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餃子

『餃子』を頭に浮かべてみてほしい。

焼餃子に水餃子…
焼きといっても、ひとくち餃子に羽根つき餃子と、人それぞれ頭に浮かべる餃子はちがうのではなかろうか。
私なんかはかなり最近まで、さほど餃子が美味しいものとは思っておらず、ましてや呑むのは好きだがビールは全くの私は、『ビール+餃子=最高!』なんて人の思考には全く共感ができずにいた。

そもそも、なぜ私の餃子に対する期待値は低かったのか。それは、いつも我が家の食卓にでていた餃子のせいである。

物心ついた時から、我が家の食卓にでる餃子とゆうと、スーパーで売られている298円のチルド餃子であった。まー大概の庶民的な一般家庭に生まれた人の入りは一緒ではなかろうか。

ただ、それに加え我が家は、中華料理屋に行く習慣なんてものもなく、たまに行けば、唐揚げ、エビチリ、レバニラ炒め、これに炒飯か天津飯でも食べたら十分本場の中華気分だ。
今となって笑えてくるのは、そもそも中華料理屋に行けば本場と思っていた幼き日の私だが、この中に本場中国でおなじみなんてものは無かったのだ。

それはさておき、中華料理屋に行っても餃子を頼まないこんな我が家だから、いい歳になるまで私の中での基準値は、スーパーで売られる298円のチルド餃子だったのだ。

私も三十を過ぎ、交友関係も年齢様々、各々が食べたどこどこの何が美味しいといった話で盛り上がる。
中には、好みが良く分ってらっしゃると言いたくなるような友人も現れ、そんな信頼のおける友人が、ここはと勧める店なら、期待値の低い餃子でさえも食べてみたくなるものだ。

神戸にある餃子専門店『瓢たん』
神戸に行った時には必ずと思い、その時を迎え、心踊らせ暖簾をくぐる。
席に座り、スッとお品書きに目をやると、なんと潔い。餃子・ビール・泡盛・ノンアルビールにウーロン茶。以上である。
タレも神戸流は予想をはるかに裏切る味噌ダレなのだ。

餃子専門店ともなると、こだわりの自家製酢醤油に自家製ラー油、お好みでねり辛子かなぐらいと思っていた。

出てきた餃子を口に運ぶと、これがなんとも確かに美味い。
焼き目はパリッと、皮は程よくモチッとして分厚過ぎず、熱々の肉汁がジュワッと飛び出し、ニンニクとニラがしっかり効いている。

そして味噌ダレが食欲をそそり、次から次へと餃子を口に放り込む。

高ぶり勢い余った私は、思わず「ビール!」と叫びたくなったが、そこは運転を思い出しノンアルビールで我慢。


分からないものだ。餃子にビール。ノンアルで我慢だなんて思ったりして。

人間あれほどまでに染み付いた低い期待値と、周りへの共感を示さず冷たい眼差しを送っていた私が、いとも簡単にそちら側へ足を踏み入れたではないか。

これが危ない薬なら大変な事件だ。

仲の良い友人にすすめられついついハマっちゃいました…なんてことではすまない。

だが、こんな事件ならいくらでも歓迎をしようじゃないか。

だって、今ではすっかり常習者となり、餃子をお品書きで目にすると、ついつい頼んでしまっている私がいるのだから。

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