日賀月成

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【小説】涙する太陽 ②

 今夜から、日課としていた素振りが、竹刀から金属製のバットへと入れ替わった。  今は便利な世の中で、スマホを少し弄れば、野球が上手いと自負している者が、素振りをしている動画を見ることができる。おまけに解説付きで、素人である俺にも理解し易いものだった。  俺はそれに倣いながら、素振りを三十回ほど繰り返す。一回一回素振りをする内に、数秒前の自分よりも上達しているように感じた。最近の剣道の練習では感じることのできない充実感だった。  中学の全国大会に出場した俺には、日々の剣道の練習

    • 【小説】涙する太陽 ①

       初めて見る景色は、思っていたより何倍も広かった。  ここで十八人の選手が戦う。一人が皆のために。勝利という、同じ目標に向かって助け合う。なんと熱いものか。  自分は、本当に小さな世界の中で戦っていたのだと思い知る。孤独で寂しく、そして主に個々の実力だけが左右する厳しい戦い。  これからの未来を想像すると、目の前のグラウンドのように、俺の胸は広大な期待感でいっぱいになる。    初日の練習が終わり、俺は一塁側のネット際に転がっているボールを拾った。そこには、決して取れない手垢

      • 【小説】死生活と石 #3

        「ここか」  小さな村なので、親しくない者の家も、数人の村人から聞けば知ることができた。  簡単な作りの木製扉をノックすると、自分が来るのを待ちわびていたのだろうか、すぐに扉が開かれた。 「やっとお出ましだね! さあ中に入って、入って!」  キョウスケが一歩家の中に足を踏み入れるや否や、すぐに扉は閉められた。 「そこへ座ってよ」  そう言うのと同時に、リュウヤは鍵を掛ける。この村に、あまり鍵を掛ける習慣が見られないために、それが違和感にキョウスケの目には映った。 「そこへ座れ

        • 【小説】死生活と石 #2

          「ねえねえ、君はここをどう思う?」  飯を口に入れようとしたタイミングで、隣から声を掛けられた。誰かと思えば、自分と同い年のリュウヤだった。同い年ではあるが親しくはない奴だ。 「ここ? 飯を食う場所だ」  キョウスケはそう答えると、飯を口一杯にほおばった。その姿を見ながらリュウヤは固まる。キョウスケの答えは、予想していなかったものだったようだ。 「はっはっは! 違う違う! 『ここ』っていうのはこの場所のことじゃなくて、この村のことだよ! それを君はどう思う? って、僕は聞いた

        【小説】涙する太陽 ②

          【小説】死生活と石 #1

           あれを、集団下校の中で見つけた。  俺はそれを、『クロ』と呼んだ。こんなにも幼い『クロ』を、俺は久し振りに見かけた。  俺はすぐに、ゆっくりと『クロ』の跡をつけた。『クロ』が一人になるのを待つためだ。一刻も早く接触を試みたいが、内容が内容だけに憚られる。  ただ今が、下校で良かった。これが登校の方だと一人になるのは待てない。ツイていた。  十分ほど追いかけただろうか、『クロ』は一人になった。  辺りは一軒家が建ち並び、子供に話し掛けるには、人の目がかなり気になるところではあ

          【小説】死生活と石 #1