良い看護を提供するためにも、自分自身が元気でいたい|アサミ【連載・田口ひづるの看護観が聞きたい!/第4回】
日々奮闘する先輩ナースが、どのような”想い”を持って看護しているのかを掘り下げる企画「田口ひづるの看護観が聞きたい!」。
今回の話し手は、11年目ナースのアサミさんです。
アサミさんは新卒で小児専門病院に入職し、約9年間にわたり小児看護に携わってきました。 その後、子育てと仕事の両立を図るため、一般病院の消化器内科病棟に転職。現在は成人看護の世界で活躍されています。
そんなアサミさんは、良い看護を提供するためにも、自分自身が元気でいたいと話します。力の抜きどころを押さえて、ストレスを溜め込まないことがポイントだそう。彼女がこの考えに至ったのは、子育てがきっかけでした。
そこで今回は、アサミさんが大切にしている「自分自身への気遣い」について取材を実施。小児看護から成人看護に転向したきっかけや、当時抱えていた不安についてもお話しを伺いました。
<聞き手=田口ひづる>
小児実習での日々が忘れられずに
――本日はよろしくお願いします。まずは、小児専門病院に入職されたきっかけを教えてください。
アサミ:小児専門病院で看護実習をした際、担当の指導者さんに強く憧れたのがきっかけです。その指導者さんは看護師歴10年以上のベテランで、子どもとそのご家族に対して常に優しく接していました。積極的にベッドサイドに向かいケアを提供しており、テキパキと働く姿がとてもかっこよかったです。学生にも優しく、どんな意見を出しても必ず肯定してくれました。
実は、それまで私は子どもに苦手意識がありました。子どもの泣き声を聞くと戸惑ってしまい、上手く関われた試しがなかったからです。ですが、実習中に指導者さんから「赤ちゃんを抱っこしてみる?」と声をかけられ、実際に抱っこしてみると、こどもが本当に可愛く感じました。おそらく、指導者さんがそばにいるという安心感のおかげだと思います。それまで苦手だったはずが、その時を機に子どもが大好きになったのです。
その後、他の領域の実習も経験しましたが、小児実習での日々が忘れられませんでした。憧れの指導者さんと一緒に働きたいという思いが強く、同じ小児専門病院に入職することを決めました。
――実際に入職されてからは、どのような毎日を過ごしましたか。
アサミ:子育て経験がなく、お母さんの気持ちを理解するのが難しかったため、毎日苦労していました。特に、子どもの長期入院で強いストレスを抱えているお母さんは、看護師に強い口調で接してくることも多く、対応が難しかったです。一方で、子どもがプレイルームで遊ぶ姿を見ると、本当に癒されました。どの子も、とにかく無条件に可愛くて毎日頑張れました。入職のきっかけとなった指導者さんと一緒に働けたことも嬉しかったです。実習でお世話になった時と比べて少し厳しかったですが、相変わらずかっこよくて憧れの存在でした。
小児専門病院での日々は本当に充実しており「ずっとここで頑張りたい」と考えていました。
大好きだった小児科を離れ、成人看護の世界へ
――小児専門病院で約9年間働いた後、一般病院に転職されましたが、そのきっかけを教えてください。
アサミ:息子が3歳になり夜勤に復帰しようと考えたとき、預け先がなく転職することになりました。以前勤めていた小児専門病院の託児所は、夜勤中に子どもを預けられなかったのです。そのため、24時間体制の託児所がある病院を探しており、その結果、現在の職場に行き着いたという経緯です。正直なところ、小児科を離れたくない気持ちが強く、迷いも大きかったです。ですが、将来的にはクリニックで働きたいと考えていたため、成人看護の経験を積むためにも、ちょうど良い機会だと思い転職することを決めました。
現在勤める病院には、内科を希望して入職しました。成人看護に携わるのが初めてだったので、少しでも経験のある診療科で働きたいと考えたからです。その結果、消化器内科病棟に配属されることになり、とても安心したことを覚えています。
――成人看護に挑戦するにあたって不安はありませんでしたか。
アサミ:もちろんありました。特に、技術面での不安が大きかったです。小児専門病院では採血やルート確保を行う機会がほとんどありません。ですので、それらの手技をちゃんと習得できるのかが不安でした。また、成人領域は未経験でしたが、看護師としては約10年のキャリアがあったため、基礎から丁寧に指導してもらえるのか心配でした。即戦力になれず、周囲に迷惑をかけてしまうのではないかという懸念も強かったです。
とはいえ、新人の心構えで一から学ぼうという気持ちが強く、不思議と怖さはありませんでした。「未知の世界に飛び込むのだから、分からないことがあって当然だ」というスタンスで初出勤に臨んだことを覚えています。その結果、入職後に指導を受けることはありましたが、精神的なつらさはほとんどありませんでした。スタッフ全員が親切で、丁寧に教えてくれたことも大きな支えになったと思います。新人看護師時代のような厳しさはなく、基本的には楽しみながら学ぶことができました。自分に過度な期待をせず、うまく気持ちを切り替えられたのが良かったのだと思います。
――消化器内科病棟に配属されてからは、どのような毎日を過ごされていますか。
アサミ:病棟は常に忙しく、多い時には内視鏡検査が1日に15件入ることもあります。80〜90歳の高齢者がほとんどで、認知症を患う方も多いため、転倒やせん妄、排泄介助などが大変です。どの病院でも同じかと思いますが、昼休憩がとれないことも多くあります。
――小児領域から成人領域に看護の場を移すにあたり、苦労したことはありますか。
アサミ:入職後に一番苦労した点は、やはり看護対象の変化です。小児と成人では、バイタルサイン値や検査値、疾患の種類など何もかもが異なるため、慣れるまで大変でした。認知症患者さんを看護するのも初めてであり、突発的な行動に対応できず苦労する日も多かったです。
一方、小児科での経験を活かせる部分も意外とあるものだと実感しました。重度障害児を中心に看護していたこともあり、モニター管理や観察力が長けていると褒められることが多かったです。
良い看護を提供するためにも、自分自身が元気でいたい
――現在の病院に転職してから約1年が経ちますが、日々の看護で大切にしていることはありますか。
アサミ:正直なところ、仕事を覚えることに精一杯で、患者さんに対する看護観はまだ曖昧な状態です。ただ、これからも無理なく看護師を続けられるよう、力の抜きどころを押さえて、ストレスを溜め込まないようには努めています。例えば、他のスタッフからの助言で納得できるものは受け入れますが、自分の考えと異なる意見については、真に受けすぎないよう注意しています。というのも、全ての意見に真剣に向き合いすぎると、すぐに疲弊してしまうからです。このような姿勢で日々のストレスを軽減することで、長期的に無理なく看護師を続けられると考えています。
そして、こうした自分への気遣いが、最終的には患者さんのためにもなると信じています。質の高い看護を提供し続けるためには、私たち看護師自身が心身ともに元気でいることが大切だと思うからです。
――力の抜きどころを押さえて、ストレスを溜め込まないことが大切なのですね。その考えを持つに至ったきっかけなどはありますか。
アサミ:私はもともと真面目すぎる性格で、先輩からの助言を全て真に受けていました。いただいた助言を反芻し、次の出勤日までには必ず実践できる状態に落とし込んでいたのです。帰宅途中はもちろん、布団の中でも思考を巡らせ、自分なりの解釈が見つかるまで一切妥協しませんでした。当時の私にとってはそれが最善の方法だったので、悪かったとは思いません。ですが、今思えば、その姿勢がつらさの一因になっていたと感じます。
そんな私の考え方が180度変わったのは、子育てを始めてからです。初めての子育ては予想以上に大変で、思い通りにいかないことばかりでした。子どもが目覚めてから眠りにつくまで、何一つ計画通りにはいきません。そんな毎日を過ごすうちに、完璧を求め続けることが自分を追い詰めてしまうと気づいたのです。半ば強制的でしたが、子育てを経験したおかげで「力を抜く大切さ」を学ぶことができました。ですので、この学びを仕事にも生かし、今の姿勢を心がけるようになったのです。
――子育てがきっかけだったのですね。今後の目標などはありますか。
アサミ:今の目標は、早く職場に馴染み、即戦力として活躍することです。そして、プライベートとの両立を図りながら、看護師として細く長く働き続けたいと考えています。
実は、子どもが小学校に入学するタイミングで転職することも視野に入れています。そのため、どのような職場でも対応できる実力を今のうちから身につけておきたいです。幅広く経験を積んで、看護師としての専門性を高めていくことが今後の課題だと認識しています。
自分に合ったリフレッシュ法を2つ持つことが大切
――それでは最後の質問です。後輩看護師に伝えたいことはありますか。
アサミ:リフレッシュできる方法を2つは持っておくべき、と伝えたいです。私は新人時代、ストレスを上手く発散できずに苦しみました。というのも、「自分なりの答えが見つかるまで考え続けること」以外のストレス解消法を持っていなかったからです。ですので、一年目がつらく感じる場合は、自分に合ったリフレッシュ法を少なくとも2つは見つけてほしいと思います。
仲の良い先輩と食事にいったり、趣味に没頭したりするなど、どんな方法でも構いません。それが日々のストレス軽減につながり、長く働き続けるための助けになると考えています。
――自分に合うリフレッシュ法が見つからない場合は、どうすれば良いでしょうか。
アサミ:とにかく毎日出勤することが大切です。つらいと感じていても、まずは職場に足を運んでみてください。実際に職場に行ってみると、予想していたほどつらくない日も多くあるものです。私の経験から言えるのは、現場で積極的に動ける新人ほど成長が早いということです。そのため、まずは勉強よりも実践に重点を置き、業務の流れを体で覚えることに集中してください。勉強は後回しでも構いません。少しずつ余裕が出てきた時点で、勉強を進めていけばよいのです。そうすれば、いつの間にかつらい時期を乗り越えられると思います。実際に私もそうだったので。
ただし、体調を崩すほどつらい場合は無理をする必要はありません。そのような状況であれば、休養を取るのも大切だと思います。
――職場に足を運んでさえいれば、自然とつらい時期も乗り越えられるということですね。その言葉を聞くと、なんだか勇気が湧いてきます。本日はたくさんお話をしてくださり、ありがとうございました!
〈取材・文・撮影=田口ひづる〉
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