場の民間での施設管理運営の委託が検討されているという一部報道がありました。施設の回転率を上げることで、建設費用の早期回収が目的と推測されますが現実的には、新国立競技場の民間での施設管理運営は採算が合わないので頓挫する可能性が高いのではないかと思いますが、もしかしたら同じ国立である西が丘サッカー場の施設管理運営を民間に委託するというのが、本当の狙いではないかと踏んでいます。仮にそうなるとすると、その施設管理運営者の最有力候補なのはJリーグ機構、つまりはJリーグではないかという裏読みをしています。
もちろん、前のチェアマンのプランを今のチェアマンが継続して取り組むのか?という懸念もありますが、むしろその逆であえて退任する年の4月にプランを発表するということは「次のチェアマンも継続してね」というアピールではないでしょうか。実現にはまだまだ不透明なことが山積みですが、将来的に西が丘でいろんなJチームの試合が組まれる可能性があるかもしれませんね。

別の角度からも見ていくと、そこにはクリアソンの隠れた思惑が…

実は西が丘に関してはもう一つ、別の見方もあります。それは、クリアソン新宿が新宿区内にスタジアムが出来るまでの仮のホームスタジアムとして使うのではないか?というものです。
クリアソン新宿は以前から「新宿区内」に拘った活動を行なっています。当然、Jリーグに入ったとしてもスタジアムは新宿区内、という腹づもりだと思います。でも、現実問題として新宿区内でJリーグクラブライセンスに合致するスタジアムはありません。いや、正確には「新国立競技場」はありますが、先ほどお話した通り国立である以上、1チームの営利目的として占有使用することはやはり難しいでしょうし、たとえクリアソン新宿が施設管理運営者となったとしても採算的にも、もっと言うと世間的にも難しいかと思います。
しかも新スタジアムの建設となると計画から着工、完成まで早くても3年から4年はかかります。その間もどこかでホームゲームを行う必要があります。出来れば調布市のAGFフィールドではなく、都内23区内のどこかのスタジアムで開催するのが望ましいでしょう。そこで候補に上がるのはやはり西が丘になると思われます。

23区内におけるスタジアム事情

ただでさえ土地の少ない東京23区内、さらにその中でもさらに空いた土地の少なそうな新宿区内に、本当にスタジアム用地を確保できるのかという問題はありますが、実は他の区ではJ規格のスタジアム建設計画がちらほら持ち上がっていることを考えると、そんなことも言ってられません。隣の渋谷区では代々木公園の再整備計画の中に、4万人規模のサッカー専用スタジアムの建設計画が盛り込まれています。スタジアム計画自体は2020年から進展があまり見られないのですが、計画を主導する東急グループのメインである東急と東京都リーグ1部所属のSHIBUYA CITY FCが2022年にオフィシャルパートナー契約を締結したところを見ると、おそらく完成後はSHIBUYA CITY FCがホームスタジアムとして使用する可能性が高いのではないかと思われます。渋谷の真ん中に新スタジアムという時代が近い将来本当にやってきそうな予感がしますね。
また、南葛SCがホームタウンとする葛飾区では今年に入って、新小岩駅前に3万人規模のスタジアム建設予定地の確保に乗り出すとの報道がありました。ご存知の方も多いかと思いますが、新小岩駅前にあるとある運動施設がその予定地とのことです。渋谷区とは違い、既にある施設の土地を利用することからこちらの方がより実現性が高いと思われます。さらに東京23FCのホームスタジアムである江戸川区陸上競技場も、ラグビートップリーグのリーグアン所属のクボタスピアーズ船橋・東京ベイが同じくホームスタジアムとして使用していることから、両チームが共同で江戸川区に改修を申し出れば案外早く、Jリーグクラブライセンスの施設基準を満たす規模のスタジアムに変わるかもしれません。意外と23区内でもスタジアムの計画自体はあるのです。一番J3に近い位置にいるクリアソン新宿のホームタウンである新宿区が一番遅れをとっている形となっているのです。

不利な現状を打破する決定打とは…

そんな不利な状況の中、クリアソンとしては暫定措置としてクラブライセンスの施設基準例外規定の2を使って、西が丘をホームスタジアムとしてJ3クラブライセンスの申請を行おうとしているのではないかと思われます。
クラブライセンスの施設基準例外規定の2項というのは、仮にJ3昇格要件を満たした時「理想のスタジアム」の4要件を満たすスタジアムの整備が完成するまで5年間の猶予を設ける、というものです。実際、J2ではこの例外規定により昇格したチームがいくつかあります。要は、成績で昇格要件を満たしたにもかかわらず、スタジアムの不備によって昇格できないという事態を無くそうということです。
この例外規定を活用するにしても、今までホームスタジアムとして積極的に活用していなかった、もしくはホームタウンとは違う自治体のスタジアムを申請しても却下される可能性が極めて高いと考えられます。もちろん、代わりのスタジアムはホームタウンである新宿区内というのが本筋ではありますが、23区内でJ3の開催可能なスタジアムを探すこと自体が困難なことはリーグも承知しているでしょう。それを理解した上でクリアソン新宿の百年構想クラブ申請も受け付けたと思いますので、23区内であれば代わりのスタジアムはOKということになるかと思います。あとは、ホームスタジアムとしての開催実績の有無によって申請が承認されるかどうかが決まると思われます。つまり、クリアソン新宿の西が丘開催が今年増えたのは将来のJ3ライセンス獲得に向けて、西が丘でのホームスタジアムとしての開催実績を作るのがその目的だと考えるのが妥当ではないでしょうか。
ただ、実際にライセンスが交付され、さらにクリアソン新宿がJ3参入用件であるJFL2位以内となり、さらに入替戦に勝利したとして、その翌年から5年で新宿区内にそれ相応のスタジアムが本当にできるのか?という疑問は残ります。でも、あくまで暫定扱いになるであろう西が丘をなし崩し的にホームスタジアムとすることも流石に無理と思われますので、今年からクリアソン新宿と新宿区との「日本全国ダーツの旅」ならぬ「新宿区内スタジアム用地の旅」が始まるのだろうな〜と楽しみにしています(笑)まあ、よく聞く戸山公園はいろいろ問題あるんじゃないの?と個人的にはそう思っているので、おそらく同じ新宿区内の落合や中井辺りに落ち着くんじゃないかと想像しています。ま、小学校や中学校の統廃合とかがあったりすると案外簡単に用地が確保出来たりするんですけどね。さて、どうなることやら…
以上、今年の西が丘開催急増から読み解くクラブ事情。個人的には後者の方がより信憑性が高いように思いましたが、皆さんはどう感じたでしょうか?

今週末から始まるJFLの日程を見ながらあれこれとお話ししてみました。日程は単に「いつ、どこで、どこと対戦するか」とか「いつ、どこに見に行こうか」「この日のカードは…」など以外にも楽しみ方があるのです。この他にも、例えば別のカテゴリーの日程とを比較してみるのもおもしろいです。また違った見方も出来ますし、ハシゴ観戦の参考になったりもします。日程だけでこれだけ楽しめるというわけです。みなさんもこれを機に、いろんな日程とにらめっこしてみるのもよろしいのではないでしょうか。

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