ラッキーアイテムが一輪車だった日のこと

その日、私のラッキーアイテムは「一輪車」だった。一輪車か。めちゃくちゃがんばれば用意できないこともないけど、別にほしいわけでもないし買うほどでもあるまい――しかし私は満足だった。だって一輪車って、なんだか爽やかだし風を切って颯爽と走っていくイメージがあるし、用意はできなくてもそこそこ前向きになれるアイテムなのでは?

――というのも、職場への途中にある駅のサイネージに表示される星座占いのラッキーアイテムが、いつも微妙だからだ。「なめろう」「おたまじゃくし」「スライム」……もしかして、ぬめぬめしたものが好き? いったいこのちんまりした駅のよくわからない占いをどれだけのひとが見ているのかわからないのだが、ラッキーアイテムが「用意できなくはないけど積極的に用意しようとは思えないもの」のせいでかえって毎日チェックしてしまう。それが作戦ならば悔しい。

そんなわけでその日表示された「一輪車」というラッキーアイテムは、用意はできなくても私をいい気分にしてくれた。

さて、この記事は日記に見せかけた、推し本の推薦文である。しをん先生の「シュミじゃないんだ」が好きなので、日常生活のどうでもいい報告から上手いこと自分の伝えたい話題にもっていくというあの手法を使ってみたくてついその日のラッキーアイテムから入ってみたが、難しいねこれ。どう頭をひねっても「一輪車」から「ショコラ文庫」に着地できない。たぶん冒頭でとりあげる話題の選択をミスったのだろう。一輪車じゃなくって、もうすこし「ショコラ文庫」にもっていけそうな話題があっただろうに……。まあいいや。

そんなわけで私がこの1週間「どうかよろしく~!」とツイッターやスペースやラインやあちこちで言い続けているご本、『この世の果てでもどうかよろしく』を語らせてください!

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まず、タイトルが好きだ。私はすこし長めですこし不穏な匂いのするタイトルが好きなのだ。「堕ちた天使は死ななければならない」(刑事×モデル。攻めはかつてカルト教団で『小さな天使』と呼ばれていた受けと出会うが…)とか「僕が終わってからの話」(同級生もの。事故で命を落とした受けは、クラスメートのからだで生活するようになったが…?)とか「海辺のリゾートで殺人を」(フリーライター×会社員。攻めと受けが参加したツアーで、ツアー客のひとりが命を落とすが…)とか。つまりそういうことなんですよ。

あらすじはこんな感じです(こちらは公式のものをそのまま引用させていただきました)。

大学生の葉二はロサンゼルスに留学中、恋人である先輩の潤一と顔が瓜二つで、ダウナーな朝日と出会う。ホストファミリーと喧嘩し、追い出された朝日を見捨てられず寮に連れ帰り、想いを寄せられた葉二。潤一とうまくいってない寂しさもあり、朝日と一夜を共にしてしまう。その後、潤一を追って就職するが望まない葬儀部門に配属された葉二は、 住職見習いになっていた朝日と再会する。いまだに葉二を好きな彼に心が揺れて…。

再会ものです。最高やね。

とりあえずまず、試し読みを読んできてほしい。試し読みを読んで買うと決めたら、そのまま本屋さんへどうぞ。試し読みを読んだ上で、「このあとどーなんの?」と疑問をもつならこの記事に戻ってきてください。下の画像クリックで飛べるよ。行ってらっしゃいませ。

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――はい、おかえりなさいませ!
いかがでしたでしょうか? 冒頭だけで最高じゃないですか?
私は、葉二がプレゼンテーションの最中にばかにされたときに、朝日がかばってくれるシーンがだーいすき。長くなるので省きますが、このあたりが私の性癖にどストライクで……この萌えをしゃべりだすと前提が超~長くなるから省くけど、そのうちスペースで語りたいね。

さてお話の主人公は、大学四年生の夏休みに語学研修に行っちゃうようなぽやぽや(だけどまじめ)な葉二。そしてお相手は、喧嘩っ早いけど一途で葉二のために星をも落としてしまう作者さまちるちるインタビューより)朝日。
試し読みのその後をうっすらネタバレしてしまうと、ふたりは体を重ねてしまうものの、最中に葉二が「潤さん」と口にしていたために、実は葉二に彼氏がいるというのを朝日は知ることになります(最高か?)。友情は崩れ、結局うやむやになったまま葉二は帰国することに――季節めぐって葉二が社会人になったところからお話は再スタートします! 再会ものかよ大好き~~~!

葉二がうっかり口にしちゃった「潤さん」ご紹介させてください。私がこの本を読んだとたんに、彼は以下のランキングに君臨しました。

・この当て馬が好き2021 1位(暫定)
・このキャラのスピンオフが読みたい2021 1位(暫定)
・この受けと当て馬の関係が好き2021 1位(暫定)
・この失恋が美しい2021 1位(暫定)

この本における私の最推しです。私がこの1週間「この世の果てでもどうかよろしくをどうかよろしくお願いします!」としか言ってないのは、ひとえに潤さんのスピンオフが読みたいからです。たくさん売れてスピンオフを出してもらわないと困る。私が。

もちろん攻めの朝日と受けの葉二もとーっても魅力的です! でも彼らの魅力は試し読みで伝わったと思うので、試し読みに出てこなかった当て馬・潤さんを語らせてください!
まずは作者さまのちるちるインタビューを引用させていただく形で、潤さんを紹介します。

一応葉二の恋人ではあるけれど、全くうまくいっていない共依存の関係です。潤一はコミュ障の天才です。(作者さまちるちるインタビューより)

私は鍛えられたオタクなので「共依存」という3文字で白米を食べることができます。あと「コミュ障の天才」世界でいちばん好きですありがとう。

葉二は自分の持ち得なかった才能の権化である潤一に振り向かれると、手の届かなかった世界から認められたような気になります。
潤一は葉二に追いかけられると自分がうまく付き合えない「世間」から受け入れられたような気になります。(作者さまちるちるインタビューより)

きょ、きょういぞ~~~~~~~~~~~~ん!!!!
自分のなかに存在しないものを相手のなかに見出すことでほっとしてしまう、閉じた世界で生きているふたりじゃん最高じゃん!!
受けと当て馬は狭い世界に閉じこもって満足していて(そしてそれは愛のようで愛ではなく)、周囲に疑問を示されても知ったことかくらいでいたのに、攻めが現れたことで受けの人生観&ふたりの関係が崩されていく話がだーいすき。そしてそういう話は、スピンオフで当て馬がまた別のひとと幸せになってほしいやん!? だから潤さんのスピンオフ出してください。
つまりほら、『横顔と虹彩』の栄と深の関係性および、スピンオフ『ふさいで』で栄がしたぴとくっつくというあの流れが大好きなんですよ。このパターンを100万通り読みたいんですよ。

冒頭では葉二が一方的に潤さん好き好き~とハートを飛ばしている雰囲気ですが、実は潤さんも葉二にだーいぶ依存しています。そんな潤さんにばったり鉢合わせてしまいマウントをとられても、動揺を見せず立ち向かっていく朝日。っひゅ~かっこいい! さすがふたりの関係を変えるきっかけになった攻め様だ! 三人の関係が刻々と変化していく後半は、三ページに一回くらい「っしゃ! これは私の読みたかった話!」と立ち上がりながら読みました。祭だ、祭だ、背中に花笠! 最高かよ~~~~~~~~~!

待って、いまなんとか冒頭の「ラッキーアイテムが一輪車」を伏線という形で回収できないか考えながらキーボード叩いてるけど、何も思いつかない。作家志望たるものここできれいに話を「一輪車」にもっていきたい……! もうすこし頭ひねりながら続きを書きます。

あのね、これ後半がまじで最高だから。私の好きなセリフのオンパレード。ほら、好きなセリフに貼ってある付箋、後半に偏ってるっしょ。

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胸ギュンなセリフが山のようにあり、引用したいくらいだけど、著作権とかねほらいろいろあるからね。本当に私、この好きなセリフ朗読会を開きたいくらいに好きなセリフがあるので紹介できないの本当に残念なんだけど……。221ページ14行目から222ページ2行目なんて、先日みなとさんとオンライン飲み会しながらふたりで何度も何度も朗読したくらい好きなんやから。

潤さんは当て馬なのでもちろん失恋するんですが、この失恋が本当に美しくて……。美しく切なく、子どものような不器用さと、過去をなかったことにして一からやり直すことはできないという大人特有の後悔、うわー最高の失恋! このお話のスピンオフが出るまで「ギブ・ミー・スピンオフ!」って心交社の周囲をうろついてしまいそうなので、なるべく早くスピンオフを読ませてください。

あと私はかっこいい受けが好きなので、朝日の実家のお寺がやばくなったとき、葉二が超がんばるところが最高でした。私は攻めを守ってやる助けてやるくらいの受けが大好きなんだ。葉二はぽやぽやゆるんとしているように見えて、まじめでがんばり屋さんだから軽率に推してしまう……(あ、オタク文法みたいな言い方してしもた)。朝日は35ページ3行目のセリフ(これは試し読み内でチェックできるよ!)が最高すぎて、リア恋気味枠で推しています。好きだ……。

……だめだ、「ラッキーアイテムが一輪車」回収できんわ! 最初から本文に入ればよかったのにどうして日記風に始めてしまったんだろう。しをん先生の真似をしたかったからだが。どうしてしをん先生の真似ができると思ったんだろう――……。

つまりこの記事のテーマおよびメッセージは『この世の果てでもどうかよろしく』を読んでください、そしてスピンオフ読みたいな~ってわめいてくれるとスピンオフ読める確率が高まって私の寿命が延びるのでどうかよろしくお願いします、ということです。
なんか美しい結びを考えるのもしんどくなってきた。ぶった切りになりますがこのあたりで終わります。この世の果てでもどうかよろしくをどうかよろしくお願いします!

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