【ウルトラマン名作回】『射つな!アラシ!』を振り返る

こんにちは。
シン・ウルトラマンを観るにあたって初代ウルトラマンを観ていたところ、とある回に心奪われました。
第36話「射つな!アラシ!」です。
射撃の名人、アラシ隊員を主役とした回です。
今回は、この回の何が私に刺さったのかを解説したいと思います。

◯あらすじ

児童会館の視察に訪れる科学特捜隊の面々。
職員に施設の説明を受けている最中、天井が割れ、そこから6千万カンデラもの光が降り注ぐ。
科学特捜隊の面々は咄嗟に目を覆ったため無事だったものの、直撃を受けた多くの人が失明する被害が出た。それを受け、科学特捜隊は調査を開始。ハヤタ、アラシ、フジの3隊員が調査、科学者でもあるイデ隊員は、完成間近のである強力兵器「QX弾」の開発を急いだ。
調査開始から数日が経った折、児童会館付近に怪獣ザラガスが出現する。スパイダーショットを使用し、応戦するアラシ隊員だったが、ザラガスフラッシュを受けて目を負傷してしまう。
ビートルを使用しての空中戦を仕掛ける科学特捜隊。イデ隊員は、目が完治していないアラシ隊員を心配するが、アラシ隊員は「怪獣がいるとムラムラと闘志が湧いてくる。視界は問題ない」と強がる。
ミサイル攻撃を仕掛ける科学特捜隊は、ザラガスを一時はダウンさせることに成功するが、口と手元をピクピクと震わせながら復活。頭部と背中に発射口を思わせる突起が出現し、さらに凶暴になってしまった。
これを受け、科学特捜隊にザラガスへの攻撃禁止の決定が下る。ザラガスは攻撃を受ければ受けるほど凶暴化し、守備力を向上させる性質を持っているためである。この決定に対し、アラシ、イデ両隊員は猛反発を見せる。特に、怪獣退治に燃えていたアラシ隊員は「科学特捜隊が怪獣に負けたことがあるか?これは侮辱だ」と怒りを露わにする。これに対し、ムラマツキャップは「気持ちはよくわかるが決定したことなのだ」と諭す。アラシ隊員は不本意ながらこれに従うしかない。
そんな中「ザラガスが邪魔で児童会館に取り残された子供たちを救助できないため、科学特捜隊に応援を要請したい」と連絡が入る。出動を命じるムラマツキャップ。気合を入れるアラシ隊員に、ムラマツキャップは「目的はあくまで救助。ザラガスに攻撃しないように」と釘を刺す。
児童会館前で眠るザラガスに闘志を燃やすアラシ隊員。中に友人たちが取り残されたと泣く子供を見て、アラシ隊員はたまらず児童会館へ駆け出す。それにハヤタ隊員も続く。アラシ隊員の手にはイデ隊員が開発した「QX弾」。アラシ隊員の背中に、ムラマツキャップは「射つんじゃないぞ」ともう一度釘を刺す。
児童会館にて、必死に叫びながら子供たちを探すアラシ、ハヤタ両隊員。その捜索中にザラガスが目覚めてしまい、児童会館に迫る。
「おーい!助けに来たぞ!どこにいるんだ!」
アラシ隊員の必死の叫び声が館内に響く。
なんとか子供たちを見つけた両隊員が外に出ると、ザラガスは眼前に迫っていた。「自分が囮になる」とハヤタ隊員に子供たちを託すアラシ隊員。しかし、決死の覚悟も虚しく、子供たちとハヤタ隊員がザラガスフラッシュの餌食になってしまう。
容赦なく迫るザラガス。ここで自分がザラガスを食い止めなければ、子供たちとハヤタ隊員が犠牲になってしまう。しかし、脳裏に響くはムラマツキャップの忠告。迫るザラガス。段々と額に滲む脂汗。
「キャップ、許してください!射ちます!」
そう叫ぶと、アラシ隊員はQX弾をザラガスへ放った。ザラガスに命中するQX弾。それによって隙を作ることには成功したが、ザラガスはさらに凶暴化。児童会館を破壊し、街を蹂躙する。
ハヤタ隊員と子供たちを救急車に乗せると、ムラマツキャップはアラシ隊員に謹慎を言い渡す。
「状況は見ていたが、違反を見逃すことはできない」との言葉に、アラシ隊員は一言謝罪。謹慎を受け入れる。「いいのか」と尋ねるイデ隊員に「優秀な隊員を失うのは辛い」と返すムラマツキャップ。気持ちが強すぎるアラシ隊員が、責任を感じて無茶な行動をしないようにという彼なりの配慮が、この謹慎の理由だった。
謹慎になったアラシ隊員は、ハヤタ隊員と子供たちが眠る病室に向かう。
「世話かけたな」とハヤタ隊員。
「怪獣は科学特捜隊がやっつけたんだろ?」
「私の目、治るよね?」
子供たちの声も続く。
自分がもっと上手くやっていれば。その悔悟の念を振り払う方法はただ一つ。
一端の科学特捜隊員として、怪獣に一矢報いることだ。アラシ隊員は決意を固め、病室を出る。
暴れるザラガスに飛ぶミサイル。空にはビートル。地上でそれを見ていた科学特捜隊員たちは、その搭乗者を理解する。
「アラシ...」ムラマツキャップがつぶやく。
「どうせ剥奪されたなら、やるだけやってやる」とやけっぱちになるアラシ隊員に、地上の科学特捜隊員たちはやめるよう声を上げる。
「無理は弱い人のすることよ!」
そんなフジ隊員の声がビートル機内に響くと、アラシ隊員は思わず無線を切った。アラシ隊員の危うい決意は固まっていた。
アラシ隊員が危ないと感じたハヤタ隊員は、目が見えないにも関わらず、病室を飛び出す。そして、屋上でウルトラマンに変身。ピンチに陥っていたアラシ隊員のビートルを助ける。
ウルトラマンに助けられたアラシ隊員は、ゆっくりと目を開けると幾分か冷静さを取り戻した。
ザラガスと互角の格闘戦を繰り広げるウルトラマン。徐々に優勢に立つが、ザラガスフラッシュの不意打ちに視界を奪われ、ピンチに陥ってしまう。カラータイマーが鳴り、ザラガスの一撃がウルトラマンを襲うその刹那、アラシ隊員の操縦するビートルの狙い澄ました一撃が、ザラガスにヒットする。
それによって生まれた隙を逃さず、ウルトラマンは距離を取ってスペシウム光線を発射。見事ザラガスを撃破する。
戦いを終え、科学特捜隊基地で胸に流星マークをつけてもらうアラシ隊員。何かを言おうとしたところ「何も言わなくて良い」とムラマツキャップに制される。
「今回はウルトラマンだけでは勝てなかった。アラシ隊員は大活躍だった」というイデ隊員の言葉を受けても浮かない顔のアラシ隊員。
「科特隊の誓い第4条を納得いくまで唱えろ」
「特捜隊員は命令を守り命令に従って行動し、自分に与えられた責任を果たします。」
ムラマツキャップの言葉を受け、そう連呼するアラシ隊員。最初は凛々しかった表情も次第曇っていき、ついには眉間に皺は寄り、目には涙が浮かんでいた。
組織人である以上、ルールには従わなくてはならない。しかし、自分の行動は間違っていなかったとも思う。自分にもっと力があれば、子供たちを失明させることがなかったかもしれない。自分にもっと力があれば。
悔しさと不条理を噛み締めるように、アラシ隊員は「第4条」を連呼し続けた。

◯鑑賞のポイント

今回の主役であるアラシ隊員は、これまでの話では「わからずや」的な役回りをしがちでした。
例えば、有名なジャミラ回。
母国に見捨てられたジャミラに対して戦意喪失するイデ隊員に、アラシ隊員は怪獣なのだから倒すべきだという態度を取ります。制作側は、ジャミラ側、ひいてはイデ隊員側に感情移入させるように作っていますから、アラシ隊員の作劇上の役割はその感情移入を強めるためにあえて反対意見を述べるというものです。悪い言い方をしてしまえば、ジャミラ、イデ隊員へ感情移入させるためのダシにされているということです。
この他にも、考えなしに猪突猛進しようとしてキャップに止められたり、イデ隊員の画期的な発明品を引き出すためのダシにされたりすることが多くありました。アラシ隊員はこれまでも間違いなく魅力的なキャラクターではありましたが、作劇上どうしても割りを食う役回りをしている関係上、感情移入されづらい不遇なキャラクターだったのではないかと思います。
そうした中で迎えたアラシ隊員主役エピソード。ここでは、アラシ隊員の今までどういった信念のもとに行動しているのかが掘り下げられました。アラシ隊員はこれまで、一貫して怪獣は是が非でも倒すべきだという態度をとってきました。一見すると、視野の狭い考え方だとも思えてきますが、これは「人々を助けたい。自分はそのために科学特捜隊員をやっているのだ」という強い意志と責任感によるものでした。アラシ隊員には、イデ隊員のような強い感受性や繊細さはなく、やや不器用なところがあると言わざるを得ません。しかし、不器用なりに技術を磨き、人々を助ける術を身につけ、それに誇りを持っている。真っ直ぐで気高いアラシ隊員の魅力的な側面が強く描かれました。今までは、どちらかと言えばイデ隊員のキャラクター性が掘り下げられることが多かったですが、今回はアラシ隊員のキャラクター性が掘り下げられ、正直なところ「アラシ、ただただ真っ直ぐで良い奴なだけじゃん!」と観ていて思いました。
アラシ隊員のように、純粋で真っ直ぐで真面目で、でもだからこそ不器用なところのある人というのは、現実にも結構いると思います。皆さんのクラスや会社にもいると思います。だからこそ、今回のエピソードが響くのです。
今回のエピソードは、「ザラガスを攻撃してはならない」という上からの命令と「ザラガスを攻撃して倒し、人々を守りたい」という自分の正義との間で揺れるアラシ隊員が見どころでした。社会には大小様々なルールがあります。そしてその全てが「秩序を守るために、参画者全員が守るべきもの」として存在しています。正しさや正義は関係ありません。ルールはただ「守るべきもの」としてそこにあります。
世の中には、ルールを上手く使ったり、解釈したりして、上手に生きる人たちもいます。例えば、ユニークなアイデアを思いつくことのできるイデ隊員であれば、迫るザラガスに対して、他の方法で対処できた可能性があります。しかし、再三言っているように、アラシ隊員は「真っ直ぐで不器用」なのです。ルールを上手く使うのは得意ではありません。だから、ルールと正義の狭間で揺れてしまったのです。これは、アラシ隊員が他の人に比べて劣っているというわけではありません。こうした場面での立ち回りが不得意というだけです。
ルールに縛られてしまう人々は、社会では摩擦を感じてしまうでしょう。自分の正義に反するルールを押し付けられながら、それを楽な形に歪曲することもできず受け止めるしかないのですから、摩擦を感じるのは当然です。
しかし嘆いても生活は続くし、お金も稼がなくてはなりません。自分なりの正義や夢を実現させたくもあるわけです。悔しくても苦しくても、ルールの中で慎ましく生きていくしかない。ルールを破れば、待っているのはお咎めなのです。
「科特隊の誓い第4条を納得いくまで唱えろ」
「特捜隊員は命令を守り命令に従って行動し、自分に与えられた責任を果たします。」
自分の無力感への怒り。自分の正義がルールの前で折れたことへの悔しさ。
アラシ隊員は最後、上のセリフを言いながらある種諦めていたと私は思っています。「俺は組織人だ」と。
このラストシーンで、私は社会の中で摩擦を感じている人々に想いを馳せました。
そして、唇を噛み締めて泣きました。要は、そういう話です。

◯印象的なシーン

・目を負傷したアラシ隊員が、ビートルに同乗するイデ隊員に心配され強がるシーン

心配するイデ隊員に対し、アラシ隊員は目に見えて強がります。
ここの強がり方があからさまで、イデ隊員を余計に心配させます。アラシ隊員の不器用さと責任感の強さが表現されたシーンです。このシーンが今後の展開の土台となります。
その後、ミサイル攻撃によってザラガスを一時ダウンさせる(すぐに強化復活する)のですが、それを受けて「やった」とはしゃぐアラシ隊員と冷静なイデ隊員の様子で、余裕のないアラシ隊員と視野の鋭いイデ隊員という対比がありありと表現されています。

・ザラガスが迫る中、児童会館に取り残された子供たちを見つけるため必死に叫びアラシ隊員。

焦りと責任感と矜持の滲んだ表情で、「おーい!助けにきたんだぞ!」と叫び続けるアラシ隊員のシーンです。このシーンを受けて視聴者は「あ、この人はただ純粋に人々を守りたいだけなんだ」と理解します。これにより、今まで「是が非でも怪獣を倒すべきだ」と主張していたアラシ隊員の背景が見えてきます。わからずやではありません。アラシ隊員は不器用なだけだったのです。

・病室で目に包帯を巻いて寝転ぶ子供たちとハヤタ隊員の言葉を受け、決意を固めるアラシ隊員

自分のせいで失明させてしまった人々の労りと期待の言葉を受け、「自分の失敗は自分で取り返す」とアラシ隊員が決意を固めるシーンです。ここのシーンで重要なのが、アラシ隊員の表情にしっかりと焦りが滲んでいる点です。
失敗と謹慎。それによる被害者。アラシ隊員はそれを受けて焦っていたために、冷静さを欠いて頑固になってしまっていました。アラシ隊員の責任感の強さ。行動力。そしてそれによる暴走の危うさ。単純に胸が熱くなるシーンであると同時に、アラシ隊員のあらゆる側面を表現した名シーンです。

・ラストの連呼シーン

この話、ひいてはアラシ隊員のダイジェストとも言える大名シーンです。
「特捜隊員は命令を守り命令に従って行動し、自分に与えられた責任を果たします。」
アラシ隊員は、隙を作るために「QX弾」を発射した判断が間違っていたと認めたくない。しかし一方で、組織人である以上、命令には従わなくてはなくてはならないことを理解しています。そして、結局ハヤタ隊員と子供たちを失明させてしまったこともしっかりと悔やんでいます。つまり、与えられた役割を果たせていないと考えているのです。
しかし、イデ隊員は「今回はアラシ隊員の活躍がなければ勝てなかった」と慰めてくる(イデ隊員に悪気はなく本心から言っているのもミソ)し、キャップも「あれは仕方がなかった」というスタンスです。
自分の正義は命令の前に折れる。役割を果たせなかった自分を誰も責めない。責任感が強く不器用で真っ直ぐなアラシ隊員にとっては、これ以上ない屈辱です。
しかし、科学特捜隊員として、命令を守った上で責任を果たしていかなくてはなりません。その決意を胸に、アラシ隊員は第4条を叫び始めます。
しかし、表情は次第に曇っていってしまいます。ルールの前に自分の正義が折れるのは悔しいが、それも受け入れて科学特捜隊員でいなければ救える命も救えない。不条理と消えない悔しさ。そんな感情を噛み締めるアラシ隊員の表情がアップで抜かれるこのシーン。私はこれを「社会」と呼びます。

◯最後に

ウルトラマンは怪獣とウルトラマンが戦うのが楽しいので、こんなに細かく観る必要は正直ないです。
自由に楽しんでください。

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