21世紀の翼賛選挙か!-政治参加業界における特定候補対談番組への登壇事件-

 現職の都知事である小池百合子氏が次回の都知事選挙への出馬を表明した会見の翌日である6/13、主権者教育等に従事する政治参加業界に激震が走った。告示日の直前(五日前)であるこの日に、政治参加業界の団体が、特定の予定候補、小池百合子氏のみと対談を行う番組を作成し、Youtube上で放映した。この業界の各団体は政治的中立性を謳い、選挙においては公正性を重んじてきた。そしてすでに複数の候補者が立候補の意思を表明している。にもかかわらず、特定の一予定候補、それも現職候補とのみとの対談を公示日直前に企画するということは、他の選択肢を見せず、現職・小池予定候補のみを印象付け投票を誘導しようとする「翼賛選挙」を意図しているのではないかという疑念が高まっている。

 この番組は、議員インターンシップ等を主催するNPO法人ドットジェイピーによって企画され、 予定候補の小池百合子氏と学生団体GEIL、NO YOUTH NO JAPAN、一般社団法人全国学生連携機構、学生団体ivote、NPO法人I-CAS、NPO法人Mielka、特定非営利法人アイセック・ジャパン、東京まちづくりゼミのメンバーが登壇した。

番組については以下を参照のこと。

 番組名に「SOCIAL DISTANCE ~でも、若者と都政の距離は縮めたい~|学生団体が都知事選に出馬表明した小池百合子都知事に直球質問!」と銘打たれているように、小池氏は東京都の行政の責任者としてではなく、出馬表明した予定候補者としてこの番組に登壇している。各団体のメンバーの質問をもとに、小池予定候補の政見を伝えるものであった。他の有力な予定候補、宇都宮けんじ氏や小野たいすけ氏などと同様な番組が持たれるかは不明であるが、少なくともそのような告知はされていない。

 上記の団体と同様に政治参加の促進に取り組んできた各地の青年会議所は、各選挙において公開討論会を行ってきた。その公開討論会においては、各予定候補の公平な扱いに心を尽くしてきた。異なる背景や価値観を持つ人々が共に暮らしており、それぞれの立場を代表する人が立候補するのが選挙だ。選挙は、一つの共同体の中の差異が可視化されると同時に、差異を再認識したうえで異なる他者とともに生きざるをえない運命を受け止め共同体を再構成する機会でもある。であるがゆえに、形式的かもしれないが同じように扱うことでそれぞれの立場を代表する候補者に敬意を払ってきた。これは、公選法の事前活動かどうかという問題ではなく、公共性に対する倫理の問題である。もちろん、国内有数の候補者が出る東京都知事選挙において全候補を呼ぶのは不可能である。しかしながら一人しか呼ばないというのは、他の候補を支持する有権者に対する敬意の欠落ではないか。

 世の中の様々な団体が特定の候補とのみ対話するということはしばしあること。そのたいていの場合は、機関決定などで方針を明らかにした上でおこなっている。そういうことができない場合は、個人として登壇することが多い。確かに中立的であるべきとされる種々の団体が、特定の候補と対話することはないこともない。それは、その候補でなければ訴えを受け取ってもらえないという切実な理由があった場合である。今回、各団体のメンバーの訴えに自ら掲げた中立性を冒さなければならない理由はあっただろうか。

<資料 各団体の方針>

NPO法人ドットジェイピー
「なお、ドットジェイピーは中立的な団体であり特定の政党を支持するものではありません。」
https://www.dot-jp.or.jp/organization/about

・・・あくまで政党を支持しないということであって、政治家個人を支持してもよいとのことですね、、、

NO YOUTH NO JAPAN
「NO YOUTH NO JAPANは、特定の政党や政治家に寄らず、中立であり続ける。」
http://noyouthnojapan.org/

iVote
「学生団体ivoteは政治的中立を宣言します。

特定の候補者や政党・政策・政権の立場を紹介、解説することはございます。しかし、それは団体としての支持・反対を意味しません。」
http://i-vote.jp/?page_id=356

・・・公示日直前に特定の候補とのみ交流することが、団体としての支持を表明していることにならないというのは言いづらいのではないでしょうか?

NPO法人I-CAS

「この法人は、特定の政党、及び特定の政党を支援する団体から独立して活動する。」

http://i-cas.org/policy/

・・・あくまで政党からの独立ということであって、政治家個人からは独立しなくてもよいとのことですね、、、

Mielka
「日本の民主主義の成熟を目指し、政治情報を届けるシステムと未来を担う人を育てる教育を創るべく、若者が中心となって政治的中立公平な立場から活動しています。」
http://mielka.org/

GEIL・学生団体アイセック・東京まちづくりゼミは、政治的中立性を謳う文言をウェブサイト上から見なかったので、倫理にもとる部分は少ないと考えられます。

※上記の団体の中には、NPO法人があります。確かに、現行のNPO法においては特定の政党や政治家を応援する行為を禁じていますが、市民活動を過剰に制限するもの、表現の自由への規制だと思いますので、ここでは問題にしません。公職選挙法上の事前活動も同様。

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