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ありがたい通り

その壁には、ぎっしりと梵字が埋め込まれていた。
東京・門前仲町にある、深川不動尊の本堂だ。
一文字も理解できないサンスクリット語で、ご真言が記されている。

ありがたいのかどうか実感が湧くこともなく、むしろ、参道である「人情深川御利益通り」を歩き、何か御利益がありますようにと、そう思いながら、永代通りに出た。

永代通りを渡り、一本裏の道に連なる飲み屋街。その中の一軒で飲んだ後、二軒目を求め、辰巳新道に向かった。

辰巳新道という字面だけだと、広く大きな通りを想像してしまいがちだが、狭く50メートルほどの通りに、古く小さな店がぎっしりと並ぶ昭和の趣きづくしの有名なスポットだ。
まるで、先に見た梵字でぎっしりの不動尊と同じく、懐にもありがたいお店ばかりで、どこもかしこも満員御礼。

新道に響く、およそ聴くに耐えがたい、けれど気持ち良さそうに歌う演歌のカラオケを聴きながら、通りを抜け、二軒目をあきらめ駅に向かった。

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