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母の意志とバリアフリー

きょう取材の帰りに、南無谷の直線を車で走っていたら、「事故か!」と思う場面に遭遇した。

横断歩道を渡ろうとしていた5人組のうち、1人が行き交う車の前に足を出したのである。

横にいた女性がぱっと足を収めてなんとか事故は防げたものの、あわやぶつかるところだった。足を出された側の車も急ブレーキして、しばし5人の集団をにらみつけていたようにも見えた。

よく見ると、その集団、今年4月に取材したばかりの、日中サービス支援型グループホーム「どんぐりはうす」の方々。重度の知的障害者を終日支援する安房地域初の施設である。

つまり足を出したのは、重度の知的障害者の利用者。そして収めたのは代表の山口さんだ。私も車をストップして、しばし顔が合うかじっと見ていたが気づかなかった。

山口さんは、息子が重度の障害をお持ちで、この地域で預ける場所を探したが見つからず、ついには自ら時間をかけて施設を立ち上げた強靭な母親である。

その時足を出したのは息子さんだったかはわからない。ただ、その後、道を渡ってからも長らく、山口さんは両手で彼らをかばいながら非常に強い目力で通行する車に注視していた。ほんの1瞬でさえ、彼らを叱る表情もなく、守っていた。

正直、何人も歩行者が待つ横断歩道で、その車には法律的な話より先に怒りさえ覚えた…。しかし、これは次元の違う話だ。

重度の知的障害者を外に出して、「彼らにとって少しでも人間らしい生活を送らせてあげたい」という思い。朝は毎日、海岸や公園に遊びにいくと話していた。これがいかに困難なことかも、きょうの出来事でその一端を垣間見た。それでもやる、という強い意志を感じた。

ほんの一瞬の出来事で正確な描写を欠いているかもしれないが、ただただ、あの母の強い表情だけは心に留めておきたいと思った。

一方、車社会は全くバリアフリーではない。むしろ多くの人が包丁片手に全力で走っているようなものだ。もちろん、ぱっと遭遇しただけでは分からない。少しでも理解を広げたい。

どんぐりはうすの記事↓。
https://bonichi.com/2022/04/27/143175/



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