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日本最大級のNFTマーケットが最悪すぎる話

とあるNFTマーケットが、あまりにも残念な仕組みになっていたので書きます。

トークンゲートを実装したかっただけなのに

最近、友人がNFTに絡めたプロジェクトを頑張っているので、技術面での手伝いをしています。

そこで、友人が発行しているNFT(トークン)を所有する人だけがアクセスできるコンテンツを制作しようとしていました。こうしたトークンを所持しているかによって認証を行う仕組みをトークンゲートと言ったりします。

また、誰がそのNFTの所有者であるかはブロックチェーン上に刻まれています。したがって、Webアプリからはブロックチェーンの情報を参照して、アクセス者が特定のトークンを所有しているかどうかを調べるだけでよいです。

私は、一般的なNFT仕様にしたがいトークンゲートを実装していましたが、今回対象とするトークンには某日本最大級のNFTマーケットで発行されたNFTも含まれていました(長いので以降は「某NFT」と書きます)。

ここからが問題です。

所有権の情報がおかしい?

トークンゲートでは、対象となるNFTの所有者を調べ、それがアクセスした人と同じであればNFTを所有していると判断することができます。

そこで、いざ某NFTの所有者を調べてみると、友人が某NFTサービスで発行したすべてのトークンが特定のアドレスによって所有されていることになっていました。

これは明らかにおかしいです。某NFTの発行元サイトを見ると、各NFTは別々の人が所有していることになっています。

補足説明

未知の概念を出したので、いったん説明を入れておきます。
アドレスやウォレットの概念がわかっている人は読み飛ばしてよいです。

さて、ブロックチェーンでは「誰なのか」をアドレスで表します。
これは、銀行口座の口座番号のようなものだと捉えるとよいでしょう。あなたの口座番号に入っているお金はあなたのものであるように、ブロックチェーン上であなたのアドレスに紐付いている情報はあなたのものです。

では、そのアドレスと実際の人間との紐付けはどうするのでしょうか?
それは銀行口座でいうところの暗証番号に相当する仕組みがあります。各アドレスごとに秘密鍵と呼ばれる暗証番号のようなものがあり、それは基本的にはアドレスを発行した本人しか知り得ないものです。口座と暗証番号がセットになってはじめて、そのアドレスに紐づく資産が操作できる状態、つまりは所有している状態になります。

とはいえ、いくら銀行口座と暗証番号があってもATMがないとお金を預け入れたり引き出したりができません。そのあたりのことをよしなにやってくれるのがMetaMaskなどのブラウザ拡張機能として提供されるウォレットです。

上記は技術者でない人向けの説明ですので、もう少し技術的にちゃんとした説明が必要な人は以下の書籍などを参考にしてください(基本情報技術者試験くらいのレベル感で説明されています)。

トークンゲートでは、Webアプリからウォレットに問い合わせをして、アクセスする人のアドレスを知ります。

利用者の所有権がブロックチェーン上にまったく刻まれていない

某NFTサービスで発行したNFTは、ある特定のアドレスがすべて所有していることになっています(当然、運営のアドレスでしょう)。

つまりNFTをNFTたらしめる利点、ブロックチェーン上に所有者情報が刻まれているという価値を利用者が享受できない状態になっています。

一応言っておくと某NFTサービス上で「出庫」と呼ばれる特定の操作を行うと、(ブロックチェーン上での)所有権の移転を行うこともできます。
当然のようにデフォルトでは移転していない状態です。気になって調べてみると、発行されているNFTの98.8%以上が移転されていない状態でした。

理不尽に訴えられても困るので、アドレスは伏せておきます

つまり、出庫していないほとんどのユーザーに対してブロックチェーン上での担保は一切なく、運営元が勝手に所有権(に見せかけた単なるWebページ)を提供しているにすぎません。

NFTがなぜ価値を持つかといえば、ブロックチェーンという分散管理された台帳に所有情報が載るからです。
それこそが特定プラットフォーマーに依存しない、非中央集権的なシステムに支えられた非代替性(Non-Fungible)なのであって、そうでなければ本質はTwitterに投稿する普通の画像となんら変わることはありません。

日本円決済可能の大きな罠

某NFTのサービスは、仮想通貨のことなどなにも知らなくても日本円さえあればNFTを売買できると謳っています。

しかし、日本円とブロックチェーンが直接つながることはありません。

本来、ブロックチェーン上の情報は、各人が自らのアドレスと秘密鍵をもって、書き込みをするものです。それがウォレットもなしに日本円だけで決済できるカラクリは、利用者がアドレスを持たないからです。つまり中身がありません。

運営者が所有しているものを、Webサイト上で「このアカウントの人が持ってますよ」と表記するのみで、あたかもブロックチェーンで各利用者の所有権が担保されているかのような錯誤を誘起させるサービスだということです。

NFT画像とメタデータの話

ここまで話したように、NFTを非代替たらしめる主因は、ブロックチェーン上に刻まれた所有者のアドレスです。

一方で、一般の方がNFTに抱くイメージは「画像」だと思います。ちょっと詳しい方なら「動画」や「音楽データ」のNFTもあることを知っているかもしれません。

しかし驚くべきことに、ほとんどのNFTにおいて画像や音楽データそのものはブロックチェーン上に刻まれていません。なぜでしょうか。

それはあまりにもお金がかかるからです。

ブロックチェーンに情報を刻むのには、仮想通貨を支払う必要があります。画像や音楽のデータはブロックチェーンに直接刻むにはデータ量が多すぎてお金がかかりすぎるのです。

そのため、多くのNFTは画像データそのものではなく、その画像がアップロードされているURLをブロックチェーンに刻んでいます。

そうです。ブロックチェーンが担保してくれるのはURLだけで、そのURLが何を指すのかは何も担保されていません。

では、そのURLにコンテンツを配信するのは誰でしょうか?

URLを叩いて画像が返ってくるのは誰かがサーバーを運営しているからです。当然、NFTマーケットサービスなら、その運営元が画像サーバーを管理しています。

運営元がサービスを終了したら、当然サーバーも終了します。画像自体の永続性はなんら担保されていないのです。NFTをNFTたらしめる非代替性、非中央集権的に管理されるシステムとは裏腹に、画像自体は極めて中央集権的に管理されています。

これを嫌って、画像も含めてブロックチェーンに刻むNFTも当然存在します。非中央集権的なコンセプトをしっかりと体現する素晴らしいNFTです。

たとえば私が所有する西郷隆盛の家紋NFTは、その画像データ自体がブロックチェーン上にしっかりと刻まれています。

https://opensea.io/assets/ethereum/0x8a7376bb3baea9d697e078e3168189d49b9cceeb/460

もちろん、刻み込むのには相応の仮想通貨が必要です。実際に0.1ETH以上かかりました。これは日本円で1万円以上に相当する額です。ちなみに、詳細の説明は割愛しますが、ここでの0.1ETHはNFT自体の価格ではなくNFTを発行するための価格です(上で紹介した書籍を読めばその違いはわかります)。

なぜそんな馬鹿げた金額を、と思うかもしれませんが、一度刻み込めば永続性が担保されるのです。そしてブロックチェーン上に画像データがあるということは、それがブロックチェーン上のベクトルデータ資産として人類共通で利用可能になるということです。なぜならブロックチェーンの情報は誰に対してもオープンだからです。
このあたりの共通資産性については、ブロックチェーン上で動くスマートコントラクトという概念の理解が必要になります。重ねてになりますが、詳しく知りたい方は上で紹介した書籍を読んでください。

大事なことは、URLを指し示すだけのハリボテなNFTと違って、永続性と共通資産性があるということです。

そして、某NFTサービスで発行されるNFTは単にURLを指し示すだけです。

運営は、なりすまし対策として所有者を示すページのURLをNFTのメタデータとして刻んでいると言っていますが、それもサーバーがあればの話です。

なんら永続性を担保するものでないことがわかります(そもそも所有者情報がブロックチェーンに刻まれていないので、それ以前の話ですが)。

わからない人が売り、わからない人が買う

さて、某NFTサービスを利用している人たちは、これらのことを理解できるようになっているでしょうか?

詳しくない人が謳い文句だけ見たら、ブロックチェーン上に(画像自体を含む)取引情報が刻まれ、半永続的に効力を発揮する所有権を扱っているように感じるのではないでしょうか。

錯誤を感じさせる非常に残念な仕組みだと思います。また、ちゃんと理解せずに利用している人たちにも責任の一端があるでしょう。

私は、ブロックチェーン技術自体にはとても肯定的です。Ethereumのスマートコントラクトが実現しようとする非中央集権的な仕組みは非常に面白いし、パラダイムシフトを起こしうる技術だと感じています。

ただ、そうしたコンセプトをまるまるスポイルするような仕組みでNFTを売買できると謳うのはあまりにも残念です。

一応、理解している人が利用する分には「出庫」ができますが、それをした場合は謳い文句である日本円での決済は不可になります。

利用者本人が満足しているなら言うことはありませんが、私はトークンゲートを実装しようとして上記のような仕様になっていることを知り愕然としました。

web3自体は素晴らしいコンセプトだと思う一方、このような運営が多方面でまかり通っていることが残念でなりません。

とはいえ難しいことも理解できる

まあ、そうやって偉そうなことを書いている私ですが、実際にブロックチェーンを活用したWebアプリを作成しようとすると、完璧にweb3な(=真に非中央集権的な)仕組みを作るのが極めて難しいことも体感しています。

そもそも本記事で提唱しているブロックチェーンの価値が非中央集権性にこそあるとする価値観も(ある程度広くコンセンサスが取れうる主張だとは思うものの)私が勝手に言っていることです。

そもそも、今ある世の中のほとんどのものは中央集権的です。その中でわずかばかりでも非中央集権性を帯びたサービスを展開して、ちゃんとマネタイズを成功させることに価値があるのもわかります。

千里の道も一歩からですし、私の主張はかえって無謬性ばかりを追求して認知・普及フェーズをスポイルしていると見なすことも出来るかもしれません。

しかし、それでも残念な仕組みだと思ったので本記事を書くに至りました。

いずれにしても、今後NFTやそれを支えるスマートコントラクトの技術に少しでも(誤解のない)認知が広がり、人々の生活に浸透すれば私個人としては喜ばしいことこの上ありません。

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