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2024.8.4 フジテレビ「日曜報道THE PRIME」等での鈴木宗男議員発言に関するファクトチェック(と若干の見解)

今朝、上記の番組を観て下さった皆様、ありがとうございました。

番組冒頭でも申し上げたとおり、私としては、鈴木宗男議員のロシア訪問は全否定されるべきものではないと思っています。

しかし、今朝の1時間足らずの番組中、ロシアによるウクライナ侵略その他を巡る鈴木議員の発言には、慎重に検証すべき複数の点が見られました。
以下、列挙していきます。

なお、今朝の日曜報道THE PRIMEにおける鈴木宗男議員の発言は、(後述する北方領土墓参枠組みに関する発言を除いて)基本的に以下の北海道ニュースでの記者会見の内容と同一です。

  1. 北方領土墓参合意の失効について

本件に関しては、上記の北海道ニュースUHBの動画と、本日の日曜報道THE PRIMEでの鈴木議員のコメントの内容(以下のFNNオンラインに要約掲載)には若干のズレがあり、

「墓参合意が(北海道ニュースの鈴木議員の動画会見の通り)2022年9月をもって本当に失効しているのか否か」については今後の報道を待つしかありませんが、
墓参合意の現状については、以下の岡部芳彦教授の説明が最も正確であることをお伝えしておきたいと思います。

そのうえで、仮に今回鈴木議員が新規にとってきた情報のとおり、「2022年9月の段階で墓参合意が失効している」のであれば、
ロシア側はなぜ2023年10月時の鈴木議員訪問時にはそのことを伝えず、今回の訪問時に伝えてきたのかが、大変に気になるところです。

2.2021年10月23日のウクライナの「ドローン攻撃」およびロシア軍の国境地帯集結について

鈴木議員は、「2021年10月にウクライナが『自爆ドローン』を『ロシア人が住む地域』に飛ばさ」なければ、「プーチン大統領は兵を動かすことがなかった」と、(この機会に限らず過去複数回にわたって)発言していますが、この短い発言の中には複数の事実誤認および切り取りが含まれます。

① 時系列が異なります。ロシア軍は2021年春にいったんロシア・ウクライナ国境地帯に軍を集結させ、米ロ協議の後、同年6月に軍を引き上げています。しかし、同年9月半ばのザーパト演習のあと、一部の部隊をシベリアに戻さず、再びウクライナ国境地帯に集結させています。ドローン事件はロシア軍の集結が観測された「あと」に起きたものであり、これをもって「戦争の原因」とすることは時系列的な問題があります。
この点については、以下のワシントンポストの記事が丁寧に時系列を整理しています。

https://www.washingtonpost.com/world/russian-troop-movements-near-ukraine-border-prompt-concern-in-us-europe/2021/10/30/c122e57c-3983-11ec-9662-399cfa75efee_story.html

② 「自爆ドローン」ではありません。当時ウクライナが飛ばしたドローンは、トルコから入手したばかりの貴重なバイラクタルTB2です。

https://www.yomiuri.co.jp/world/20211027-OYT1T50203/

https://www.reuters.com/world/ukraine-using-turkish-drones-donbass-conflict-self-defence-zelenskiy-says-2021-10-29/

私は、本件に係わる報道はほぼ全て見ておりますが、このときに使用されたウクライナのドローンを「自爆ドローン」であると報じている記事は皆無でした。

そもそもバイラクタルTB2は6-7億円とも言われる極めて高価なドローンであり、自爆ドローンに用いるようなものではありません。

バイラクタルの価格としては、以下の記事を参考になさって下さい。

③ 「ロシア人居住地区」とは?このドローンが飛ばされた地域はドンバス地方であり、歴としたウクライナの国土です。そしてこの地域には「ロシア語話者」が多く居住しているものの、この地域を「ロシア『人』居住地区」と称するのは不適当です。

④ ドローン攻撃による被害と、ロシアによるウクライナ侵略の「非対称性」。2021年10月のバイラクタルTB2による攻撃では、親ロシア派武装勢力の榴弾砲が破壊されるなどの被害が出ましたが、死者は一名も出ておりません。
仮に鈴木議員が主張するように、この「ドローン攻撃」が本当に「戦争の原因」なのであれば(そうとは言えないことは上記①で述べましたが)、ロシアは「自軍の榴弾砲を破壊したドローン攻撃」に対して、「19万人規模の軍隊でウクライナに全面侵攻する」ことでそれに応じたのであり、被害とその対応の非対称性が甚だしい、といえるでしょう。

3.2022年2月19日のミュンヘン安全保障会議におけるゼレンスキー大統領のブダペスト覚書に関する発言について

鈴木議員は、同会議で「ゼレンスキー大統領が『核を戻せ』と受け止められるような発言をしなければ、2月24日の出来事はなかった」と発言しています。

当時のゼレンスキー大統領発言を見てみましょう。

https://president.gov.ua/en/news/ukrayina-iniciyuye-provedennya-konsultacij-u-mezhah-budapesh-73001

ゼレンスキー大統領はこの場で
・ ブダペスト覚書に関する協議は過去3回試みられたが上手くいかず、今日(2021年2月19日)に4回目が試みられる
・ 仮にこれ以降の協議がなされず、結果として同覚書の保障諸国がウクライナの安全を守らないなら、「このブダペスト覚書は機能していないと信じるに足るということであり、また1994年のすべての決定パッケージは信頼に値しないと言うことだ」

と述べた上で、
NATOやEUへの加盟への道筋を付ける、ウクライナに安定・復興のための資金を提供する、レンドリースプログラムを提供する、兵器支援を行う、ノルドストリーム2計画を再検討する、などを会議参加諸国に呼びかけています。
「核を戻せ」と誤読されるような発言はどこにもありません。
したがってこのときのゼレンスキー発言も、「戦争の原因を作ったウクライナが悪い」という主張の根拠にはなりません。

4.インドの「停戦案」なるものについて

鈴木議員は複数回にわたり、「インドも中国もブラジルも停戦案を出している」「なにもしていないのは日本だけ」と指摘しています。

中国が2023年2月にいわゆる「12項目」を、中国とブラジルが2024年5月に合同で「6項目」の「基本的立場」(停戦案ではないことに注意)を出していることは事実ですが、
インドはこれまで一度も「停戦案」なるものを出したことはありません。

かろうじていうなら、「ウクライナ和平への関与を強めたい」という趣旨の発言が最近ジャイシャンカル外相からありましたが、具体的な「和平案」「停戦案」といえるものではありません。


5.なにより「侵略国ロシア」に働きかけを

ウクライナにどんな問題があろうと、ロシアによるウクライナ侵略を正当化する理由にはなりません。
「一にも二にも停戦だ」「和平だ」と仰るのであれば、そもそも隣国に侵略を行っているロシアに対してその指摘を行うべきです。
侵略を止めることが出来るのは、ロシアのプーチン大統領だけです。
その働きかけが、「ロシアの友人達」によってロシアに直接なされていないのだとしたら、その「停戦努力」や「和平努力」は、ウクライナにロシアによる侵略の結果を受け入れるよう迫るものになりかねません。

仮に北海道全域が他国に占領された際に、他国から「戦争を終わらせるためだ、領土は侵略国に差し出しなさい」、「あなたにも悪いところはあったでしょう」、「一にも二にも停戦だ!」と主張され、受け入れられる日本国民がどれだけいるというのでしょうか。

大国が小国に侵略し、人命と領土を奪って「停戦しないのは相手が悪い」と迫られているこの状況を、私たちは「自分のこと」として捉えるべきでしょう。

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