私が死ぬということは

この肉体と自我意識の縁が尽きる瞬間を仮に死と呼ぶならば、煩悩べったりの凡夫であるこの私が死ぬということは、つまり即座に大慈大悲の仏として生まれるということなのです。それが今すでに約束されているということです。死と生は全く別物などではないのです。同義なのです。

なぜそう言い切れるかというと如来様が私にそう約束されているからです。そう呼び掛けられているからです。

「南無阿弥陀仏」は「お前を助ける」という如来様の約束なのです。人間の約束は結局最後は果たされませんが、如来様の約束は必ず果たされます。私は如来様の約束である南無阿弥陀仏の呼び声を聞いたのです。呼び声を聞いていない人はそんな馬鹿げた話があるかと言うしかありません。それも仕方無いことです。なぜなら呼び声を聞いていないからです。しかし呼び声が聞こえたならその瞬間自分が仏になることが確定するのです。不思議としか言いようがありません。

始まりもない終わりもない永遠の迷いの中に沈んでいたこの私が、このたび煩悩を離れ二度と苦しむことのない世界に生まれさせていただく。それが仏になるということです。それがお浄土をいただくということです。お浄土と言っても、死んで魂が天国のような場所で安らかに暮らすなんてそんな話ではないのです。今ここでお浄土をいただくのです。生きている今いただくのです。そればかりか、今度は縁のあった方々を自分が仏となって救いにゆけるのです。そのことがはっきりするのです。そういう大きな循環があるのです。これが仏の大慈悲心なのです。仏教は自分だけが救われればそれでいいという教えでは決してないのです。

私がそういう身にさせていただく。そのことが今ここでもうすでに定まっている。それが浄土真宗の安心です。仏様のお覚りの中に自分も入れさせていただき、衆生済度の働きとならせてもらう。もう死んでしまったあの人が今どこでどんな姿で迷いの中を生きていようと、苦しんでいようと、この私が仏となって必ず救いにいけるのです。そしてその方もやがて仏となりこの大慈悲心にひとつにとろけていくのです。そのことがわかれば、自分が死ぬことも誰かが死ぬことも決して「永遠の別れ」なんかではないということがはっきりわかるのです。これ以上の安心があるでしょうか。

浄土真宗の教えは、私がそういうことを信じるということではありません。信じられていたのはこの私のほうなのです。私が如来様に信じられていたという事実に気づくということなのです。いつかこの呼び声を聞いてくれるだろうと如来様はひとときも休むことなく私に呼び掛けられていたのです。それなのに私はその呼び掛けをずっと無視し続けていたのです。私は如来様の呼び声を初めて聞いてそのことに気づかされただけなのです。私は依然として煩悩べったりの凡夫に何ら変わりはありません。それが人間です。

人間が仏になる。凡夫が仏になるのです。後生の一大事といいますが、はたしてこれ以上の一大事があるでしょうか。これ以上の不思議があるでしょうか。

南無阿弥陀仏