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自賠責保険の特殊ケース 120万円超えた給付!? そんなこともあります。

お疲れ様です。
さて、自賠責保険に関する話題です。今回はそれなりにに突っ込んだ話になっていますから、読んでもよくわからん!ということもあるかもしれません。出来るだけ丁寧に進めていくつもりですが、もし不明点などありましたらお気軽にお寄せください。

早速ですが以下のようなケースを想定してみましょう。

1月1日、A車がB車に追突し、B車運転者が負傷した。


このケースで自賠責保険を適用していく場合、加害者請求であればA車がB車運転者の治療費などを支払い、その支払った分を自賠責保険に請求をしていくことになります。ここでの上限は120万円というのは前の記事でも触れた通りですね。一つ注意をしていかなければいけない点は、この120万円には慰謝料も含まれるということです。また別の記事でもう少し詳細にご説明いたしますが、自賠責保険の慰謝料は、治療実日数に2を乗じた数値または治療の総日数のどちらか小さい方に4300円を乗じたものが支払われます。そして、これは1回病院に行くごとに発生しますから、例えば上の例でいくと1月に4回通院した場合、実日数の二倍が8、総日数が31日なので、自賠責保険上の慰謝料が¥34,400発生しています。治療費が4回で10万円発生している場合、すでに一ヶ月で¥134,400が自賠責保険上の総損害として発生しているわけです。
では、この事故の治療が全部で6ヶ月かかった場合を考えます。各月4回の通院であったとすると、実日数の2倍の方だけを見れば問題ありませんから総日数は割愛します。
実日数24日 x 2 =48
48x4300=¥206,400
各月に治療費が10万円ずつ発生している場合、これに60万円が加算され、¥806,400が総損害となります。同様の日数で、途中4ヶ月に休業損害が10万円ずつ発生し、賠償しているとしたらどうでしょうか。上の金額に40万円を加算すると¥1,206,400となり、120万円を超過してしまいました。この場合、示談の段階で慰謝料を減額して支払わない以上は自賠責保険からのみでは加害者請求で回収しきれない、ということになります。このような事態にならないようにするために保険会社は自賠責保険を慰謝料等まで含めて超過しないタイミングで治療費の打ち切りを打診したり、早期に示談をしようとしてくるわけですね。

次に後遺障害部分です。後遺障害分の慰謝料はこの120万円の枠の外側、等級別に別途設定された金額が支払われます。引き続き上の例を用いていくと、この六ヶ月目で症状固定として示談をしていく場合、後遺障害の認定を取ることによって、被害者は傷害分慰謝料にくわえて後遺障害分慰謝料+逸失利益(14級9号で最高75万円)を受けることができます。症状固定をせずに(本来は医師の判断なのでおかしいのですが、割とまかり通っています)治療をさらに続けていくことによって残存する症状がなくなればそれはもちろん良いことなのですが、当然に後遺障害は認定されなくなり、その分の慰謝料を受け取ることはできなくなります。期間がどれだけ長くかかろうと、辛いリハビリを乗り越えようと後遺障害の等級認定がなされない以上は自賠責保険の上では通常の入通院傷害部分のみですから、早い段階で症状固定として後遺障害を含んだ示談をすることは相手方にも金銭的面においてメリットになりますから、それならばと早期の示談に応じてくれる場合もあります。そうなれば加害者としても早期に事故解決をしていくことができるわけでこれは悪い話ではありません。後遺障害がそもそも認定されない場合もありますから一概には言えませんが、加害者側の誠意として、こういった選択肢は提示してあげるべきでしょう。なお、こういった自賠責保険ベースでの後遺障害の話題になると弁護士を立てて増額という選択肢も登場することになりますが、それが必ずしも大正解とはならないケースもあります。これについてはまた後日別の記事で解説することと致します。

最後に少し裏技めいたお話をしましょう。
自賠責保険の請求は加害者請求と被害者請求がバッティングした場合加害者請求が優先されます。そして、任意保険会社ではない、例えば事業者が独自で事故処理を行なっていく場合、後遺障害の認定は原則被害者請求になります。(任意保険会社は先行して事前認定をし慰謝料を算定することができます)そこで、こういった事前認定をできない状態であるとして、加害者側から被害者には後遺障害部分の被害者請求を自身でおこなってもらう段取りを整えたとします。そして、それと並行してすでに入院通院分で確定している損害を慰謝料まで含めて支払った上で加害者請求してしまいましょう。そして、この部分が大事なのですが、当該加害者が支払った賠償既払いは120万円を超過しています。上の例でいきましょう。120万円を6400円超過しておりました。この場合、ちょっと不思議な現象が発生致します。

上で入・通院分と後遺障害分は分離されている、と記載した点と矛盾しているように感じられるかもしれませんが、自賠責保険の場合、入・通院分として認定可能な上限120万円を超過して賠償を行なっている分は後遺障害の既払い(内払い)として認定してくれます。よって、この例でいくと6400円は後遺障害分の慰謝料として先払いをしたものだよ、として加害者請求分で戻してくれるわけです。被害者請求された後遺障害分は6400円を差し引いたものが支払われます。ただし、これはもちろん、後遺障害がすでに自賠責保険として認定されている、そして後遺障害分の被害者請求段階で加害者請求が到達していることが前提です。競合する加害者請求があるかどうかを自賠責保険から問い合わせてくれる場合もあるようですが、当方で持つ先例としては特に問い合わせはありませんでした。当方で実際にこの現象が生じた交通事故は相当程度に規模の大きな事故で当面の生活費として120万円を超えて先行して内払しており、自賠責保険には既に振込の控えなどが回った状態でしたが120万円に到達していない部分も含めて保留になっておりました。少しややこしい話なのですが、自賠責保険は当然ながら発生していない損害(慰謝料は交通費などが典型的です)についてはいくら既払いを加害者側が勝手におこなっていても給付をしません。本件では生活費として仮渡金制度の上限も何もかもを飛び越えて生活費を後から生じるであろう慰謝料と調整する旨相手方と協議した上で生活費を給付しておりました。(被害者側の就労状況ですんなりと休業損害が認定できないような事情もありました)そのため、実際の通院実績がまだ積み重なっていない=慰謝料が算定されていない=いくら内払いの振り込みエビデンスを示したところで自賠責はそれを給付せず、「実際に通院の実績が積み重なって慰謝料が発生した時点で給付」とするわけです。そんな状況の中に「後遺障害慰謝料」つまり、慰謝料が発生したので保留になっていた部分が給付される、その上、120万円の超過も問題とせずに給付が行われる、つまり後遺障害慰謝料を内払いしていたという扱いになルわけです。はっきり言ってややこしいですよね。すみません・・・

後遺障害分の支払いが既に自賠責保険からなされてしまっている場合どうしようもありませんが、示談交渉の中で「ひとまず確定している分は先に支払います」という話にしてしまえば、こういった手段をとっていくことも出来るというわけです。かなり入り組んだ構造になっているため狙ってこの状況を作出して120万円超過部分を自賠責から引っ張ろうというのはかなり危険ですが、結果としてこのような状況になってしまった場合は検討してみると良いでしょう。内容としては被害者に給付される慰謝料等の総額の一部を引っ張ってきているだけなのでそれに適する事故処理状況でなければ意味が薄れますのでその点はご注意ください。

以上です。
お疲れ様でした!

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