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弁護士と交通事故 依頼すべきではないケースも...

 ※ 少し加筆修正しました。

東浦です。
 インターネット検索や広告によって交通事故→弁護士に相談、のようなイメージをお持ちの方も少なくないと思いますが、現実的には弁護士に委任すべきではない事故、あるいはタイミングというものは間違いなく存在します。事故実務者として関わってきた交通事故の中には、実際にとんでもないタイミングで弁護士を入れて、結果としてものすごい損をされている事故相手の方を何人も見てきています。これはぜひ少しでも多くの人に知っておいていただきたい。今回は交通事故と弁護士について、事故実務の視点からいくつか取り上げていきたいと思います。

・事故初動期に委任はダメ

 自分自身が負傷をしているパターンにおいて相手任意保険が正常に介入しているのであれば、少なくとも相手保険会社が治療費の支払い、一括対応を行っている間は弁護士介入を避けるべきです。弁護士は治療費の立替を行ってなんかくれませんし、保険会社によっては弁護士介入によって一括を打ち切りますから、自分で費用支払いを立て替え払いしなければならない可能性が生じます。弁護士介入後でも一括対応をしてくれる保険会社もありますが、余計なリスクを背負う必要はありません。最終的に弁護士を入れるにしても初動のタイミングはまずありえない、ということです。
 また、依頼する弁護士によっては民事の損害賠償請求訴訟に強くても交通事故に詳しくない、というケースが結構あります。交通事故で人身負傷が生じているケースではまず自賠責保険から回収をするというのが大原則になりますがそもそも自賠責保険請求をしたことがないという弁護士も中にはいますし、医療についての知識がなく適切な治療の管理ができない弁護士もいます。(そもそも前提として自賠責保険の認定や基準について精通していないと初動の治療管理はできません)このあたりは民法的な損害賠償請求よりもかなり具体的、専門的な領域ですから本来、弁護士の守備範囲でないのは当然のこと。これはそのまま弁護士に初動から事故をやらせても何らメリットがないことの理由になります。

・総損害が極めて小さい案件は弁護士に向かない

 弁護士は着手金と成功報酬で商売をしていますから、総損害が小さい案件については総じて冷淡であることが多いです。弁護士もビジネスですからこれは当然のことですね。交通事故はそもそも証拠集めなどにかかる時間の割に総損害が比較的小さい傾向がありますが、その中でも、特に総損害が極めて小さい(50万円以下ぐらいが一つの目安だと私は思っています)場合は単純に弁護士の儲けを減らしてしまう案件ということになります。すると、結果として多くの弁護士がこの手の案件を意図的に長期化させるようになります。これは最終的に訴訟になった際の遅延損害金狙い、あるいは単にやる気がないだけであったり様々なのでしょうが、私が実務で携わっている中では放置されて早3年経過、物件事故部分については時効になっているような案件もあります。(交通事故処理でそれなりに名の通っている弁護士事務所です)特に弁護士特約の場合では本当にこういう放置、塩漬けが横行していますから、依頼する場合は口コミなども参照してしっかりと、信頼できる弁護士事務所を選ぶこと、そして、弁護士にどのぐらいで自分は満足するのか、どのぐらいの時期までに解決をしたいのか等、希望をしっかりと伝えることが重要です。「慰謝料が増額」の甘い誘惑に負けていい加減な弁護士に丸投げをすると、手に入るはずだった慰謝料がいつまで経っても手に入らない! なんてことになりかねません。


ところで、この「慰謝料が増額」これはなぜ発生するのでしょうか。このカラクリを知っておくことで、自身が交通事故に直面した際に弁護士依頼すべきかどうかの判断目安になります。

・赤本とは何か

 赤本、赤い本、これは、弁護士が交通事故処理時に参照する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本のことで、毎年春先に刊行されています。一般書店に並ぶものではありませんが弁護士でなくても入手することはできます。この本の中に、「入通院慰謝料」の金額目安表があり、これがいわゆる「赤本基準」になります。交通事故の慰謝料計算には3つの基準、すなわち「自賠責保険基準」「任意保険基準」「赤本基準」があり、赤本基準が最も金額が高く設定されています。

・弁護士に依頼すれば赤本基準になるのか

 基本的には弁護士委任することによって交渉の土台は赤本基準になります。過去に赤本基準にもよらずに意味不明な基準で示談交渉をかけてきた弁護士もいましたが……(笑 かなり加害者側に優しい、リーズナブルな設定だったので即決示談しました。被害者として委任した方を泣かせる弁護士ですね。)
 なお、訴訟に至らずに和解をするケースにおいては弁護士基準の八割程度の金額で解決をすることが多いです。実務上、私がよく使用するフレーズは「弁護士基準は裁判所基準で、判決にいたるまでの手間暇、労力も加味しての金額だと考えます。訴訟に至っていない以上、満額はお支払い致しかねます」。それほど争いのない案件については弁護士も訴訟にしたところでメリットが薄い場合が多く、総損害にもよりますが訴訟に至る前に解決をさせたがる傾向にあるようです。なお、当たり前の話ですが訴訟にいたれば裁判官が関与して金額を決めますから、全て赤本通りの金額のまま、にはなりません。念の為。

・結局は着手金、成功報酬とのバランス次第

 委任をする前に弁護士とよく相談をしましょう。弁護士を頼むことでどのぐらいの費用がかかるのか。それが自賠責基準、あるいは任意保険基準で処理した時に比較してどうか、という部分が判断基準になります。(弁護士特約の場合は除く)。総損害が概ね50万円を下回っているような案件であれば、弁護士基準にしたところでそれほど大きな差にはなりませんし、報酬を持っていかれることを考えたら、要する時間、手間を考えると、私なら頼みません。損です。なお、任意保険基準についてはあまり表に出てきませんが、基本的な額は自賠責保険とそれほど大きく変わらないものの、期間によって少しずつ一日あたりの金額が減っていくイメージです。1ヶ月目は1日あたり4000円であるのが12ヶ月目ではそれが3000円になっている、ような感じで捉えてください。保険会社によっても多少異なりますし、ここにあげた数字はあくまで例です。実際には、任意保険会社が提示してきた慰謝料の総額と弁護士委任した場合の差で検討することになります。(このあたりはまた別の記事で取り上げたいと思います)
 なお、弁護士特約については私は絶対にお勧めしません。費用がかかっても、できる限り自分で弁護士を探して委任すべきです。率直に、事故実務者として申し上げますが、弁護士特約で登場した弁護士で交通事故を実務的に理解している弁護士に私は会ったことがありません。もちろん中にはいるのでしょうが……そんな不幸なくじ引き、引きたいですか? 私は嫌です。

・結論
 
 

 結局のところ、多くの弁護士が大々的に広告を打ってまで交通事故をやりたがるのは、治療を終え、慰謝料交渉段階で受任すれば大した争いもなく、単純に増加した分の慰謝料について報酬を得ることができる簡単な仕事(というイメージ)だから、なのでしょう。これなら自賠責保険の仕組みを知る必要もありません。慰謝料交渉段階に入っている場合、すでに自賠責保険は相手方任意保険会社等で取り切っているか、残余があっても慰謝料を支払った側が加害者請求をするのが通常ですから知る必要がない、ということです。その結果、あまり旨味のない仕事、例えば損害が小さい、あるいは事故初動期で証拠集めに走り回る必要がある、相手が資力なしの上に自賠責保険のみでろくに賠償を受けられない……こういったケースでは弁護士のやる気がない、または知識がない、面倒臭い、等によって塩漬けにしてしまい、結果的に無意味な長期化となってしまうわけです。これでは登場人物の全員が不幸になってしまいますね。

最後に、この記事の結論として以下三つのポイントを挙げます。

1.弁護士に頼むのは治療終了後、示談交渉の段階になってから。初動のタイミングで依頼しても良いことが一つもありません。
2.総損害が小さければ任意保険会社の提示で示談してもそれほど差はないし、手間暇を考えれば損。総じて担当する弁護士もやる気がないケースが多いです。
3.事故初動期は慌てがちですし、弁護士に依頼もしたくなりますがまずは落ち着いて。保険会社はどのようなことを言っているのか、まずは何をすべきなのか冷静になってから考えましょう。身の回りの交通事故経験がある人に聞いてみるのも良いでしょう。

3つ目の項目については私の方でもメールやコメントでの相談を受け付けますからお気軽にお寄せください。

 以上です。次回は任意保険について深めに掘っていこうと思います。
お疲れ様でした。

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