なんの変哲もない休日
地下鉄銀座一丁目の駅を地上に出、銀座三原通りを首都高に向かって歩く。
くすんだ茶色の外壁に、所々緑が窓からのぞいているビルが左手にある。
アートやレトロが好きな人には定番の、奥野ビル。
もう90歳を超えている建物だ。
久しぶりに入ってみた。
相変わらず、手動のエレベーターが、一見さんには乗るのを躊躇う雰囲気を漂わせ、階段を使えと言わんばかりに扉を固く閉ざしていた。
その言葉通り、階段を上がり、部屋の扉から明かりが漏れているギャラリーを、のぞいて回った。
とはいえ、アートに浅学なため、熱心に見ている先客の邪魔にならないよう、かつ、お店の人に声をかけられないよう、遠巻きに見ていた。
それでも、その程度でも、目の保養にはなるものばかりだった。
下から1フロアずつ見て上がり、一番上のフロアから、連結された隣のビルの階段を1フロアずつ降りていった。
狭い入り組んだ迷路のような通路、低い天井、剥き出しの配管、けだし、どんなに豪華で真新しい現代のマンションよりも、懐古感と心安らぐことを覚える。
著名な306号室は開室されていなかったのが心残りではあるが、入り口脇にある、その存在自体ですらアートな郵便受けを見ながら、ビルを出た。
来た道を真逆に歩いた。
途中、かき氷目当てに列をなしている小さな甘味店を横目に、銀座松屋デパートの裏を通り過ぎる。
晴海通りに出る前、ボサノヴァが軽く流れるカフェで冷たい珈琲を飲んで、喉の保養をしてひと息ついた。
時間に縛られない、気の向くままの休日。
なんてことないこの程度の休日でも、それはそれで良い休日なのだろうと思った。
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