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私の森

亜熱帯果樹を育てる温室の周りは野菜を植えている露地の畑。
その外側に通路があって、防風樹代わりの雑木が生えている。
クチナシや月桃やテーチギやススキが無造作に生えている。
私の認識で「うちの畑」はそこまで。

でも、その雑木の向こう側に小さいながらも谷があって水が流れていることは何となく知っていた。
きのう、その谷に初めて降りてみた。
目の前の足元をふさぐシダを払って、はるか頭上の大木の枝から下がる蔓にすがって降りた谷は、想像していたよりずっと居心地がよかった。

枯れ枝に木耳が生え、マルバグミの木がつつましく育っている。
上を見上げれば大木の枝が覆いかぶさり、絶妙に配置された葉っぱの重なり。風が吹けば緑の天井がゆらゆらと揺れた。

足元には小さな水の流れ。
ときどき鳥が水浴びに来るようだ。

この島は緑の力が強い。
強いからこそ、わざわざ望んで山や森に入ることにはためらいがあり、敷居がとても高かった。
毒蛇もいる。私のように軟弱で知識も対応力もない人間がおいそれと足を踏み入れてはいけないような気がしていたのだ。
しかし、森の中の空気はとても好きで、そこから離れてしまったことを、心のどこかでずっと寂しく思っていたのかもしれない。
まさか、いつもの仕事場のすぐ下にこんなところがあろうとは。

ここは、ずっと来たかった「森のなか」。
いつでも来られる「森のなか」。
まいがみつけたマイサンクチュアリのような、ちょっと特別な場所ができた。

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