マクドナルドのハンバーガー

わたしはマクドナルドのハンバーガーが好きなので、ときどき、食べに出る。セットにポテトなんかをすすめられるが、いらないので、いつもコーヒーとハンバーガーだけだ。総額、300円くらい。安上がりで美味いし、椅子もある。

本日は髪を切りに行く予定があり、早めに出たので、時間が空いてしまった。ちょうど昼飯時だったので、散髪前にハンバーガーでも食おうかと、マクドナルドに入った。それは良かったが、満席だ。テイクアウトにして、そのへんの公園で食おうかと思ったが、外で食うには寒い気温になった。仕方がないので店を出ようとしたところ、二人がけのテーブルで、ひとり、ポテトをつまんでいたウサギに声をかけられた。
「ねえ、あなた。相席でよければ、こちらにいらっしゃいな」
マクドナルドにウサギなんて、珍しくって驚いたが、ありがたい申し出だ。礼を言ってからレジに並び、ハンバーガーとコーヒーを注文する。この二つは、ほとんど待たずに出てくる。商品の乗ったトレイを持って、ウサギの向かいの席に着いた。
「ありがとうございます」と頭を下げると、ウサギは「いいのよ。アタシも、ひとりだもの」と笑った。
ウサギは、小さい一口を続けて、長いポテトを口の中に引き込んでいく。かわいらしい食べ方だなあと眺めながら、ハンバーガーの紙をむいて、かぶりつく。そんなわたしを見て、ウサギは「そんなに見られちゃ、恥ずかしいわ」と言い、食べるのを止めた。
「あ、すみません。失礼しました。かわいらしい食べ方だなと思って」言い訳のつもりでそう口に出し、はあ、気持ち悪い発言をしてしまったと後悔する。顔が熱くなる。時間までゆっくりするつもりだったが、早いこと食べて、出ちまうことにした。急いでコーヒーを飲んでいると、ウサギが話し出した。
「マクドナルドのハンバーガーってねえ、ウサギの肉が使われているのよ。知ってた?」
「はい?」思いがけない言葉だったので、素っ頓狂な声が出た。聞き間違いかもしれないと思い、もう一度聞いてみる。「なんとおっしゃいました?」
「だからね、マクドナルドのハンバーガーって、ウサギ肉なのよ。だから、アタシ、食べられないのよね。共食いになっちゃうから」
ウサギ肉が使われている?そんなことあるわけない。ビーフとポークとチキンじゃないのか。いや、わたしが知らないだけで、ウサギ界では、常識なのかもしらん。
ばあっと考えが巡ったが、わたしは何も答えなかった。ぽかんとしているわたしを見て、ウサギは、立て続けに話す。「ハンバーガーって、おいしいの?いつか食べてみたいのだけど、ウサギ肉じゃあ、さすがに、ねえ」

わたしが何も言わず、ハンバーガーを食う手を止めたのを見て、ウサギは、申し訳なさそうな顔をした。すでにポテトは食い尽くしていたようで、トレイを持って席を立った。「じゃあ、またいつか」と頭を下げたウサギの両耳を、いつの間にかテーブルの横に立っていた、マクドナルドクルーが引っ掴む。

「お客様!マクドナルドのビーフパティは、ビーフ100%でございます!ご安心ください!」
クルーはそう叫びながら、両耳を掴んだ手を振り上げ、ウサギの身体を、何度も椅子の背に叩きつけた。

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